流れる川

連鎖

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トヨトミ②

芽吹き①

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寒い冬が去り、暖かな日差しが増え始め、
木々からも、喜びの音が響いていた。

よく見ると雪溜まりもあるが、地面から沢山の草花が芽吹きを待っていた。

「すみません。
入りたいのですが、お願いできますか?」
お昼過ぎの眠くなりそうな時間に、仮面の女が門番に話しかけて来た。

「ああ、こっち。。。来い。。」
若い女が一人だけで手持ちの荷物も無く、
服装はラフな格好で、長袖シャツに少しだけ汚れた長ズボンを着ていた。

銀色の仮面に興味はあったが、
それ以上に女の格好が不思議に思い、いつも以上に見てしまった。

どこから来たんだ?こんな田舎に。。。どうやって?

「何か。。。」
「いやあ、ああ。ごめんな。
こんな若い子が一人って、大丈夫かなあって。」
不思議と男は、腰にあった剣を手で触っていた。

「ああ、格好ですね。
ギルドから、近くまで送って貰ったんですよ。
やっぱり寒いかな。洋服とか街で買えませんか?」
優しく嬉しそうな声で答えていた。
「そう、そうか。ギルドから。そうか。」

転移かよ。おいおい、最近も来てた。彼奴らと一緒の。
じゃあ、この女も。調査なのか。

門番が考えていると、突然の声が聞こえてきた。
「わんわん。わんわん。」
「ごめんなさい。ダメよ。よいしょっと。」
女の影に隠れていたのか、
足元にいたモコモコの可愛らしい犬を、女が抱き抱えていた。

考え込んでいた門番も、目の前の光景に癒されて話し始めた。
「じゃあ、書類をお願いします。ついてきてください。」

なかなか、胸デカイいしブラも無かったよな。
最近は流行ってるのか?

ああ、やっぱり。でも、アイツよりは。

ニヤけた門番は目の前を歩いていく女についていき、小部屋に入った。

「えっと、そこにかけて下さい。」

小部屋の中には、
小さい椅子と机。あと仮眠用のベットに雑貨が置かれていた。

「ここに、あれ?。。名前と。。」
不思議そうに、女の胸元を見て台帳を出てきた。
「カードですね。どうぞ見て下さい。」
銀仮面は、門番の目の前にカードを置いていた。

「銀仮面。。。お名前ですか?」
不思議と似合ってるように思って聞いていた。
「すみません。ギルドで色々ありますので。」
「カードはお返ししますが、顔は見せて。。。」
申し訳なさそうに、カードを返して門番が話しかけて来た。

「いいですけど、秘密でお願いしますね。カチャカチャ。」
嬉しそうな声で、見つめるように話しかけながら仮面を外していた。

仮面を外すと、優しく都会の洗練された顔を見て、思わず。
「けぇぇぇぇええ。けっ結婚。けけっっこ。結婚してください。」
門番は震えるような声で、意味不明な声で叫んでいた。

「あはは。あはは。あーあ。あはは。」
嬉しそうな顔で、本当に嬉しそうに笑っていた。
「いやあ。ごめんなさい。ごめん。」

どーして?なんでだよお。俺はどーして。。

「いーですって、大丈夫ですよ。気にしないで。あはは。ははは。」
「ごめん。すみません。もう、すみません。」
「いいから。気にしないでいいって。あはは。うふふ。あはは。
気にしないでいいって。大丈夫だから。大丈夫。

でも。。。。
こういう仕事だから、ごめんなさいね。」
すごく悲しい顔で、見つめ返していた。

「いいんです。いやあ、こんだけ美人だと仮面も。あはは。いやあ。
そうですよね。あはは。ごめんなさい。」
真剣な顔に恥ずかしそうになり、俯いて答えていた。

悲しい顔の女は身を乗り出して、顔を門番に近付け。

「チュ。。」

男の頬に突然。暖かい温もりが感じた。

「そう言ってくれて、ありがとう。本当に嬉しい。」
悲しい顔が一瞬にして、何故か見たような顔で笑いかけてきた。
「いやあ。あーあ、振られちゃったなあ。。あーあ、でも。
シルちゃんなら、そのままでいた方が良いよ。
可愛らしい笑顔が、似合ってるから。」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに、天井を向いて答えた。

