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第5話 想いをこめて抱きしめてみても言葉にしなきゃ伝わらない?
しおりを挟むそれは別に天慶さまにとって至極当たり前の出来事だった。
あの時、鬼船神社の前に居た子供は、人の目にはつかないはずのオレをしっかりみとっていた。
ボサボサの頭に汚い布をかけられて不思議な気配を発していて、その気配に惹かれてあの時あの場所にオレはいった。
汚い着物を剥ぎ取って磨けばきっとこいつは、この身に宿る数多の憐れな魂の畝りを癒してくれるに違いない。
そして、銀狼の力を解放する実を与えるとこいつはオレの腕の中で美しい銀の狼になって、オレはやっとみつけた銀狼がとてつもなく可愛くて、颯太と...【流星の如き狼ー颯ー】と名をつけた。
「天慶さま?」
黙り込んだ天慶さまにもう一度体を起こしてそーっと近づいてみる。
不安げに天慶さまの顔を覗きこむと。
「颯太。オレはずっとお前を探していた。」
「え?」
オレはずっとお前を探していた?
それは颯太には意外な言葉だった。だって何かある度にずっと「拾ってやった」「育ててやった」「オレがいなきゃ野垂れ死んでた」っていわれてたから。
「そしてお前に巡り会った。」
そう、オレはずっと...。失われかけた国津神の末裔銀の狼を探していた。
ずっと探していた、颯太を見つけたから連れ帰った。
アレはオレにとって特別な者をみつけた特別な瞬間で。
やっとみつけた、嬉しすぎる出来事だった。
「でも、あの時、捨てられてたオレを・・・。」
「お前が捨てられてたのは幸運だったな。」
「ひどっ。オレは捨てられたんっ。えっ」
言いかけた言葉を封じ込める甘い口づけ。
いいかけの言葉が喉の奥に流し込まれる。
「ふふ。オレにとって幸運だったということだ。別の出会いをしていたことを考えてみろ。」
「別の出会い?」
そんなの想像できないけど、もし、捨てられてなかったらどうなってたんだろう?
「オレはお前を探していたから、別の場所で別の出会いをしていたら、その場所から連れ去るとか、誰かから奪い去るとか、しなきゃいけなかったかもな...。オレはどうしてもお前を手に入れたかったし、欲しいものは手に入れないと気がすまない。
もしどんな手段を使ったとしてもオレは...」
戸惑う颯太にたたみかける天慶さま。
かぁああああああああぁぁぁ。
えっ。えっ?それってどうゆうこと?
もう一度、いとおしむように腕をとり舌を絡ませ長い口づけをする天慶さま。
ドキドキ。ちょっと怖いけど。
そうなの・・・?
そう。
長い口づけは疑問も思考も霞ませていき。
「お前はオレが思っていたよりずっと...。んっ」
その唇が首筋から滑りおり愛撫の花を咲かせていく、と。
「あっはふっ」
「ずっと...。」
ずっと...の先を聞かせてくれることはなく、そのまま長い夜の吐息に変わっていく。
「んっ。」
その先を聞かせて欲しい。
...それは欲ばり...?
「ふっ。」
その先は聞かなくてもわかれ、ってことでしょうかねー。
「あっ。」
オレが思ってたよりずっとしなやかでいろんな気持ちにさせてくれる。
オレが求めていたよりずっとオレを満たしてくれる。
果てない情熱の吐息の中で想いの募る天慶さまなのですが、そんなことまで颯太はわかる訳もなく。
ただ、自分の問に真っ直ぐに答えてくれた天慶さまの言葉と指先に溶かされたまま今夜は幸せな思いに包まれていたい。
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