クロスオーバー

連鎖

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みさき(運命)

バイト①

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 早く三島から情報を得たい美咲は、
 キャバ嬢らしい光沢のある白いプリンセスロングドレスに、
 シルバーのハイヒールという目立った格好のまま、
 繁華街のビデオショップへ向かった。

 その店は、ここから多少遠いが歩けるような距離なので、
 ネオンがちらつく路地を抜け、目指す店の前にたどり着くと、

 薄暗い照明の下に、何かしら古びた感じの看板がかろうじて見え、
 ただ気になるのは「プレジャー」という店名と、
「おとな雑貨」「激安」「セクシーグッズ」と大きく書かれた文字だった。

 美咲が店内に入ると、壁際には古いポスターが色褪せたまま貼られ、
 棚にはぎっしりとDVDやブルーレイのケースが並び、
 カーペットには染みついた汚れやほこりが目立って、
 わずかに湿った臭いまでが、自分を喜んでいる気がしていた。

「いらっしゃい。」低い声と共に、レジカウンターの奥から店員が現れた。

 その店員の顔は醜く、毛穴が脂肪で詰まったような脂ぎった肌をして、
 キャバクラでも何度か見かけたが、再び見たいとは思えないものだった。

 その体格は、ぽっちゃりを通り越して醜悪で、
 手足はぎゅうぎゅうに膨れあがったような、見た目にも暑苦しく、
 仕事で見慣れたはずのその顔は、ここでは一層好色そうな目つきで、
 美咲を舐めるように見てくる。

「うぅうん、美咲ちゃん…だよね?なんだか、意外だなあぁ、
 こんなところで会うなんて。俺を探しに来てくれた?
 やっぱり、俺の事が好きなんだよね。いやぁ。仕事場にまで…ぐふふ。」

 彼のねっとりとした笑みが、美咲の背筋を一瞬凍らせ、
 彼が一歩近づくたびに、
 視線がドレスのラインや、肌の露出部分にじっくりと絡みつくようで、
 美咲は言いようのない不快感と戦慄を覚えた。

 その程度の事は、我慢できないわけではないが、
 彼が着ている服は、キャバクラで見た姿とは異なり、
 Tシャツに短パンという格好で、スネ毛や脇毛が見える上に、
 毛穴から滲み出す汗の感触まで感じられそうで、
 気持ち悪さが一段と増して、

「今日は、ちょっと…仕事の一環で来ただけよ。」

 と、つい目を逸らして話してしまった。

 美咲は冷静を装いながら応えたが、内心焦りを隠しきれないし、
 相手が自分を知っているだけに、余計に立場が難しい。

 そんな美咲の態度に、
 彼女が自分に会えて恥ずかしがっていると思っているのか、

「そっか、そっか…玩具かなあ?下着カイ?それとも…?」

 と、まるで美咲の意図を読み取るような調子で、
 すぐ近くで、無遠慮にじろじろと見つめ続けている。

 その視線に耐えながら、美咲は深呼吸をして心を落ち着け、
 三島から情報を得るために、ここで自分が果たすべき役割を思い出す。

「カチャン…で、DVD、
 このアルバイトに来たんだけど、店長さんはいる?」

 彼女の言葉に、店員は薄笑いを浮かべながら頷いた。

「ああ、これかい?もちろんさ。美咲ちゃん。特別に俺も協力するよ。
 なんなら、俺も一緒に色々と手伝ってあげるからさ。ぐふふふ。」

「店長さんは?」と、弱々しい声で美咲が問いかける。

「俺がそうだよ。美咲ちゃん。じゃあ、奥に来てもらおうか。」

 その言葉と視線に、美咲はわずかに眉をひそめながらも、
 自分の役割を果たすために淡々と店内の奥へ向かった。

 もちろん、店員は彼女の後に着いてくるし、
 背後から視線を感じつつも、プロフェッショナルな表情を崩さず、
 店内でのキャンギャルとしての仕事を遂行することを決意した。

 やっと美咲が思い出した名前は確か「山田」で、
 店では馴染みの客だったが、思わず顔を背けたくなるほど好色な男で、
 金払いがいいので我慢していたが、すぐにでもお断りしたい客だった。

 彼は背が低く、ぽっちゃりを超えた体型で肌は脂っぽく、
 エアコンがキツい店内でも、首元にはうっすらと汗が浮かび、
 着ているTシャツや短パンはピチピチで、
 はみ出した肌はハムやソーセージのように弾けそうだ。

「美咲ちゃん、なんだか何時もと違う雰囲気だね。ぐふふ。」

 山田が嬉しそうに笑い、彼女を上から下までじろじろと眺めてきた。

 美咲は、その視線がドレスの胸元やスカート部分に、
 まとわりつくのを感じ、思わず肩を強張らせた。

「今日は…ちょっと、キャンギャルのアルバイトで来ただけ。」

 そう言いながらも、美咲は心の中で息苦しさを感じ、
 ビデオショップの中は、店とは異なる種類の不快な空気が漂っている。

 キャバクラでこれだけ露骨に見られれば、席を立つのも許されるし、
 美咲が気に入らないなら入店禁止にもできたが、
 ここではそんなことはできないし、
 店主の山田に嫌われたら、アルバイトの話すら無くなってしまう。

