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第2話 引き裂かれた牡丹と椿。おのれ弟君め。
しおりを挟む春が過ぎ夏が過ぎ、秋風が吹いた日に、わらわは後ろ髪を引かれる思いで、右大臣家を後にした。
いや、追い出されたとゆうべきか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「椿さま♥️本日のお茶会は牡丹が椿さまのためにお茶をたてますね!」
「椿さま♥️川べりの桜がキレイに咲きましたよ。牡丹が抱っこして連れていってあげまする。」
牡丹は、小さな小狐にすぎぬわらわを・・・。
まるで親しい友か家族のように接してくれた。
狐のわらわを相手にお茶会ごっこや、お花見ごっこ。
呆れながらもつき合うと、これが満更でもなくなかなかに楽しいものよ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「姉君は少々アタマがユルいのではないか?あんな得体の知れない狐なんかをよくもまあ・・・。」
牡丹の弟、毒長(徳長)じゃ。
姉弟仲は悪くない。
本気で姉のアタマを心配したのか、そんなわらわに嫉妬していたのか。
まだわらわ達が寝ている隙に家来に申しつけ、わらわを野原に捨てたのじゃ。
「おのれ毒長!」
毒長にはしっかり礼をしてやって、以後3日間、毒長は腹痛に苦しみ部屋と厠を往復しておった。
「ぎゃふん!」
ざまぁみろじゃ!ふふん。
じゃが、わらわは右大臣家にはもどらなかった。
わらわを愛してやまぬような牡丹を置いていくのは忍びなかったが・・・。
わらわは妖狐族。
大海を渡ってこの地にやってきたわらわ達はこの地に根つくため、この頃、各地に散らばりながら次第に妖狐族の地位を確たるものにしつつあった。
妖狐族の中でもわらわは、特に強い妖力を秘めておる。
まだ小狐じゃが、成長した暁には、この国の中心、京を根城に妖狐族の勢力版図を広げ日本一の大妖怪にならねばならぬ。
それに、アタマがユルい、などと思われては牡丹が可哀想じゃ。
牡丹は人より純粋で、好きになったら周りが見えなくなるのじゃ。
牡丹は優しくて真っ直ぐな、キレイな心の持ち主ゆえな。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「椿ちゃん。なんでいなくなってしまったの。」
しくしく、しくしく。
じゃが、しかし・・・。
「姫様、まだ泣いておられるのですか・・・?」
秋がすぎ、冬がきて・・・。
また、一緒に過した春と夏がすぎても、牡丹は、わらわのことを思い出しては涙するよう。
そう、牡丹が助けた小狐、椿もまた、自分を助けてくれた、牡丹さまのことが恋しくて…。
ほんの少しの月日であったはずなのに、牡丹と椿が過した日々はお互いの心に互いの真心を移したように。
欠けてしまった自分のなにかを求めるようにせつない想いを打ち消すことができなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして幾度目かの春に、立派な妖狐に成長した椿は、お年頃になられた牡丹さまが大納言家に輿入れの際にお付の女官を捜しているときいて、いてもたってもおられず。
牡丹さまがお輿入れ・・・。
お嫁にいかれたら、もう少女だった牡丹さまはいなくなってしまわれて今度こそ、椿のことは忘れてしまうに違いない。
自分だけが、牡丹を恋しく思って切なくなるなど耐えられぬ。
奥方さまになられてはもはや会うことなど叶わぬかも。
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