クロスオーバー

連鎖

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みさき(運命)

キャバ嬢

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 夜の街に煌びやかなネオンが瞬く頃、
 美咲は慣れた足取りで「氷華」の扉をくぐった。

 数日ぶりの来店にもかかわらず、その存在感は相変わらず圧倒的で、
 控え室で髪を整える彼女の周囲には、自然と視線が集まり、
 艶やかに波打つアッシュブラウンの髪を、
 鏡の前でふわりと揺らす仕草さえ、優雅で目を引いた。

 控え室を出た瞬間、店内の空気がピンと張り詰め、
 スタッフや客も、一瞬で彼女の姿に引き込まれる。

 美咲が選んだ服は、
 そのスレンダーなウエストからFカップの胸元まで魅せてしまう、
 しなやかに体に沿う黒のタイトなミニドレスで、
 普段は控えめな装いを好む彼女だが、その魅力を惜しみなく解放し、
 ドレスが際立たせる官能的なボディラインは、見る者の心を惑わせた。

 薄くピンク色のリップをまとった唇がふっと緩み、
 柔らかな微笑みを浮かべながら、周囲に軽く挨拶を送るその姿には、
 余裕と品が漂い、店内の喧騒すらひとつの背景に変えてしまう。

「お待たせしました。今日もよろしくね。」

 美咲の柔らかい声には温かさがあり、
 スタッフや客たちの緊張を次第にほぐし、
 やがて店内は、彼女を中心にした穏やかな空気に包まれる。

 席についた彼女は、足元のヒールをさりげなく組み替えながら、
 どんな会話でも楽しめる余裕を見せつけ、
 その自然体の魅力に、今日もまた誰もが心を奪われていった。

 。

 美咲は、三島が面接時間だと言っていた21時を過ぎ、
 まもなく22時になろうという時間に、
 ほとんど足を踏み入れることのない部屋に立っていた。

 その部屋は薄暗く、控えめな照明が静かな空気を漂わせて、

「どうしたんだ、美咲?こんな時間にここに来るなんて珍しいな。」

 と、相手の男は椅子に腰かけたまま、驚いた表情を浮かべていた。

 その表情に、美咲は一瞬ためらって唇をかみしめ、

「すみません……ごめんなさい。」

 と、心の中でそう呟きながら、巻き込むことへの罪悪感に苛まれるが、
 やがて覚悟を固めて静かに口を開く。

「オーナー、今日は23時前には店を出ます。誰にも言わず、こっそりと。」

 その言葉に、オーナーの眉が少し動き、

「どうして、そんなに早い時間に?それに、なぜ秘密に?」

 と、怪訝そうな表情を浮かべながら、美咲に問いかけた。

 美咲は深く息を吸い、気持ちを落ち着けるようにしてから、
 低く、しかし確かな意志を帯びた声で口を開いた。

「実は…友達が失踪してしまって、ずっと気がかりで仕方ないんです。
 その手がかりを探すために、ある店の面接を受けようと思っています。」

 二人の付き合いは長く、美咲が店の面接を訪れて以来の関係だった。

 それ以来、彼女は仕事のことだけでなく、
 時には個人的な悩みまで相談するようになって、
 そして彼は、そんな美咲が自分に特別な思いを寄せていることを、
 薄々感じ取っていた。

 そんな美咲からの告白は重く、その裏にある代償の大きさを思うと、
 オーナーは考え込むように視線を落とし、
 彼女が必死に説明してくる内容に静かに頷いていた。

「なるほど…それは仕方ないな。でも、くれぐれも気をつけろ。
 その店には、何があるかわからない。困った時には俺を頼れ。」

 美咲は真剣な目でオーナーを見つめ、深く頷いた。

「ありがとうございます、オーナー。
 このことは絶対に秘密にしてくださいね。これは私が決めたことです。
 だから、何があっても全て忘れてください。」

 オーナーは、美咲の覚悟を感じ取ったのか、微笑みながら静かに答えた。

「わかった。何も聞かなかったことにする。
 でも、無理はするなよ。何かあれば、いつでも相談に来い。」

 美咲は深々と頭を下げて、オーナーの部屋を出た顔には、
 決意を秘めた表情が浮かび、
 胸には友達の失踪理由を探るための複雑な思いが渦巻き、
 面接へ向かう準備を心の中で整えながら、彼女は静かに店へ戻っていた。

