流れる川

連鎖

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トヨトミ②

芽吹き⑪

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「おやすみなさい。はるな。」

女は、腕の中にいた子供を起こさないように包み込み、
安らかに眠れるように祈っていた。

「今度起きる時は、安らかに。」



何処かの祝福された場所で、
「残りの友達は、みんなが笑顔になるように綺麗に咲いてあげてね。

さあ、ここなら寂しくないわよ。
綺麗にお願い。沢山の花を咲かせて笑顔を見せて。

あっははは。うふふふふ。あっははは。」
すごく嬉しそうに笑って、子供を見つめていた。

。。

次に女が移動した場所は、森の中。深夜の森にいた。

大きな針葉樹が周りを取り囲み、
弱々しい星々からの光だけが、寒々とした地面を照らしていた。
まだ溶け残った雪が所々に残っていて、一段と凍った世界を彩っていた。

その場所から女が見ていたのは光、
ある場所の光だけが、この寒々とした夜の訪れを拒んでいた。

小さな焚き火と、沢山の荷物を載せた馬車。
今日の仕事は終わったと、馬は休んでいた。

焚き火の近くには、火を消さないように、
必死に何かを忘れるように、男が焚き火を見つめていた。

焚き火は男を慰めるように力強く、
闇がこれ以上広がらないように世界を照らしていた。

焚き火は、ときどき男を慰めるように、
「パチン。。パチパ。。パン。。パチパチパチ。」
人が寄り添う物。人が求める温もりが、闇を拒んで拍手を送っていた。

必死に闇の支配者を遠ざけようと、
温もりが消えないように、男は必死に願って炎を見つめていた。



その願いは、裏切られる事になってしまった。

音が嘲笑うように、
「ザッ。ザッザ。。。パリ。。ザッザ。ザッザ。」
今度は、一定のリズムで近づいてくる音に男は気がついてしまった。

男は、目の前まで闇が近づいているのを感じて、
「いるんだろ?」
近づいてくる音に向かって声をかけた。

闇の奥から、
「あーあ、わかっちゃった?
どうして、わかっちゃうのかなあ。やっぱり、この恰好かしらね。」
場違いに嬉しそうに答える声が、闇から漏れ出ていた。

男が注意深く闇を見つめると、女が一人だけ近づいてくるのがわかった。

ああ、あいつか。あの女か、やっぱりな。
映像で何回も何十回。それ以上見た女。

今回も全裸のようなワンピース一枚だけで、
こんな場所で見るにはあまりにも不似合いで、
もちろん、凍えるように寒そうに見えていた。

しかし、女の異常さを知ってる自分には、
この格好が、妙に女らしい、似合ってると見とれていた。

男の視線が、
「やっぱり、全裸が良かったかしらね。うふふ。

好きでしょ。よく見てくれた?
もちろん、沢山出して貰えたかな。

今夜は、直接楽しんで貰ってもいいわよ。私が直接ね。あはは。」
自分の身体を誇るように、腕を組んで胸を持ち上げていた。

男から見ると、真っ赤なワンピースが黒く見えて、
首から上。両腕。両脚が、別々に違う世界に浮いているように見えていた。

その異様な格好の方が、何故か普通に感じて、
「いや。そのままでいいから。良く似合うよ。」
必死に闇に向かって、笑いかけていた。

女を人として認識してしまう恐怖に、何かを忘れようと笑いかけていた。

男の視線が変わったと、
「そう?うーん。そっかあ。じゃあ、このままで。
そっか、隠す。そうよね。それでか。。あっははは、それでね。」
昼間に起こった状況を思い出して、笑いかえしていた。

女が嬉しそうに笑いを返してくれたので、
機嫌を悪くしていなそうで、男はホットしていた。

女がここに来た要件は、
「すま。。」
エリカが荷台に積んでいる物の件で怒っていると思い、謝ろうとしていた。

エリカは少しも気にしないで、
「ああ、良いのよ。あれは、すごく嬉しかったから大丈夫よ。
ちょっとだけ、気になったから直したけど。パチン。」
男が謝るのを遮るように、指を鳴らした。

