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無限エスカレーター
第百六十三話 裏切りと契約
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「はっははははははははははははははははっ
素晴らしい」
俺の高笑いが澄み渡る空に広がっていく。
半丁博打に勝ったのか負けたのか。
俺は上空数千メートルに放り出されていた。
眼下には関東圏が広がる。
死の覚悟し己の運の無さに苦笑した拍子に体勢が崩れてくるっと反転して天を見た。
俺は魅了され心を奪われた。
雲一つ無く何処までも広がる蒼。
奇跡とも言えるパーフェクトブルー。
この蒼の空を俺はこの身一つで飛んでいる。
命綱は無い。
だが地上にある煩わしく俺を縛る者も物もなく。
澄み渡る蒼穹
心は遮る物無く蒼い空間に一体化するように広がっていき
加速していく飛翔
時空を断ち切るスピードが際限なく上がっていく
今なら俺は体の呪縛を脱ぎ捨て時の呪縛すら振り切れる。
ああっ
圧倒的解放
圧倒的自由
俺は魅了され心を全て強奪された。
こんなの命綱があっては感じられない
この身一つで飛んで初めて味わえる
死に迫る命こそ最高のスパイス
普通の者なら命を失われる未来に耐えきれずに気絶する
だが俺の壊れた心は耐えきれる
命を代償にした開放感に酔いしれる
俺だけが感じることが出来るエクスタシー
燃え尽きる蝋燭の炎の如く地上に激突する僅かであり限りなく無限に感じる時間
心ゆくまで満喫しよう
「ひゃっほう」
生まれて初めてかも知れない心からの歓声を上げて
蒼とスピードと死のブレンドされた快楽に興奮が絶頂しっぱなしだ。
そんな人生最高の時間
こんな時こそ
こんな空だというのに邪魔者が表れる。
「捕まえたっ」
背中に柔らかいものを押し当てられて俺は抱きしめられる。
ちっ、誰だと怒りに振り返れば、六本木と燦だった。
「ちょっと、この状況下で何笑っているのよ。早く何とかしないと後数分でぺちゃんこになっちゃうのよ。
いやよいやよ、いい男に抱かれたいしおいし~い物だって食べたいのよ。
早く何とかしなさいよ」
いつもの六本木、この状況下でも変わらないとはこの女も大したもんだ。
「俗物だな。それよりも今この瞬間にしか味わえない絶頂を満喫しようぜ」
俺の心からの親切で誘う。
なのにこの女訳が分からないという顔を返してくる。
「何言ってんのよ。ねえ、しっかりしてよ。
死にたくない死にたくない。処女のまま死にたくない~」
今聞き捨てならない台詞を聞いた気がしたが。
まあどうでもいい、興味ない。
今このとき、この圧倒的自由以上に俺を惹き付けるものなど無い。
「いつものように私を盾にしてでも自分だけは助かろうとする冷血さは何処行ったのよ。
駆け引き駆け引きなの?
なら、もうどんいきましょ。私実は処女なの~、ついこの間まで堅苦しい家にいて、男と付き合うどころじゃなかったのよ。やっとの思いで飛び出して、これからいい男捕まえて人生楽しもうってとこなの~。だから処女よ。ね、私の初めて上げるから。好きなようにしていいから」
なりふり構わない女は、今この場で差し出せる最大の価値を駆け引き無しで提示してきた。
だが心はぴくりとも動かない。
「所詮、そんなの一瞬の快楽だろ。それよりこの一瞬の開放感こそ味わいたい」
「馬鹿~、信じていたのに裏切るの」
六本木は涙目で俺に訴える。
裏切り
裏切りは俺が最も唾棄して忌避すべき言葉。
だが俺がいつ六本木を裏切った?