 山田はそんなことを知っているのか、にやつきながら、

「じゃあ、美咲ちゃんには、キャンギャルの服を着てもらおうか」

 と言い、店の奥にある物置のような部屋へと向かった。

 しばらくの間、ガサゴソと何かを探している音が響き、
 やがて、山田が物置きから戻ってくると、
 その手には、あからさまに派手な衣装と、下着らしい布を持っていた。

 美咲はそれを見て一瞬言葉を失った。

「じゃあ。説明するよ。コレはとっぷで。コレはボトムね。いい?」

 トップスは、
 白地に青い縁取りがアクセントのホルタークロップドトップで、
 首元には大きな白襟が特徴的で、
 首に巻いたチョーカーは、蝶結びの青いリボンになっており、
 どこか愛らしさを感じさせるデザインだ。

 ただし、商品に使われた生地は薄く、頼りない手触りだし、
 胸の谷間部分は露骨にくり抜かれ、見せるように設計されて、
 首の襟以外は背中がすべて露出しており、トップスを固定しているのは、
 アンダーバストから伸びる広めの紐だけ。

 着丈が短いボトムは、
 スリットの入った青いローライズのタイトミニスカートで、
 トップ同様、外で着ることなど全く考慮されていないかのようで、
 丈の半分ぐらいのスリットがサイドに入り、美咲が体に当ててみると、
 お尻の下あたりをかろうじて隠す程度の長さしかなかった。

「コレ?」と、この服のことを指したのか、
 もしくは、これを以外にして欲しいと美咲は頼んだのだが、

「気づいた?ショーツまで付いているんだよ。安いでしょ?」

 彼からの答えは違って、嬉しそうに布切れを見せてきた。

 あり得ないのは、トップやボトムも既に使った形跡があるし、
 ショーツとして渡された物など、
 黒く細い紐が腰を一周し、T字の紐で前後をつなぎ、
 前側は三角形の大きな布が、前後を説明するように着いているだけ。

「どう?美咲ちゃんにぴったりだろ?ここで着替えてもいいし、
 難しいなら着替えを手伝うけどね。ぐふふ。」

 山田が下卑た笑いを浮かべながら言う姿に、
 美咲は内心で嫌悪感を抱きながらも、
 ここで引き下がるわけにはいかないと決意し受け取った。

「…これに着替えればいいのね。」そう言いつつ、
「更衣室は狭いから、ここで着替えなよ。僕は、店に行くからさぁ。」

 そう言ってくる山田の声は、既に耳には入らないし、
 彼の視線を気にしないように、
 店の奥にある狭い更衣スペースへと向かった。

 そこは古びたカーテンで仕切られた小さな空間で、
 中に入ると、壁際に大きな姿見が置かれている。

 その鏡の前に立つと、
 今の自分の姿が映り込み、自信に満ちたキャバ嬢の顔は消え去って、
 本当の自分の顔がクッキリと浮かんでいた。

 しかし、三島との取引を果たすため、彼女は深呼吸をして覚悟を決め、
 彼女は少し戸惑いながらも慣れた手つきで、
 キャバ嬢のタイトなドレスのファスナーを下ろすと、
 ドレスは肩から腰へとゆっくりと滑り落ち、
 鏡に映ったのは白いレースのブラとショーツ姿の彼女。

 その下着は控えめでありながらもセクシーで、
 彼女の体のラインをしっかりと引き立てていたが、

 山田から渡されたショーツはそれとは異なり、
 それを着ろとまで指定されるとは思ってもいなかった美咲は、
 着替える為に下着まで脱いでいた。

 全てを脱いだ姿を鏡で見つめているわけにはいかないと、
 慌てた美咲はショーツを手に取って着替え、
 ホルターネックのブラのような上着で胸を隠してリボンを取り付ける。

 そして、最後に残ったフェイスタオル程度のスカートを、
 できるだけ腰より下にして履き、
 彼女は鏡の前に立ち、胸元を気にしながらそっと手を当てる。

 もちろん、できるだけ胸が露出しないよう、慎重に位置を調整するが、
 それでも胸の下がわずかに覗いてしまうし、
 大きな胸の谷間は丸見えになった。

 そう見えても、どうしようもないのだと諦めるしかなかったので、
 トップが押しつぶされるような感覚を少しでも和らげようと、
 下乳が多少はみ出すような位置で着ていた。

 続いて、ミニスカートに手を伸ばす。

 できる限り下まで引き下げてみるが、鏡の中の自分は、
 わずかに覗く鼠径部やショーツを隠しきれていない。

 それでも、もう仕方がないと小さくため息をつき、覚悟を決める。

「靴は……」

 山田から靴の指定がなかったのは、せめてもの救いだった。

 今日はシルバーのハイヒールを履いてきたので、
 そのまま履くことにしたが、
 普段ならお尻を引き立たせるこの高さが気に入っているはずだが、
 今の姿で履くと、どこかちぐはぐな印象を与える。

 その違和感が気になり、
 彼女は無意識にハイヒールの感覚に合わせて踵を少し持ち上げ、
 鏡に映る自分をじっと見つめた。

 そして、「もう、諦めるしかないか」と小さく呟き、苦笑いを浮かべた。


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