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みさき(運命)
情報屋④
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タクシーが停まったのは、雑居ビルの薄暗い一角だった。
周囲には、小さな看板がいくつもぶら下がり、
夜遅くまで明かりを灯す飲食店やバーが軒を連ねている。
美咲は、その一角にあるビルの階段を上がりながら、
ホコリ臭い空気と古びた壁に圧迫されるような緊張を覚えていたが、
毎日この道を歩いているせいなのか、不思議と懐かしさも感じていた。
目的の階にたどり着くと、蛍光灯がちらつき、
ゴミが散らかった廊下が目に飛び込むと懐かしさはさらに強まり、
「三島」と書かれた手書きのプレートが視界に入ると、
美咲は「…あった」と小さく呟き、ほっと胸をなで下ろした。
毎日この店に通っているせいか、美咲はノックもせずにドアを開ける。
そこには、いつもの格好をした三島が、
連絡を入れていない突然の訪問にも驚いた様子はなく、
変わらない冷ややかな表情でカウンターの奥に立ったまま、
ゆっくりと顔を向けてきた。
三島の口元に薄い笑みが浮かんでいる事に、美咲は一瞬たじろいだが、
すぐに動揺を抑え込み「続きの情報を頼むわ」と毅然とした声で告げる。
「ふふ、来るのが遅いんじゃないか?」
三島は全てを見透かしたような口調で言いながら、
美咲の身体に視線を向けたが、
「何かあったのか?」
と、すぐに興味を失ったらしく顔を背けていた。
美咲は彼に答えることなく、黙ったまま彼の動きを待つ。
その無言の態度に、三島は小さく肩をすくめて一言、
「まあいい」とつぶやくと、棚から古びたファイルを取り出した。
彼の低く抑えた声が、薄暗い部屋の静けさに溶け込み、
冷ややかな雰囲気を一層引き立てる。
美咲は緊張を抱えつつも、今ここで聞き逃してはいけないと、
三島の口元に意識を集中させる。
しかし、彼は何も言わないままファイルをめくり続けるだけだった。
その沈黙に耐えきれなくなった美咲は、ふと口元に笑みを浮かべた。
「ウフフ。彼も…」と小さく呟きながら、
男たちが何を求めているのかを察し、ある行動を始めた。
だが、三島は依然として美咲に顔を向けることなく、
気にも留めていない様子だ。
しばらくして準備を終えた美咲は、鞄から名刺を取り出し、
「これで、いいでしょ?」
と、少し挑むような口調で呟いていた。
彼女が彼に差し出したのは、
佐々木から受け取った名刺で、それに目を落とした三島は、
「あっ…」
と、手首から先に布が無くなっている事に驚き、その先へ視線を送ると、
「ああ…」
と、彼女の姿を見て言葉に詰まっていた。
三島が驚いたのには理由があった。
ビルに入ってきた時、美咲は昭和レトロな服装をしており、
彼も店に来た時に確認をしていた。
しかし、目の前に立つ美咲は、
セルビデオ店で佐々木が選んだという大胆な姿になっていた。
前回、ラフな服装で現れたことで三島の機嫌を損ねた経験から、
今回は、彼の関心を引こうとして?
いや、美咲はやり返すつもりで?