記憶に無いんだが。
「兄さん、自分だけ楽になるつもりですか。
私との契約を果たして下さい」
燦は真摯な瞳で俺を弾劾する。
契約
契約は俺が最も尊重して敬愛する言葉
そうか確かに燦とは契約を結んでいたか
俺はこのままだと六本木を裏切って燦との契約を破ったことになるのか
心残りは無かったが、心が壊れた日に立てた誓いを二つも破ることになるのか。
己を曲げて死ぬ。
そいつは心残りになってしまうな。
興が冷めた。
このままでは真の解放は得られない、心の整理が必要か。
溢れ出ていた脳内物質を引っ込め、脳を冷やしこの場で出来る最善を尽くす。
「実はもてない六本木」
「なあ~によ」
涙と鼻水で汚れた顔を俺に向けてくる。
「みっともない泣き顔を拭け、抱く気も失せる」
「誰が泣かしたのよ」
「それは悪かったな。だが俺は嫌な奴なんだろ」
仕方ないとばかりに六本木の頭を撫でてやる。
「でも、仕事はキッチリ果たす奴でしょ。
あんた助かるって私に言ったじゃない、約束果たしなさいよ」
知るか馬鹿と鬱陶しいが、俺のあんな言葉を本気で信じてくれていたのか。
可愛い女と笑ってやろう。
これじゃあ最後に見たこの女の顔が泣き顔と心に残る。
此奴には脳天気に笑っているのが良く似合う。
その顔なら心に残らない自然と消えていく。
「分かったよ。六本木、旋律の力はまだ残っているか?」
「大丈夫、残っているわ」
手に握る旋律具を確かめ六本木は心強く答える。
「燦、その足俺にくれるか?」
「兄さんが欲しいというなら」
「ならその足貰う」
こんな装備の無い状態で地上何千メートルに放り出された時点で裏切るもクソも無く本来なら詰みなんだがな。足掻くだけ無駄だと小学生でも分かる。
なのに女二人、俺に期待する。これが柵か、鬱陶しくも嬉しくもあり。
「お前達が俺に期待するなら答えてやる。
俺達三人ならこの程度の状況大したことない。
ユリ、燦、行くぞ」
「呼び捨て~でもいいわ。
了解よ、セリ」
「はい、兄さん。
私は兄さんを選んだ自分の目を信じています」
確率的には五分五分、それでも部下に気持ち踊って貰うのがいい上官。
いい部下は気持ちよく踊って返事をくれた。
全ての準備を終え。
ぐんぐん地上が迫る。
微調に次ぐ微調で軌道修正を重ね、狙ったビルの屋上を捉える。
今しか無い。
「ユリ。
ここだ、鞭の届く先を破壊しろっ」
「まっかせなさい」
ユリは鞭を振りかぶり、達人の技で前方の空気に向かって技を放った。
鞭とは剣や槍より殺傷能力が劣り、扱いが難しい。
だが、ひとたび達人が扱えばその先端は音速を超えるという。
鞭が届く落ち行く前方には何も無い、対象物が無ければユリの旋律も炸裂はしない。
だが元々の落下速度に加え、達人であるユリが前方に鞭を放てば。
鞭は音速の壁にぶち当たる。
旋律の力が込められた鞭の先端は空気の壁にぶつかり、技が炸裂する。
何も無い空間に爆裂の火球が生み出された。
音速の壁が壊され高熱の衝撃波が落下する俺達に向かってくる。
「燦」
「はい」
燦は俺とユリを抱えると今までの頭を下げた姿勢から反転して足を下に向け衝撃波を足で受ける。
火球に近付くほど衝撃波は強くなり、受けた燦の靴が溶け肉の焼ける音と臭いが漂う。
燦が歯を食いしばり、徐々に落下速度は落ちていきゼロとなる。
今このときの燦の痛みはいかほどか、もしかしたらもう歩けなくなるかも知れない。
全て分かって俺は言う。
「今だっ、走れ」
「はい」
そして燦は高熱の衝撃波を上を走り出す。
こんな事普通の奴じゃ出来ない。怪力の魔人である燦だからこそ出来る。
後は時間との勝負衝撃波がなくなるまで後数秒、走れ走れ。
そしてそのまま走ってビルの屋上に向かって飛んだ。
