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嫉妬の群衆

第百十八話 傲慢の罪

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 どっどういうこと?
 私は確かにコースから外れたはず、なのに未だコースの上にいる?
 そして後ろからは足音が迫ってくる。
 とっ兎に角走り出す。走りながら考え考えをまとめていく。
 このところ緊張が続き寝不足気味で判断力が落ちているところに嫌がらせを受けた。私は私が思っている以上に疲れているのかも知れない。
 もう何も考えることなくコースアウトして休もう。
 徐々に徐々にカーブに対して膨れていきアウトコースに寄って行く。もう半歩ずれた外側はコース外。
 私はそのまま体を倒すように傾けてコースから出た。
「ふう~」
 一息付いて見上げれば私はインコースを走っていた。
 どっどういうこと?
 こんな事があり得るのか、あり得るからコースから出られない。
 思考が現実に置いていかれぐにゃ~と歪んでいく視界、そんな私に足音が迫ってくる。
 そっそうだ後ろの人達に助けを求めよう。
 自分に嫌がらせをしてきた連中だということすら忘れ藁にも縋る思いで足を止め振り返る私は。
目が合った。
どろりと醜い感情を煮詰めて固めて濁る多数の目と合った。
 羨ましい、うらやましい。かがやくさいのうがうらやましい。かのうせいあふれるわかさがうらやましい。たいかいにでられるじつりょくがうらやましい。かっさいをあびるのがうらやましい。りくじょうのさいのうだけでなくそのびぼうもうらやましい。
 うらやましいうらやましいうらやましいうらやましい、妬ましい。
 神経に蟻を投げ込まれるようなおぞましさに水疱瘡の如く全身の鳥肌が立った。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ」
 私は悲鳴を上げて逃げ出していた。
 何々何々!!!??? アレは何なの?
 私は知らずあんなにも大勢の人達の嫉妬を背負い込んでいたの?
 私は走る。
 ただ走る。
 必死に走る。
 私はランナー走ることで落ち着き思考がクリアになってくる女。
 もしかして文香はアレに襲われたの?
 この世に化け物なんているわけが無い。
 ならあれは変質者の集団。
 文香はあの変質者の集団に捕らえられた。
 もしそうなら逃げている場合じゃ無い。
 犯人が直ぐ後ろにいるんだぞ。
 私は何のためにここに来た。
 私は雄叫びを上げてくるっと反転した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 ウィンドブレイカーから二段警棒を引き抜き両手に持つ。
 それなのに変質者の集団に乱れなく今まで同様に淡々と私に迫ってくる。
「私を火蓮を舐めるなっ」
 気合いで嫉妬の視線を撥ね除け向かって行く。
 ざっざっざ。
 たかが五六人勢いで押せる。
 ざっざっざっざっざっざ。
 倒すそして文香の居場所を聞き出す。
 ざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざ。
 文香にもう一度会うんだ。
 ざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざっざ。
「へっはああい」
 決意を込めて睨む先、変質者の集団は後ろが霞んでいくほどの列を成す群団となって私に迫ってくる。
 そしてその一人一人が私に嫉妬の視線を向けてくる。何百もの視線は私一人に収斂されもはや物理的圧力をもって油の如くねばっこくねちっこく私の肌に絡みついてくる。
「!」
 ぬるっとする肌触りに気持ち悪くなり、息苦しくなる。
 絡みつく油の視線に足が上げられなくなっていき前に進めなくなる。
 纏わりのし掛かってくる油の視線に体が押し潰されていき足が蹌踉めき腰を上げてられなくなり膝を付く。
 負ける?
 自分を信じて必死に努力してきた私は気付かずに置き去りにしてきた何百人という人達の嫉妬に負ける。
 自分が踏みにじったことすら知らず無邪気に栄光を追い求め享受した傲慢。
「これは私の罪なの?」
「そんなわけあるか」
 力強い男の人の声と共に銃声が響き、私に纏わり付く油の如き嫉妬の視線を銃弾が弾き飛ばす。
 体が軽くなったっと思ったら私は後ろから力強い腕に抱え上げられた。
 力強い手と力強い言葉に私は再び立ち上がる。
 胸が高鳴りどんな王子様と振り返れば、そこにはコートの男がいた。
 胸の高鳴りが普通に戻る。
「走るぞ」
「でも力が、ひゃんっ」
 私は弱気を吐いた瞬間尻を叩かれ、背筋が伸びた。
「何すんのよっ」
「まだまだ元気が有るじゃ無いか。
 走れるな?」
「うっうん」
「よし。
 弱気ならいつでも吐いて良いぞ、いつでも尻は叩いてやる」
「いーーーーーーーーーーーーだっ」
 こうして私は見知らぬ男と共に走り出していた。
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