それさえも違って、最近の経験で学んだのだろう、
極端に挑発的な格好を選んで魅せて相手の動揺を誘い、
少しでも彼から優位に立とうとしていた。
美咲は妖艶な笑みを浮かべ、挑発的な視線を三島に向けたが、
彼はただ驚いた表情を浮かべるだけで、何も言ってこない。
優位に立った美咲は、「ドン!」と勢いよく足をカウンターに載せ、
続けて「友達はどこよ!」と声を張り上げた。
その動作に、三島は一瞬言葉を失い、
カウンター越しに彼女を凝視したまま目を丸くする。
困惑の色を隠せない三島は、視線のやり場に困りながらも、
美咲の大胆な姿と態度に完全に引き込まれていた。
「前回の格好は悪かったわね。ウフフ。じゃあ、これなら大丈夫でしょ?」
カウンターに片足をのせたまま、
美咲は背筋をすっと伸ばし、挑発するような視線を三島に送る。
「今日はどうなの?少しは、君のご機嫌取りになったかしら?」
完璧に作り上げられた「女」のオーラが店内に漂い、
美咲の微笑みにはどこか意地悪さが滲んでいた。
その様子に三島は視線をそらし、落ち着かない仕草を見せながらも、
口元を引き締めて言葉を探している。
彼の反応に、美咲はさらに余裕を見せるように、意地悪く顔を歪め、
「まだ。足りないの?ウフフ。コレかな?三島ちゃん」
と、軽く脚を動かして相手が興味を持っている場所を魅せつけながら、
鋭い視線を投げかけていた。
「…その、例の似顔絵の件なんだが…」と三島が切り出したが、
美咲の鋭い視線に押されて、彼の声にはわずかにためらいが滲んでいる。
その様子に美咲は微かに笑みを浮かべ、
「あの絵の名前は、藤井遼じゃないの?」と言い放つ。
彼女は三島から渡された似顔絵をスマホで検索し、
その画面を突きつけるように見せながら、
「この男で間違いないのよね?」と詰め寄った。
三島は一瞬困惑したように眉をひそめたが、すぐにため息をつき、
「…藤井遼。お前も気づいたか」と低く呟く。
しかし、その後も謝罪の一言もなく、まるで試していたかのように、
冷ややかに視線を向け、「しもむらえいいち」という情報が、
全て誤りだったことについては、少しも触れようとしない。
三島は慎重に言葉を選びながらも、
目で威圧するように美咲を見据え、話を続けた。
「奴は裏で"トレジャー・ナイト"ってバーを仕切っている。
表向きはただのカフェバーだが、
夜になるとそれ以上のことをやってる店だ。
お前の友人が関わってたとしたら、あの店にいるかもしれない。」
三島が口にした「トレジャー・ナイト」は、
都会の裏路地にひっそりと佇む隠れ家的なバーで、
昼と夜でまったく異なる顔を持つ店として知られていた。
その名が示す通り「宝探し」のように、
闇取引や人探し、さらにはそれ以上の事が行われている噂が絶えない。
その程度の情報などすでに知っている美咲は、
三島の鋭い視線をものともせず、カウンターから足を下ろす。
その態度を見た三島の顔に一瞬、安堵の色が浮かんだが、
「ドン…それで?」
その態度が気に入らない美咲は、膝を伸ばして足を大きく左右に広げ、
カウンターにお腹をつけて身をぐっと乗り出すと、
頬杖をついて彼を見上げていた。
「じゃあ。その“トレジャー・ナイト”で働くにはどうすればいいの?」
彼女の鋭い視線と、乳房を近づけて魅せてくる態度に、
三島は一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻し、
「お前、本気で言ってるのか?」
と、半ば呆れたような口調で肩をすくめながら答えているが、
その視線は、美咲の真剣な表情をじっと見続けていた。
「もちろんよ!」
「お前、本気で行くつもりか?あの店で働くなんて正気なのか?」