 。

 美咲がその日の営業を終えようと、
 店の隅で一息ついていると、最後の客として山田が姿を現した。

 彼女は以前、山田の店でアルバイトをしていた時の事を思い出して、
 胸に嫌な予感が走る。

 案の定、美咲が呼ばれて席に着くと、
 山田の手はいつも以上に無遠慮に彼女の身体に触れてきた。

 彼の表情には、「コイツは俺に逆らえない…もし逆らえば…」
 と、彼女が嫌がってもアレを晒すと言えば逃げないだろうという、
 どこか自信たっぷりな余裕が浮かんでいる。

 そんな山田の態度に、美咲は内心で嫌悪感を抱きながらも、
 プロとして笑顔を崩さず仕事を続けた。

「美咲ちゃん、今日もキレイだね!」

 その声は、彼女にとってただ気持ち悪く、
 嫌悪感を増幅させる言葉にすぎなかった。

 山田の無理に格好をつけた服装や振る舞いは、
 彼の店で受けた不快な記憶を呼び起こし、美咲の背筋を寒くさせる。

 彼の手が肌に触れるたびに、美咲の心の中では警報が鳴り響いたが、

「こんな恐怖に負けたら、面接だってうまくいかない…
 こんな事ぐらいで負けるわけにはいかない…」

 と、彼女は自分に言い聞かせるように感情を押し殺す。

 彼女は嫌悪感を必死に抑え込みながら、その場をやり過ごそうとした。

「可愛いネェ」「そういう事は…」
「店でさぁ」「あれは楽しかったですね…」
「次はいつ?」「行きたいのですが、最近…」

 しかし、面接の時間が迫っていることに気づき、美咲はついに決心する。

「すみません、今日は少し疲れているので…」

 必死に身体を触ってくる山田をかわそうとしたが、
 彼の手が腕を掴んで離さない。

 嫌な予感が確かな恐怖へと変わり、
 美咲はなんとかその場を切り上げるべく、強い口調で言った。

「ごめんなさい山田さん。離して下さい。そろそろ時間です!」

 彼女の言葉と真剣な表情に、山田は驚いたような顔を浮かべ、

「イイのか?美咲!」

 と捨て台詞を吐きながら、ようやく手を離した。

 山田の怒りを露わにした顔や態度も、
 今の美咲にとっては気にする価値すらないもので、
 自分の意思が伝わったことに安堵しつつ、
 全身にまとわりつく不快感を振り払うように、足早にその場を離れた。

 控室へ向かう途中で他のキャストに代わりを頼むと、
 美咲は一切振り返らず、冷静を装いながら歩き続けたが、
 心の中では怒りと嫌悪感が渦巻いていた。

 だが、冷静に考えてみれば、あの程度のことで必死にすがりつく、
 山田の姿がどこか滑稽で哀れにさえ思え、自然と苦笑が漏れた。

「まあ、どうでもいいけど…アハハ」

 そんな風に自分に言い聞かせ、気持ちが軽くなった美咲だったが、

「男って、本当に単純ね…ウフフ」

 と呟き、挨拶だけはするべきだと思い直し、再び山田のもとへ向かう。

「今日は無理ですが、明日はお店に伺います。
 その時の素敵な服装を楽しみにしていますね、山田さん。うふふ。」

 誘うように彼の耳元でそっと囁くと、
 さっきまで怒りを見せていた山田は、だらしない笑顔に変わっていた。

「こういう事ね…」

 その反応に、美咲は心の中でため息をつきながらも、
 自分の行動を正当化するように思い込んでいた。

 。

 美咲が控え室に戻り、一人で着替えていると心臓がドキドキと高鳴り、

「あんなのは普通…多分、あれ以上のことを…」

 手のひらにじっとりと汗が滲んでいることに気づいた。

 美咲は面接のために用意した服に着替え、化粧を整えながら、

「これでいい…あの時のように…」

 と心を決め、友達の失踪事件の手がかりを掴むため、
 意を決して面接会場へ向かう準備を整えた。

 更衣室を出て、わずかな距離を歩く間も心臓は激しく高鳴り、
 店の出口に到着すると、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 そして、新たな挑戦に向けた決意を胸に美咲は店から一歩を踏み出した。


 キャバ嬢
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