「ん。。。。。」
男の言葉にびっくりして、声にならない吐息が口から出た。

「可愛らしい? 
ありがとう。可愛らしいか。そう、ありがとう。」
女の顔からポロポロと涙が溢れて、頬を伝って流れていた。

「どうした?何かあった?
ごめん。ごめん。気に触った?」
女が泣いているのを見た門番は、必死に頭を下げて謝っていた。

そうよね。
そうだったっけ。
あなたって。

じゃあ、あなたは。そうしましょう。



「じゃあ、シル。悪いことするんじゃないぞ。
あと、用事が終わったら、ちゃんと定期馬車で帰るんだぞ。」
厳しい顔をした門番が、女を送り出していた。

「お世話になりました。ありがとうございます。」
暖かい風を顔に感じながら、女が門を離れて行った。

「わんわん。」
「ありがとう。嬉しいわよ。誕生日って言うんだっけ?」

胸元が開いたシャツの前を隠すように、
犬を抱いたシルが嬉しそうに歩いていく。

。。

もう少しで日が暮れるので、寒い風が街に吹き始めた。

女も身体が冷え切る前に、目的の店の目の前に着いてホットしていた。

店には明かりが沢山点って、忙しく店員が準備をしていた。

「すみません。
こちらで洋服揃えたいので、お願い出来ますか?」
上下共に薄くて寒そうなシャツとパンツを着た女が、店員に声をかけた。

小太り?太り過ぎな男が面倒くさそうに答えた。
「この店は、夜からなんだよ。隣に行ってくれ。」
「そうですか、すみませんでした。」
女は、不思議そうな顔して謝ってから隣の店に入って行った。

あ、そうか。。あ。。まあ、仕方ないかなあ。

隣の店は、さっきの立派な店とは違い。
年季の?まあ、個人店?趣のある。小汚い?

隣の店に客が取られていると、ひと目で分かってしまった。

「ごめんなさい。カード使えますか?」

薄暗い店に入って行くと、いつから売れていないのか分からない洋服が
無作為に重なって左右に置かれていた。

「客かい。えへへー。客だよな。ギシイイイ。ギシギシ。」
ギョロっとした目の不健康そうな、痩せた老人が奥から出てきた。

店が悲鳴をあげて、男と女を祝福していた。

「さあ、寒いだろ?奥においで、こっちだよ。」
老人が手を上げて、女を奥に誘っていた。
「あ、はい。あの、洋服を。。。」

「わかってる。だから、来なさい。早く。」
さっきの老人と別人のように、力強く声を荒らげて女を奥に呼んでいた。

「ギー。ギシギ。。ギシギシ。ギー。」
二人が歩く度に、店が嬉しそう笑っていた。



「じゃあ、ここで靴を脱いで待っていてくれ。」
老人が、嬉しそうに奥へ消えて行った。

男の生活部屋なのだろうか、
暖房器具と敷きっぱなしで少し湿った布団
あと、飲みかけの酒?あと食べ物?が置いてあるちゃぶ台
洋服は女物?老人のも?布団周りに散乱していた。

息をするのも戸惑う匂いがする部屋に、女は靴を脱いで立っていた。

洋服は?まあ、暖かいからいいんだけど。



立って待っていると、
ニヤけた顔した老人が、グラスに飲み物を入れて帰ってきた。

「夜はもっと寒いですけど、お仕事ですか?
でも、最近は暖かくなってるんですよ。コトン。
さあ、座って。座って。」
女が座るように、ちゃぶ台の上にグラスを置いた。

「わかりますか。
仕事で来たんですけど、寒くなっちゃって困っていたんですよ。」
立ったまま話していたが、男の視線に我慢出来なくなり床に座った。
「そうか、そうか。
売るほど有るから、沢山買ってくれ。
でも、どんなのがいいんだい?
若い子が好きなの洋服も、有ればいいんだけど。」
ジロジロと容赦なく、身体中を舐め回すように見ていた。

「あはは、そうですよね。特に希望は無いんですよ。
数日したらまた戻るので、その間だけでも寒くなければって。
この辺をよく知らないので、選んで貰っていいですか?」
男の視線を遮るように、顔をジット見つめていた。

「ゴソゴソ。ゴソゴソ。」
老人は女の視線に我慢出来なくなって、近くを探していた。

「嫌なら言ってくれよ。じゃあ、この辺のはどうだ?」
布団の横にヨレヨレになって、置かれていたスカートを渡してきた。

「これですか?。。うーん。寒くないですか?」
渡されたスカートを手に取ったが、生地はモコモコで暖かそうだが
スカートの意味が無いぐらいに丈が短く、脚が丸見えになりそうだった。

「若い子は、こういうのが好きなんだろ?」
ニヤけた顔で、女が着替えた格好を想像していた。

うーん、まあ普通なんだけどねえ。どうしようかな。


芽吹き①
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