87 / 328
第二百七話 酒は飲んでも飲まれるな
しおりを挟む
依頼で無くわざわざ試練というからには生半可な魔では無いのだろう、普通ならご遠慮願いたいところだ。
だが果たせば雪月家に食い込める。
それにだ、定番の展開だが強大な魔を前にして技極まる時雨の旋律が見れるかもしれない。ただでさえ美しく俺の魂を奪った時雨の旋律が、もしあれ以上の輝きを魅せるというなら、命を天秤に乗せて余裕で傾く。
参加しないという選択肢は俺に残っていない。
あるは命を失わないように知力を尽くして準備をすることだけだ。
なかなかに面白いかな我が人生。
「おにーさん」
思考に一区切り着き、このまま帰ってもいいのではないだろうかと思い始めた俺に声が掛かった。
開けられた襖から顔をひょこっと出した顔からツインテールが揺れている。中学生くらいで人懐っこい笑みを浮かべている。
「君は誰だい?」
「私は雪月家期待の次女千雨、よろしくね」
胸を張りドヤ顔で自己紹介する、奥床しい姉の時雨とは対照的な自己紹介。幼い故か、次女だからか、姉の時雨とは違い活発な性格のようだな。
時雨の妹か、やはりいたのか。まあ先程の呉さんの話しぶりから血を残すのが命題なら当然の結果か。
彼女も旋律士なのだろうか? もしそうなら一度見てみたい気がする。
「俺は果無 迫。しがない大学生兼一等退魔官だ。
よろしくな」
一応俺の本分は学生で、一等退魔官を生涯の職にする気はない。例え周りの期待は逆だろうが変える気はない。必ず卒業し、上手くいけば修士博士とキャリアを積むつもりだ。
「ふ~ん、インテリって感じね」
千雨は意味ありげな顔で俺を見てくる。
人の顔をじろじろ見るとは不躾と言わざる得ないが、まあ中学生相手に怒るのも大人げない。見るというなら逆に此方も見させて貰う。
顔立ちは時雨を少し幼くした感じだが、ツインテールにまとめた髪は時雨と違い栗色でふわふわと柔らかそうだった。
「なになに、私の顔見詰めちゃって。ほれちゃった?」
「時雨が居なかったら惚れていたかもな」
「このこの~惚気てくれますな。
その様子じゃおねーちゃんで無くておにーさんの方が惚れたな」
馬鹿っぽいけど意外と鋭い娘なのか。
「お父さんには内緒だよ」
「どうやっておねーちゃんを落としたの? お姉ちゃんのあんな顔始めてみたよ」
「あんな顔?」
「おねえちゃんってどっか優等生ぶっているからあんな人に甘えた顔普通見せないよ。
そういった意味でもおにーさん、しがないってことはないね」
あれが甘えた顔? あれは「あんたなんか大嫌いの顔」だろ。まあ、優しい時雨が俺なら何しても許されると思っている点では甘えていると言えば言えるか。
「その言葉で頑張れそうだ。
ちょうどいい、雪月家団欒に招待されているんだ案内してくれないか?」
「いいわよ」
千雨は立ち上がった俺に腕を絡ませてくる。
「姉と違って積極的だな」
「そりゃもちろん、優良物件には唾付けとかないと。おねーちゃんに振られたら私が付き合ってあげようか?」
小悪魔が上目遣いで此方を見てくる。並みの男なら転ぶ可愛さに下手に承諾したら直ぐさま五月雨さんに言いつけそうな怖さを感じてしまう。
「そりゃ光栄だが、そんな事したら今度こそ呉さんに殺されそうだ」
「まったまた。まあ取り敢えず私にも媚びを売っておくと色々お得かもよ」
「具体的には?」
「おねーちゃんの秘密情報漏らしちゃうかも」
「ランチぐらいでいいのか?」
敵の情報は多い方がいい。ランチ程度なら安い出費だ。
「ふふ~ん、期待してます」
それでいいとは言わない狡猾さ。時雨より気が合うかもな。
「当ご期待」
「はいはい、じゃあそろそろ行きましょうか。
それとこれは未来の妹からのアドバイス。お父さん以外とお酒好きよ」
「それは有力情報だ。本当だったら何か礼をするよ」
「おにーさん慎重ね。でもそれぐらいでないとね」
ここで本当とも嘘とも言わない。知らなければ普通に対応出来たのに、俺はこの娘に翻弄されているな。
「君、そうやって同級生を手玉に取っちゃ駄目だよ」
「おにーさんぶるのはまだ早いわよ」
俺は千雨に連れられて雪月家団欒という接待団欒をする嵌めになるのだった。
「では、果無君気を付けて帰りなさい」
「はい。送って頂きありがとうございます」
足下が少しふわふわする。千雨の情報は意外と本当だった。酒好きの性か嫌いな相手でも晩酌に付き合ってやると少し胸襟を開いてくれる。女だらけの家で少し肩身が狭いとか愚痴も漏らしていたし。
団欒が終わり流石にお泊まりとまでは行かなかったが俺は雪月家の車でアパートまで送って貰えることになった。
一時家に火を付けて逃亡すら考えていた時に比べれば格段の待遇アップだ。
「では、頼むぞ雲霧」
「はい、お任せ下さい旦那様」