屋上には無線で桐生に頼んだ通り客の避難は終わり、元々パラシュートで落下した場合に備えていたマットのみがある。
燦は最後の力で俺達庇うようにマットにその身を下にして激突した。
体中の空気が歯磨き粉のように押し出されたが、死にたくなる痛みと共に呼吸が戻った。
ふう~助かったのか。
あの開放感には未練が無いと言えば嘘になる。
だが今は
俺は立ち上がると下に蹲る女達に声を掛ける。
「燦、ユリ、立ち上がれるか?」
「なっなんとか」
「はい」
ユリと燦の俺に伸ばされてきた手を俺は握る。
それは暖かった。
素晴らしい」
俺の高笑いが澄み渡る空に広がっていく。
半丁博打に勝ったのか負けたのか。
俺は上空数千メートルに放り出されていた。
眼下には関東圏が広がる。
死の覚悟し己の運の無さに苦笑した拍子に体勢が崩れてくるっと反転して天を見た。
俺は魅了され心を奪われた。
雲一つ無く何処までも広がる蒼。
奇跡とも言えるパーフェクトブルー。
この蒼の空を俺はこの身一つで飛んでいる。
命綱は無い。
だが地上にある煩わしく俺を縛る者も物もなく。
澄み渡る蒼穹
心は遮る物無く蒼い空間に一体化するように広がっていき
加速していく飛翔
時空を断ち切るスピードが際限なく上がっていく
今なら俺は体の呪縛を脱ぎ捨て時の呪縛すら振り切れる。
ああっ
圧倒的解放
圧倒的自由
俺は魅了され心を全て強奪された。
こんなの命綱があっては感じられない
この身一つで飛んで初めて味わえる
死に迫る命こそ最高のスパイス
普通の者なら命を失われる未来に耐えきれずに気絶する
だが俺の壊れた心は耐えきれる
命を代償にした開放感に酔いしれる
俺だけが感じることが出来るエクスタシー
燃え尽きる蝋燭の炎の如く地上に激突する僅かであり限りなく無限に感じる時間
心ゆくまで満喫しよう
「ひゃっほう」
生まれて初めてかも知れない心からの歓声を上げて
蒼とスピードと死のブレンドされた快楽に興奮が絶頂しっぱなしだ。
そんな人生最高の時間
こんな時こそ
こんな空だというのに邪魔者が表れる。
「捕まえたっ」
背中に柔らかいものを押し当てられて俺は抱きしめられる。
ちっ、誰だと怒りに振り返れば、六本木と燦だった。
「ちょっと、この状況下で何笑っているのよ。早く何とかしないと後数分でぺちゃんこになっちゃうのよ。
いやよいやよ、いい男に抱かれたいしおいし~い物だって食べたいのよ。
早く何とかしなさいよ」
いつもの六本木、この状況下でも変わらないとはこの女も大したもんだ。
「俗物だな。それよりも今この瞬間にしか味わえない絶頂を満喫しようぜ」
俺の心からの親切で誘う。
なのにこの女訳が分からないという顔を返してくる。
「何言ってんのよ。ねえ、しっかりしてよ。
死にたくない死にたくない。処女のまま死にたくない~」
今聞き捨てならない台詞を聞いた気がしたが。
まあどうでもいい、興味ない。
今このとき、この圧倒的自由以上に俺を惹き付けるものなど無い。
「いつものように私を盾にしてでも自分だけは助かろうとする冷血さは何処行ったのよ。
駆け引き駆け引きなの?
なら、もうどんいきましょ。私実は処女なの~、ついこの間まで堅苦しい家にいて、男と付き合うどころじゃなかったのよ。やっとの思いで飛び出して、これからいい男捕まえて人生楽しもうってとこなの~。だから処女よ。ね、私の初めて上げるから。好きなようにしていいから」
なりふり構わない女は、今この場で差し出せる最大の価値を駆け引き無しで提示してきた。
だが心はぴくりとも動かない。
「所詮、そんなの一瞬の快楽だろ。それよりこの一瞬の開放感こそ味わいたい」
「馬鹿~、信じていたのに裏切るの」
六本木は涙目で俺に訴える。
裏切り
裏切りは俺が最も唾棄して忌避すべき言葉。
だが俺がいつ六本木を裏切った?