三島の言葉には、警戒と悔恨の色が混じっていたが、
美咲の迫力には抗えないと悟ったようだった。
「とにかく時間が無いのよ、
アルバイトだって無しで、もうツケにしてくれたっていいじゃない!」
と、美咲は追い打ちをかけるように絶叫する。
美咲の態度が本物だと観念した三島は、
少しばかりためらいながらも重い口を開いた。
「…わかった。あそこの店で働く為には、今夜の21時に店の裏口に行け。
面接って名目で入れてくれるが、内情は荒っぽい人買いだ。」
「わかったわ」と、美咲は頷くが「人買い」という言葉に戸惑っている。
「外見や度胸で採用も決まるが、そこで必要なのは接客スキルじゃなく、
あらゆる意味での“覚悟”ってやつだ。わかるな?覚悟だぞ」
三島の視線が、確認するように美咲の頭から足先まで移動すると、
なにかに納得したらしく、複雑な表情を浮かべる。
そんな顔で三島が見てくるので「何?」と、一段と体を寄せて来る美咲。
「ああ、そうだったな。お前なら通るかもしれないが、油断をするなよ。
奴らは弱気な態度を見せると、すぐに食い物にしてくる連中だからな!」
。
美咲は挑発的な下着姿のまま、堂々と駅前に向かっていた。
周囲の視線が痛いほど突き刺さるのを感じながらも、
彼女はそれを微塵も気にする様子を見せなかった。
店を出るときに三島から
「美咲、今度のはデカいツケだからな。絶対に返せよ!」
と、念押しされた言葉が耳に残る。
その言葉は「生きて帰ってこい」とまで聞こえて焦りがこみ上げたが、
彼女は力強く「返すわよ」と大声で答えた。
それでも心の中では「もちろん、絶対にね…」と、何度も自分を叱咤し、
「こんなことも…」と、決意を新たにしながら下着姿で街を歩いた。
その行動自体に興奮しているのか、
それとも、胸の内で燃え上がっている気持ちなのか、
全身が焦がすような熱を、美咲は感じて歩いていた。
そんな気持ちだと気づいていない人は、
驚いた表情で彼女を見ていたが、誰一人として声をかける者はいない、
それでも、スマホを手にした人が美咲の姿をこっそり撮影しているのが、
ちらほらと彼女の視界を横切る。
視線を横切る度に、シャッター音や無音で撮影してくる人に気づき、
美咲は自分を鼓舞するように唇に小さな笑みを浮かべ、
「イイわよ。もっと見ていいし。さあ、もっと興奮して…」
と、声をかけるように言葉をつぶやいていた。
その後、駅前に到着して美咲がタクシーを待っていると、
またあの男たちが、話しかけてきたり、身体を触ってきたりしたが、
彼女はDVDで見た映像以上の事を行い、嬉しそうに相手をしていた。
その行為をしているうちに、
何故か美咲は、温泉旅館での出来事を思い出してしまっていたが、
その行為をする前にタクシーが到着してしまい、
残念そうにしてくる男達を無視して車に乗り込み「○○」と、
自宅のタワーマンションを目的地として告げる。
もちろん、興味深く探るように見てくる運転手もオスだったので、
「趣味なんで…」と、相手の視線を咎めもせずに笑って答えながら、
美咲は後部座席の中央に座るのを忘れなかった。
。
部屋に戻ると、美咲は真っ先にシャワーを浴びに向かった。
長い一日で溜まった疲れと不快感が、
肌や身体の中にべっとりとまとわりついているようで、
「あ…あの時…」
と呟きながら、石鹸を泡立て、指先を色々な場所に滑り込ませた。
その後、あの時と同じ感情が芽生え、
あの時と同じような格好で声を漏らしながら、全ての汚れを洗い落とす。
少しの気怠さとスッキリした気分の美咲は、
ふと風呂場の鏡に映る自分の姿を見つめ、「あの友達って…」と、
取り留めのない思いにため息をつく。
熱いシャワーが肌に触れ、石鹸が洗い流されると、
ようやく一息つけるような心地がして、
自然と目を閉じ、湯の温かさに身を委ねた。
そうやって身を委ねている内に、流れる水が髪を滑り落ち、
日中の出来事や心のわだかまりが洗い流されていくように感じた。
シャワーを終えた美咲は、キャバ嬢としての装いに着替え、
いつものように入念にメイクを施した。
佐々木が選んだ派手な下着は、仕事には少し露骨だと思ったが、
面接のアクセントになると感じ、用意した服と一緒にバッグに入れた。
すべての準備が整い、鏡に映る自分に気合を入れるように一つ頷き、
「行くわよ、美咲…これが最後の…」
と、心の中でつぶやきながら、夜の街へと足を踏み出した。
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周囲には、小さな看板がいくつもぶら下がり、
夜遅くまで明かりを灯す飲食店やバーが軒を連ねている。
美咲は、その一角にあるビルの階段を上がりながら、
ホコリ臭い空気と古びた壁に圧迫されるような緊張を覚えていたが、
毎日この道を歩いているせいなのか、不思議と懐かしさも感じていた。
目的の階にたどり着くと、蛍光灯がちらつき、
ゴミが散らかった廊下が目に飛び込むと懐かしさはさらに強まり、
「三島」と書かれた手書きのプレートが視界に入ると、
美咲は「…あった」と小さく呟き、ほっと胸をなで下ろした。
毎日この店に通っているせいか、美咲はノックもせずにドアを開ける。
そこには、いつもの格好をした三島が、
連絡を入れていない突然の訪問にも驚いた様子はなく、
変わらない冷ややかな表情でカウンターの奥に立ったまま、
ゆっくりと顔を向けてきた。
三島の口元に薄い笑みが浮かんでいる事に、美咲は一瞬たじろいだが、
すぐに動揺を抑え込み「続きの情報を頼むわ」と毅然とした声で告げる。
「ふふ、来るのが遅いんじゃないか?」
三島は全てを見透かしたような口調で言いながら、
美咲の身体に視線を向けたが、
「何かあったのか?」
と、すぐに興味を失ったらしく顔を背けていた。
美咲は彼に答えることなく、黙ったまま彼の動きを待つ。
その無言の態度に、三島は小さく肩をすくめて一言、
「まあいい」とつぶやくと、棚から古びたファイルを取り出した。
彼の低く抑えた声が、薄暗い部屋の静けさに溶け込み、
冷ややかな雰囲気を一層引き立てる。
美咲は緊張を抱えつつも、今ここで聞き逃してはいけないと、
三島の口元に意識を集中させる。
しかし、彼は何も言わないままファイルをめくり続けるだけだった。
その沈黙に耐えきれなくなった美咲は、ふと口元に笑みを浮かべた。
「ウフフ。彼も…」と小さく呟きながら、
男たちが何を求めているのかを察し、ある行動を始めた。
だが、三島は依然として美咲に顔を向けることなく、
気にも留めていない様子だ。
しばらくして準備を終えた美咲は、鞄から名刺を取り出し、
「これで、いいでしょ?」
と、少し挑むような口調で呟いていた。
彼女が彼に差し出したのは、
佐々木から受け取った名刺で、それに目を落とした三島は、
「あっ…」
と、手首から先に布が無くなっている事に驚き、その先へ視線を送ると、
「ああ…」
と、彼女の姿を見て言葉に詰まっていた。
三島が驚いたのには理由があった。
ビルに入ってきた時、美咲は昭和レトロな服装をしており、
彼も店に来た時に確認をしていた。
しかし、目の前に立つ美咲は、
セルビデオ店で佐々木が選んだという大胆な姿になっていた。
前回、ラフな服装で現れたことで三島の機嫌を損ねた経験から、
今回は、彼の関心を引こうとして?
いや、美咲はやり返すつもりで?
それさえも違って、最近の経験で学んだのだろう、
極端に挑発的な格好を選んで魅せて相手の動揺を誘い、
少しでも彼から優位に立とうとしていた。
美咲は妖艶な笑みを浮かべ、挑発的な視線を三島に向けたが、
彼はただ驚いた表情を浮かべるだけで、何も言ってこない。
優位に立った美咲は、「ドン!」と勢いよく足をカウンターに載せ、
続けて「友達はどこよ!」と声を張り上げた。
その動作に、三島は一瞬言葉を失い、
カウンター越しに彼女を凝視したまま目を丸くする。
困惑の色を隠せない三島は、視線のやり場に困りながらも、
美咲の大胆な姿と態度に完全に引き込まれていた。
「前回の格好は悪かったわね。ウフフ。じゃあ、これなら大丈夫でしょ?」
カウンターに片足をのせたまま、
美咲は背筋をすっと伸ばし、挑発するような視線を三島に送る。
「今日はどうなの?少しは、君のご機嫌取りになったかしら?」
完璧に作り上げられた「女」のオーラが店内に漂い、
美咲の微笑みにはどこか意地悪さが滲んでいた。
その様子に三島は視線をそらし、落ち着かない仕草を見せながらも、
口元を引き締めて言葉を探している。
彼の反応に、美咲はさらに余裕を見せるように、意地悪く顔を歪め、
「まだ。足りないの?ウフフ。コレかな?三島ちゃん」
と、軽く脚を動かして相手が興味を持っている場所を魅せつけながら、
鋭い視線を投げかけていた。
「…その、例の似顔絵の件なんだが…」と三島が切り出したが、
美咲の鋭い視線に押されて、彼の声にはわずかにためらいが滲んでいる。
その様子に美咲は微かに笑みを浮かべ、
「あの絵の名前は、藤井遼じゃないの?」と言い放つ。
彼女は三島から渡された似顔絵をスマホで検索し、
その画面を突きつけるように見せながら、
「この男で間違いないのよね?」と詰め寄った。
三島は一瞬困惑したように眉をひそめたが、すぐにため息をつき、
「…藤井遼。お前も気づいたか」と低く呟く。
しかし、その後も謝罪の一言もなく、まるで試していたかのように、
冷ややかに視線を向け、「しもむらえいいち」という情報が、
全て誤りだったことについては、少しも触れようとしない。
三島は慎重に言葉を選びながらも、
目で威圧するように美咲を見据え、話を続けた。
「奴は裏で"トレジャー・ナイト"ってバーを仕切っている。
表向きはただのカフェバーだが、
夜になるとそれ以上のことをやってる店だ。
お前の友人が関わってたとしたら、あの店にいるかもしれない。」
三島が口にした「トレジャー・ナイト」は、
都会の裏路地にひっそりと佇む隠れ家的なバーで、
昼と夜でまったく異なる顔を持つ店として知られていた。
その名が示す通り「宝探し」のように、
闇取引や人探し、さらにはそれ以上の事が行われている噂が絶えない。
その程度の情報などすでに知っている美咲は、
三島の鋭い視線をものともせず、カウンターから足を下ろす。
その態度を見た三島の顔に一瞬、安堵の色が浮かんだが、
「ドン…それで?」
その態度が気に入らない美咲は、膝を伸ばして足を大きく左右に広げ、
カウンターにお腹をつけて身をぐっと乗り出すと、
頬杖をついて彼を見上げていた。
「じゃあ。その“トレジャー・ナイト”で働くにはどうすればいいの?」
彼女の鋭い視線と、乳房を近づけて魅せてくる態度に、
三島は一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻し、
「お前、本気で言ってるのか?」
と、半ば呆れたような口調で肩をすくめながら答えているが、
その視線は、美咲の真剣な表情をじっと見続けていた。
「もちろんよ!」
「お前、本気で行くつもりか?あの店で働くなんて正気なのか?」
三島の言葉には、警戒と悔恨の色が混じっていたが、
美咲の迫力には抗えないと悟ったようだった。
「とにかく時間が無いのよ、
アルバイトだって無しで、もうツケにしてくれたっていいじゃない!」
と、美咲は追い打ちをかけるように絶叫する。
美咲の態度が本物だと観念した三島は、
少しばかりためらいながらも重い口を開いた。