最初に車の運転をしていた青年は雪月家執事で雲霧というらしい。
鋭利な顔付きと180近い長身の青年で執事などしているのがもったい華があり、モデルでもすれば人気が出そうだ。
車に乗り込むと発進時のGなど感じないほどにスムーズに車は動きだす。後部座席も行きは感じる余裕は無かったが、こうして落ち着いているとその包み込んでくる心地良さが高級車を感じさせてくれる。
柄にも無く少し酒を飲み過ぎたこともあり夢心地で少しうとうとする。
明日の仕事までに酔いは抜けるだろうか。
装備も用意しないとと。
波柴への報告も・・・。
「着きましたよ」
雲隠れの声でたゆたっていた意識が覚醒した。
「そうか、ありがとう」
この俺が知らない奴の傍で意識を失いそうになるなんて飲み過ぎたかと、少しバツが悪いのを誤魔化すように未だ少しぼーとする頭でドアを開け外に出ると、緑の香り混じる清涼な風が体に染みる。
「ん!?」
都心で吹くはずのない清涼な風に覚醒すれば、そこはアパートのある住宅街では無く木々が生い茂る森の中であった。
だが果たせば雪月家に食い込める。
それにだ、定番の展開だが強大な魔を前にして技極まる時雨の旋律が見れるかもしれない。ただでさえ美しく俺の魂を奪った時雨の旋律が、もしあれ以上の輝きを魅せるというなら、命を天秤に乗せて余裕で傾く。
参加しないという選択肢は俺に残っていない。
あるは命を失わないように知力を尽くして準備をすることだけだ。
なかなかに面白いかな我が人生。
「おにーさん」
思考に一区切り着き、このまま帰ってもいいのではないだろうかと思い始めた俺に声が掛かった。
開けられた襖から顔をひょこっと出した顔からツインテールが揺れている。中学生くらいで人懐っこい笑みを浮かべている。
「君は誰だい?」
「私は雪月家期待の次女千雨、よろしくね」
胸を張りドヤ顔で自己紹介する、奥床しい姉の時雨とは対照的な自己紹介。幼い故か、次女だからか、姉の時雨とは違い活発な性格のようだな。
時雨の妹か、やはりいたのか。まあ先程の呉さんの話しぶりから血を残すのが命題なら当然の結果か。
彼女も旋律士なのだろうか? もしそうなら一度見てみたい気がする。
「俺は果無 迫。しがない大学生兼一等退魔官だ。
よろしくな」
一応俺の本分は学生で、一等退魔官を生涯の職にする気はない。例え周りの期待は逆だろうが変える気はない。必ず卒業し、上手くいけば修士博士とキャリアを積むつもりだ。
「ふ~ん、インテリって感じね」
千雨は意味ありげな顔で俺を見てくる。
人の顔をじろじろ見るとは不躾と言わざる得ないが、まあ中学生相手に怒るのも大人げない。見るというなら逆に此方も見させて貰う。
顔立ちは時雨を少し幼くした感じだが、ツインテールにまとめた髪は時雨と違い栗色でふわふわと柔らかそうだった。
「なになに、私の顔見詰めちゃって。ほれちゃった?」
「時雨が居なかったら惚れていたかもな」
「このこの~惚気てくれますな。
その様子じゃおねーちゃんで無くておにーさんの方が惚れたな」
馬鹿っぽいけど意外と鋭い娘なのか。
「お父さんには内緒だよ」
「どうやっておねーちゃんを落としたの? お姉ちゃんのあんな顔始めてみたよ」
「あんな顔?」
「おねえちゃんってどっか優等生ぶっているからあんな人に甘えた顔普通見せないよ。
そういった意味でもおにーさん、しがないってことはないね」
あれが甘えた顔? あれは「あんたなんか大嫌いの顔」だろ。まあ、優しい時雨が俺なら何しても許されると思っている点では甘えていると言えば言えるか。
「その言葉で頑張れそうだ。
ちょうどいい、雪月家団欒に招待されているんだ案内してくれないか?」
「いいわよ」
千雨は立ち上がった俺に腕を絡ませてくる。
「姉と違って積極的だな」
「そりゃもちろん、優良物件には唾付けとかないと。おねーちゃんに振られたら私が付き合ってあげようか?」
小悪魔が上目遣いで此方を見てくる。並みの男なら転ぶ可愛さに下手に承諾したら直ぐさま五月雨さんに言いつけそうな怖さを感じてしまう。
「そりゃ光栄だが、そんな事したら今度こそ呉さんに殺されそうだ」
「まったまた。まあ取り敢えず私にも媚びを売っておくと色々お得かもよ」
「具体的には?」
「おねーちゃんの秘密情報漏らしちゃうかも」
「ランチぐらいでいいのか?」
敵の情報は多い方がいい。ランチ程度なら安い出費だ。
「ふふ~ん、期待してます」
それでいいとは言わない狡猾さ。時雨より気が合うかもな。
「当ご期待」
「はいはい、じゃあそろそろ行きましょうか。
それとこれは未来の妹からのアドバイス。お父さん以外とお酒好きよ」
「それは有力情報だ。本当だったら何か礼をするよ」
「おにーさん慎重ね。でもそれぐらいでないとね」
