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嫉妬の群衆

第百十六話 心が締め上がる

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 何処にでもあるような高校の休憩時間の教室風景、仲の良さそうなクラスメイト同士で固まって雑談をしている。仙翠律学園という名の知れた名門高校においてもやはり高校生と安心する視界の片隅に必死の形相でスマフォ画面を睨み付けている少女が映り込む。
「来ない。来ない。来ない。来ない。来ない」
 藍色の髪のショートカットで吊り上がった目つきが若干きつそうだが普通にしていればクールな美少女で通りそうだが、今はその目の下に隈が浮かび頬が痩け自覚は無いのだろうが同じ言葉を繰り返し声に漏らしているのはホラー映画を見ているような恐怖を感じる。
 クラス内で談笑しているクラスメイト達も彼女を意識的に避けているのか、台風のように彼女を中心にぽっかりと空白地帯を作って取り巻いている。
「大丈夫、顔色悪いわよ」
 誰もが避ける空白地帯に果敢に踏み込んで話し掛ける少女がいた。
「なにっ」
 私の心は引き千切れる寸前にまで絞られたタオルのようなもので、水一滴、何かを受け入れる余裕は全くない。優しく掛けられた声にすら弾き返すように応えてしまう。
「今にも倒れそうよ、保健室に行った方が良くない」
 私の刺々しい言葉を優しく受け止めて優しく微笑み返してくれる。その彼女の微笑みに、ほんの少しだけど私の心が緩む。
 最初こそ話し掛けてくれていたクラスメイトも今はいない。独り孤立していく私をまだ見捨てない人がいた。特にクラスで目立つ方でも無く普段あまり話したことはなかったけど本当に優しい人なんだな。男子の間で密かに人気なのも頷ける。
「怒鳴ってご免ね」
 今の私から素直に謝罪の言葉が出た。
「いいよ、本当に心配なんでしょ。潰田さん、まだ見つからないの?」
「そうなんだ。まだ見つからないんだよ。ずっとずっと待っているんだけど連絡すらない。
 私が風邪で練習を休んだばっかりに。何で私はあの夜行かなかったんだ」 
 また心が締め上がり引き千切れる寸前にまでなる。
 髪の毛が飛び抜けるんじゃ無いかと思うほどに頭に不安が充満していく、いっそ発狂した方が楽にすらなれると思ってしまう私の心を解すように、暖かく後ろから抱かれる。
「そんなに思い詰めないで。警察には届けたんでしょ」
 温もりに心が解凍され余裕が蘇ってくる。
「文香の両親が捜索願を出した。 
 でも死体が出たわけじゃない、脅迫電話があったわけじゃ無い。警察は本腰を入れて捜してくれないんだ。本当に捜査をしているのか何の連絡も無い、こんなにも待っているのに何の連絡が無いんだ」
 気づいたら湧き上がる不安を叩きつけるように机を両腕で叩いてしまった。 
私が机を叩く音に周りにいたクラスメイト達がビクッと驚き恐れ更に一歩離れていく中、彼女は紅く腫れる私の掌を包み込みながら優しく問い掛けてきてくれる。
「潰田さんが家出をするような心当たりは無いの?」
「有るわけ無いだろっ。私と一緒に次の大会で頑張ろうって夜一緒に走っていたんだぞ。そんな彼女が家出をするわけが無い」
 よく小賢しい奴らは人の心なんて分からないと言うが、私は断言する。文香に家出をするような理由はない、あったらまず私に相談してくれる信頼がある。
「分かったわ。ボクの知り合いに調べるように頼むよ」
「知り合い?」
「警察にも鼻が効くし、知恵も回る狡猾な男、でもまあそこそこ頼りにはなるよ。
 彼に頼めばきっと何か分かるよ。
 ねっ彼に任せてみようよ」
 彼女は私の目を覗き込んで心に優しくノックしてくる。そして私が心の扉を開くのを静かにじっと待つ。
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