記憶に無いんだが。
「兄さん、自分だけ楽になるつもりですか。
私との契約を果たして下さい」
燦は真摯な瞳で俺を弾劾する。
契約
契約は俺が最も尊重して敬愛する言葉
そうか確かに燦とは契約を結んでいたか
俺はこのままだと六本木を裏切って燦との契約を破ったことになるのか
心残りは無かったが、心が壊れた日に立てた誓いを二つも破ることになるのか。
己を曲げて死ぬ。
そいつは心残りになってしまうな。
興が冷めた。
このままでは真の解放は得られない、心の整理が必要か。
溢れ出ていた脳内物質を引っ込め、脳を冷やしこの場で出来る最善を尽くす。
「実はもてない六本木」
「なあ~によ」
涙と鼻水で汚れた顔を俺に向けてくる。
「みっともない泣き顔を拭け、抱く気も失せる」
「誰が泣かしたのよ」
「それは悪かったな。だが俺は嫌な奴なんだろ」
仕方ないとばかりに六本木の頭を撫でてやる。
「でも、仕事はキッチリ果たす奴でしょ。
あんた助かるって私に言ったじゃない、約束果たしなさいよ」
知るか馬鹿と鬱陶しいが、俺のあんな言葉を本気で信じてくれていたのか。
可愛い女と笑ってやろう。
これじゃあ最後に見たこの女の顔が泣き顔と心に残る。
此奴には脳天気に笑っているのが良く似合う。
その顔なら心に残らない自然と消えていく。
「分かったよ。六本木、旋律の力はまだ残っているか?」
「大丈夫、残っているわ」
手に握る旋律具を確かめ六本木は心強く答える。
「燦、その足俺にくれるか?」
「兄さんが欲しいというなら」
「ならその足貰う」
こんな装備の無い状態で地上何千メートルに放り出された時点で裏切るもクソも無く本来なら詰みなんだがな。足掻くだけ無駄だと小学生でも分かる。
なのに女二人、俺に期待する。これが柵か、鬱陶しくも嬉しくもあり。
「お前達が俺に期待するなら答えてやる。
俺達三人ならこの程度の状況大したことない。
ユリ、燦、行くぞ」
「呼び捨て~でもいいわ。
了解よ、セリ」
「はい、兄さん。
私は兄さんを選んだ自分の目を信じています」
確率的には五分五分、それでも部下に気持ち踊って貰うのがいい上官。
いい部下は気持ちよく踊って返事をくれた。
全ての準備を終え。
ぐんぐん地上が迫る。
微調に次ぐ微調で軌道修正を重ね、狙ったビルの屋上を捉える。
今しか無い。
「ユリ。
ここだ、鞭の届く先を破壊しろっ」
「まっかせなさい」
ユリは鞭を振りかぶり、達人の技で前方の空気に向かって技を放った。
鞭とは剣や槍より殺傷能力が劣り、扱いが難しい。
だが、ひとたび達人が扱えばその先端は音速を超えるという。
鞭が届く落ち行く前方には何も無い、対象物が無ければユリの旋律も炸裂はしない。
だが元々の落下速度に加え、達人であるユリが前方に鞭を放てば。
鞭は音速の壁にぶち当たる。
旋律の力が込められた鞭の先端は空気の壁にぶつかり、技が炸裂する。
何も無い空間に爆裂の火球が生み出された。
音速の壁が壊され高熱の衝撃波が落下する俺達に向かってくる。
「燦」
「はい」
燦は俺とユリを抱えると今までの頭を下げた姿勢から反転して足を下に向け衝撃波を足で受ける。
火球に近付くほど衝撃波は強くなり、受けた燦の靴が溶け肉の焼ける音と臭いが漂う。
燦が歯を食いしばり、徐々に落下速度は落ちていきゼロとなる。
今このときの燦の痛みはいかほどか、もしかしたらもう歩けなくなるかも知れない。
全て分かって俺は言う。
「今だっ、走れ」
「はい」
そして燦は高熱の衝撃波を上を走り出す。
こんな事普通の奴じゃ出来ない。怪力の魔人である燦だからこそ出来る。
後は時間との勝負衝撃波がなくなるまで後数秒、走れ走れ。
そしてそのまま走ってビルの屋上に向かって飛んだ。
屋上には無線で桐生に頼んだ通り客の避難は終わり、元々パラシュートで落下した場合に備えていたマットのみがある。
燦は最後の力で俺達庇うようにマットにその身を下にして激突した。
体中の空気が歯磨き粉のように押し出されたが、死にたくなる痛みと共に呼吸が戻った。
ふう~助かったのか。
あの開放感には未練が無いと言えば嘘になる。
だが今は
俺は立ち上がると下に蹲る女達に声を掛ける。
「燦、ユリ、立ち上がれるか?」
「なっなんとか」
「はい」
ユリと燦の俺に伸ばされてきた手を俺は握る。
それは暖かった。
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