ここで本当とも嘘とも言わない。知らなければ普通に対応出来たのに、俺はこの娘に翻弄されているな。
「君、そうやって同級生を手玉に取っちゃ駄目だよ」
「おにーさんぶるのはまだ早いわよ」
俺は千雨に連れられて雪月家団欒という接待団欒をする嵌めになるのだった。
「では、果無君気を付けて帰りなさい」
「はい。送って頂きありがとうございます」
足下が少しふわふわする。千雨の情報は意外と本当だった。酒好きの性か嫌いな相手でも晩酌に付き合ってやると少し胸襟を開いてくれる。女だらけの家で少し肩身が狭いとか愚痴も漏らしていたし。
団欒が終わり流石にお泊まりとまでは行かなかったが俺は雪月家の車でアパートまで送って貰えることになった。
一時家に火を付けて逃亡すら考えていた時に比べれば格段の待遇アップだ。
「では、頼むぞ雲霧」
「はい、お任せ下さい旦那様」
最初に車の運転をしていた青年は雪月家執事で雲霧というらしい。
鋭利な顔付きと180近い長身の青年で執事などしているのがもったい華があり、モデルでもすれば人気が出そうだ。
車に乗り込むと発進時のGなど感じないほどにスムーズに車は動きだす。後部座席も行きは感じる余裕は無かったが、こうして落ち着いているとその包み込んでくる心地良さが高級車を感じさせてくれる。
柄にも無く少し酒を飲み過ぎたこともあり夢心地で少しうとうとする。
明日の仕事までに酔いは抜けるだろうか。
装備も用意しないとと。
波柴への報告も・・・。
「着きましたよ」
雲隠れの声でたゆたっていた意識が覚醒した。
「そうか、ありがとう」
この俺が知らない奴の傍で意識を失いそうになるなんて飲み過ぎたかと、少しバツが悪いのを誤魔化すように未だ少しぼーとする頭でドアを開け外に出ると、緑の香り混じる清涼な風が体に染みる。
「ん!?」
都心で吹くはずのない清涼な風に覚醒すれば、そこはアパートのある住宅街では無く木々が生い茂る森の中であった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜
蜂峰 文助
ホラー
※注意!
この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!!
『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎
https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398
上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。
――以下、今作あらすじ――
『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』
ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。
条件達成の為、動き始める怜達だったが……
ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。
彼らの目的は――美永姫美の処分。
そして……遂に、『王』が動き出す――
次の敵は『十丿霊王』の一体だ。
恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる!
果たして……美永姫美の運命は?
『霊王討伐編』――開幕!
Dark Night Princess
べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る
かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ
突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する
ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか
現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語
ホラー大賞エントリー作品です
知覚変動APP-DL可能な18のコンテンツ-
塔野とぢる
ホラー
大学構内の地下室に放置されていた奇妙なスマートフォン。ソレに内蔵されたアプリは「僕にとっての」世界を改変する力を持っていた。あらゆる人類の知覚と、森羅万象の原理原則。迂闊にも世界の管理者権限を得てしまった僕は、巨大な思惑に巻き込まれていく。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる