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みさき(運命)

情報屋③

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 美咲が相手の返事も待たずにドアを開けると、
 カウンターで準備をしていた三島がこちらを見ていた。

「お客様。まだ、準備中なん…」「呼んだのは、ソッチ!」

 彼は、冷静な表情を浮かべてコチラを見たが、
 美咲の姿を見た瞬間、呆れたような顔に変わり、

「……おい、その格好はどうした?」

 と、ため息をつきながら、頭から足先まで見る。

 乱れた髪、化粧っ気のない顔、
 実用的なデニムマキシワンピース、生足に黒い厚底サンダル。

 その格好を見て、美咲が慌てて駆けつけたのが一目瞭然だった。

「急いでいるとしても、もう少し何とかできただろ?」
 三島は肩をすくめ、ため息交じりにぼやいた。

 美咲は顔が熱くなるのを感じ、
 気まずそうに目をそらしながら小声で「急げって…」とつぶやく。

 普段なら、完璧に着飾ってから出掛けるはずなのに、
 今さらどうしようもないこともわかっていた。

 三島はしばらく見ていたが、少し渋い顔で「…まあ、いい」と言い直し、
 話を続けようとしたが、その見た目以上に気になっているらしく、

「…におうぞ」

 と、三島の目には、苛立ちと何か複雑な感情が浮かんでいた。

 その一言に、美咲は一瞬驚いたが「ごめんなさい…」と小声で謝り、
 真っ赤な顔をして視線をそらした。

 そんな美咲の態度を見て、三島は少し間を置いた後、
 低い声で「…しもむら、えいいち」と名前を告げた。

 その名前を聞いた瞬間、美咲の眉がかすかにひそめられた。

 彼女も三島が、重大な名前を伝えようとしているのはわかったが、

「…誰?」と、彼女は少し苛立ちながら問いかけ、

 三島の顔をまっすぐに見つめた。

 三島は黙り込んで、美咲を睨むように見返す。

 その名前は、彼にとって知っていて当たり前なのかもしれないが、
 美咲には馴染みがなく、
 混乱が深まるばかりで「知らない」と頭を振り、悔しそうな顔で答えた。

 そんな彼女に、三島は驚いたような顔を見せ、
「本当に知らないのか?」「知らないわよ」

 そう美咲が即答すると、三島は肩をすくめるように小さく息を吐いた。

「それなら、なおさら話しておかなければならない。奴は……」

 彼が話し始めたところで、

「その人が、友達の失踪に関わっているって言いたいの?」

 と、美咲は遮るように言い放つ。

 三島は無言で頷いた。

 その表情から、
 彼が慎重にこの情報を伝えようとしていた理由がわかったが、
 それでも、美咲の感じた「誰?」という疑念は深まるばかりだった。

「でも、それだけで信じろっていうの?」
 と、意味がわからない彼女の視線が、鋭く三島に突き刺さる。

「だから、しもむらだって言っているだろう?」
「その名前を聞かされても、何の実感も湧かないのよ!」

 三島はため息をつき、視線を一度落としてから、
 もう一度美咲を見つめ直し、低く静かな声で話しを続けた。

「ああ…それは、何となく俺もわかっている。
 でも、ヤツの名前を知っておくことで、
 少しでも、お前が危険から遠ざかるなら十分だ」

 三島の真摯な言葉に、美咲はわずかに動揺したものの、
 視線を緩めることはなかった。

「いいから、ちゃんと教えてよ!」

 彼女の声が厳かに響き、緊迫した空気が二人の間に張り詰める。

「自分で調べてみろ!」と、冷たく突き放すような声に、
 彼女は三島が言っていた名前を、スマホに打ち込んで検索をかけた。

 しかし、画面に表示されたのは、
 断片的な情報や同姓同名の情報ばかりで、
 どれがそうなのか、目ぼしい手がかりにはたどり着けなかった。

 美咲は苛立ちを募らせ、視線を三島に向けた。

「何よこれ、全然意味がわからないじゃない!
 顔写真とか、会える場所とか、仕事ぐらいは教えて」

 彼女の目は鋭く、三島を追い詰めるように見つめていた。

 だが、三島は困ったように顔をゆがめ、視線をわずかにそらした。

「顔写真だって?そんなもの、手に入るわけがないだろう」