「…わかった。あそこの店で働く為には、今夜の21時に店の裏口に行け。
面接って名目で入れてくれるが、内情は荒っぽい人買いだ。」
「わかったわ」と、美咲は頷くが「人買い」という言葉に戸惑っている。
「外見や度胸で採用も決まるが、そこで必要なのは接客スキルじゃなく、
あらゆる意味での“覚悟”ってやつだ。わかるな?覚悟だぞ」
三島の視線が、確認するように美咲の頭から足先まで移動すると、
なにかに納得したらしく、複雑な表情を浮かべる。
そんな顔で三島が見てくるので「何?」と、一段と体を寄せて来る美咲。
「ああ、そうだったな。お前なら通るかもしれないが、油断をするなよ。
奴らは弱気な態度を見せると、すぐに食い物にしてくる連中だからな!」
。
美咲は挑発的な下着姿のまま、堂々と駅前に向かっていた。
周囲の視線が痛いほど突き刺さるのを感じながらも、
彼女はそれを微塵も気にする様子を見せなかった。
店を出るときに三島から
「美咲、今度のはデカいツケだからな。絶対に返せよ!」
と、念押しされた言葉が耳に残る。
その言葉は「生きて帰ってこい」とまで聞こえて焦りがこみ上げたが、
彼女は力強く「返すわよ」と大声で答えた。
それでも心の中では「もちろん、絶対にね…」と、何度も自分を叱咤し、
「こんなことも…」と、決意を新たにしながら下着姿で街を歩いた。
その行動自体に興奮しているのか、
それとも、胸の内で燃え上がっている気持ちなのか、
全身が焦がすような熱を、美咲は感じて歩いていた。
そんな気持ちだと気づいていない人は、
驚いた表情で彼女を見ていたが、誰一人として声をかける者はいない、
それでも、スマホを手にした人が美咲の姿をこっそり撮影しているのが、
ちらほらと彼女の視界を横切る。
視線を横切る度に、シャッター音や無音で撮影してくる人に気づき、
美咲は自分を鼓舞するように唇に小さな笑みを浮かべ、
「イイわよ。もっと見ていいし。さあ、もっと興奮して…」
と、声をかけるように言葉をつぶやいていた。
その後、駅前に到着して美咲がタクシーを待っていると、
またあの男たちが、話しかけてきたり、身体を触ってきたりしたが、
彼女はDVDで見た映像以上の事を行い、嬉しそうに相手をしていた。
その行為をしているうちに、
何故か美咲は、温泉旅館での出来事を思い出してしまっていたが、
その行為をする前にタクシーが到着してしまい、
残念そうにしてくる男達を無視して車に乗り込み「○○」と、
自宅のタワーマンションを目的地として告げる。
もちろん、興味深く探るように見てくる運転手もオスだったので、
「趣味なんで…」と、相手の視線を咎めもせずに笑って答えながら、
美咲は後部座席の中央に座るのを忘れなかった。
。
部屋に戻ると、美咲は真っ先にシャワーを浴びに向かった。
長い一日で溜まった疲れと不快感が、
肌や身体の中にべっとりとまとわりついているようで、
「あ…あの時…」
と呟きながら、石鹸を泡立て、指先を色々な場所に滑り込ませた。
その後、あの時と同じ感情が芽生え、
あの時と同じような格好で声を漏らしながら、全ての汚れを洗い落とす。
少しの気怠さとスッキリした気分の美咲は、
ふと風呂場の鏡に映る自分の姿を見つめ、「あの友達って…」と、
取り留めのない思いにため息をつく。
熱いシャワーが肌に触れ、石鹸が洗い流されると、
ようやく一息つけるような心地がして、
自然と目を閉じ、湯の温かさに身を委ねた。
そうやって身を委ねている内に、流れる水が髪を滑り落ち、
日中の出来事や心のわだかまりが洗い流されていくように感じた。
シャワーを終えた美咲は、キャバ嬢としての装いに着替え、
いつものように入念にメイクを施した。
佐々木が選んだ派手な下着は、仕事には少し露骨だと思ったが、
面接のアクセントになると感じ、用意した服と一緒にバッグに入れた。
すべての準備が整い、鏡に映る自分に気合を入れるように一つ頷き、
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