音がすると突然、近くにあった男の馬車から炎が吹き出した。

突然の炎に驚いて、
「ボ。。。。ゴウ。ゴウ。。ゴウゴウ。。。。ヒヒーン。。」
自分の全て、男の全財産が一瞬にして炎に飲み込まれていたのを、
呆然と見つめていた。

そうだ。この女は。ああ、そうだった。そうだ。

馬の鳴き声だけが、
必死にこの場から逃げようとする音だけが、
悲鳴だけが耳に残っていた。

女が本当に機嫌悪そうに、
「ああ、煩いなあ。消えて。。。パチン。」
女は何が気になったのか、また指を鳴らしていた。

それは、悲鳴。
それを消す為だけに、女が使ったのだと目の前で理解していた。

女が強者だと思い出した男は、
「ひっ。」
必死に逃げようと、立ち上がろうとした。

しかし、誰かに押さえつけられているように、少しも動けなかった。

逃げることなど出来ないと、絶対に逃げられない、
会った時点でわかっていたのに、
それでも逃げようと必死に足掻いていた。

女にとって男の価値など、
「ごめんなさい。怒って無いから。大丈夫だから座ってて」
困った子供を叱るように、エリカが話していた。

子供以下だと理解してしまった。

次に俺だ。次に、
「ご。。」
動けなかった男は、ただ謝まって逃げようと声を出した。

そういう男の行動を面倒くさそうに、
「うーん、いらないかなあ。もういらないっか。

別に、でも。。そーだ。もう、いいかあ。

うふふ。先輩もいないしね。あっははは、じゃあ、さようなら。」
女が興味が無いような顔で話していた。

男は必死に何か出来ないか、
女の興味を引けないか考えていた。

その男の必死に生きようとする格好が、あまりにも不思議で、
「あれ?、そうだ。きみさあ、君の幸せって何?」
途中から、何かを思い出すように聞いてきた。

なにが要らないのか、必死に考えるていた。
たぶん。要らないのは。。。

たどり着く答えは、一つだけ。
今残っているのは、ここに残っているのは自分だけだと理解していた。

さようならも、そういう事なんだろう。

それでも必死に、女の意図する事を考えていた。

たぶん、これだけが。。。これしか、無い。
無い。死ぬ。多分。殺される。必死に答えを探していた。

無慈悲に自分勝手に話してくる女を見て、
「ひっ。。ひあわ。。」
男は恐怖で泣きながら、必死に答えようとしていた。

もう気にしていた事を忘れてしまったのか、
「ああ、まあいっかなあ。別に興味なくな。。」
多分、その程度だったのだろう、男の生死など。

男は必死に必死に声を出して、
「いあーわせは、幸せわああああ。結婚です。けっこん。」
よく聞く話し、よく聞く話題を思い出して、
その答えにすがりついた。

いつものように、いつも自分が馬鹿にしていた言葉に、
男は、すがりつくしか無かった。

女なんて道具。ただの新品か中古か不良品。
金を産む玩具だと思って、話していた話題にすがりつくしか無かった。

女が何処に興味があったのか、
「あれ?きみさあ、沢山やってたでしょ。もう結合済みじゃない。
だって、臭いよ。君ってさあ。」
女にとって、その程度の感覚。その程度の理解。

女が感情を出していたのに気が付き、
「ちちちゃんと。けっこん。。。っこども。。子供。」
ここで失敗したら、消えるまで。必死に続きを話していた。

いつものように、子供は簡単に交換出来る物。
何処からでも出てくるゴミのような存在。
暇つぶしに相手する物として理解していた。

女がすごく嬉しそうに、
「うーん、こどもね。子供。子供。。そうか、子供。
いいわよ。そうよ。子供。子供好き?」
女にとって、唯一無二の興味。
自分に残っている感情のひとつ。

大切な。すごく大切な欠片のことが出てきたので、
男に興味が出て来て笑いかけていた。

女が変わったのを、
「はいい。子供大好きです。子供沢山。子供だから。子供。」
必死に、嘘だとバレないように必死に話していた。

男の記憶を、
「そういえば、店は?」
店をどうしてきたのか、聞いていた。

女が興味。気に入った答えだと、
「子供。そうです子供に譲ってきまいた。」
ただ逃げるため、あの女のお気に入りに押し付けていた。

少しでも、目の前にいる女に興味を持って貰えるように、
あの子供に押し付けて逃げて来た。

店の事を思い出して、
「へえー、子供好きなんだ。しっかり店もね。」
あの子が店員をしている店を訪れて、
今度こそ臭くなる前に、卒業させようと妄想していた。

すごく上機嫌な顔になったエリカは、男を試すように、
「奥さんいないとダメじゃない。私がなってあげるから、一緒にどう?」
何故か悲しそうな顔で、男の顔を覗き込んできた。


芽吹き⑪
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