 彼の言葉には、どこかはぐらかすような気配が漂っていた。

「ふざけないで。私の友達が失踪したのよ。
 そんなに嫌がるってことは、あんたも何か重要な情報を隠してる!」

 美咲は食い下がり、さらに三島に迫った。

 三島は小さく息をつき、眉間に深いしわを寄せた。

 しばらく黙り込んだ彼は、
 まるで心の中で何かを整理しているようだったが、
 やがて諦めたように口を開いた。

「いいか…あの男に関わると、ろくなことがないんだ。
 俺だって知ってることを全部言いたいわけじゃない。危ないんだよ!」

 その言葉に、美咲は驚きつつも疑念がさらに深まった。

「その男の事を知っているのよね。じゃあ、ちゃんと話して!
 それが情報屋の仕事じゃないの?」

 彼女の声には冷たさが宿り、三島への不信感がにじんでいた。

 三島は肩を落とし、渋々と口を開いた。

「…会う場所なんて、今の俺には教えられない。
 ただ、もしヤツが動き出したら、そのときにはちゃんと教える。」

「…」

 三島が目的の男じゃないのかと、実は彼も仲間じゃないのかと、
 疑いばかりが強くなって、美咲は彼を強く睨みつけていた。

「もう、コレぐらいでいいだろう?」

 美咲は何かに気づいたかのように目を輝かせ、小さな声で呟いた。

「あなた……本当に知っているの?」

 その声は、挑発的でありながらも深い疑念と嘲笑を含んでいた。

 そんな美咲の反応に、三島はいつもの無表情とは違って、
 一瞬だけ目の奥に興味が浮かんでいた。

 美咲はその変化を見逃さずに口角を少し上げて、

「前にも言ったわよねぇ、知っているのならぁ。全部…ほしいって…」

 と、彼女は三島の好奇心を煽るように、ゆっくりとした口調で話す。

 三島は美咲をしばらく見つめ、眉をひそめて考え込んでいたが、
 やがて小さくため息をつき、

「あんたも、諦めないよな…わかった、少しだけ教えてやる。」

 と、三島は、美咲をじっと見つめたあと、ゆっくりと続きを口にした。

「条件は簡単だ。俺の言うことを何でも聞く、それで教えてやろう。」

 そう言うと、彼はニヤリと口元を歪め、
 この前と同じ顔で、手元のファイルから一枚の名刺を差し出した。

 美咲は名刺を手に取り、
 そこに書かれた「三葉建設工務店」の文字をじっと見つめた。

「え?…工務店?ここで何をしろっていうの?」

 三島は真剣な表情で頷いた。

「そこに行って、秘書として働け。」「その会社で?しかも、秘書?」

 美咲は混乱して問い返したが、三島は一切説明を加えなかった。

「それが俺の条件だ。できなければ、この話は終わりだ。
 さあ、帰ってくれ。仕事をしてくれば、続きを教えてやる」

 美咲はしばらく三島の冷たい視線を見つめ、ため息をついた。

 名刺の会社で秘書をするなんて突飛な要求だが、
 情報を得るためには従うしかなかった。

 もちろん、「お金で…」と、全てを片付けたい気持ちもあったが、
 彼には既に送金済みだし、
 話を引き出すときに、金銭の話をするのはタブーだと教えられていた。

 その思いが顔に出ていたのか、
 三島はこれまでに見せたことのない真剣な表情を浮かべ、
 メモ帳ほどの紙に何かを書き込むと、それを無言で美咲に差し出す。

「なに?」

 そこには、まるで写真のように細かく描き込まれた似顔絵が描いてあり、
 目元や口元まで緻密に再現されていた。

「これが、例の男だ。今回は特別に、お前を信頼して渡す。
 見たら入念に処分しろ、他人には見せるな!いいな。処分だぞ」

 美咲は驚きながら似顔絵をじっと見つめた。
 これだけ精巧な絵があれば、街中で探し出すのも難しくないだろう。

 何かを言いかけた美咲に、三島は冷たく告げた。

「それ以上の情報が欲しいなら、
 あの会社で秘書をきっちりやってこい。それが条件だ。」

 美咲が食い下がろうとした瞬間、
 三島は無言で扉を指差し、追い出すように促した。

 彼の態度に押されるように部屋を後にする美咲。

 廊下を歩きながら、彼の信頼を感じつつも、
 不可解なバイトに対する不安が募っていた。


 情報屋③
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