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リリアンとクロ(正義の味方)

出会い②

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 彼女が逃げ切った後は、
 朝刊が遅れた事のクレーム対応に、一軒一軒、頭を下げて謝っていた。

 しかし、子供に見えてしまう理々杏に、
 強く避難めいた声で言う人は少なく、
 更新解除などとも言われなくて良かったのだが、
 逃げた時に歪んでしまった新聞は、彼女が買取る事になって困っていた。

 買取が新聞程度と言えるほどに、理々杏は裕福でも無く、
 元々少なかった現金が、もっと少なくなったので、
 少しでも節約しようと、一人暮らしをしているアパートの部屋で、
 チラシの食品ページを見ながら、少しでも空腹を紛らわそうとしていた。

「ガサガサ。。ハァああ。。これが、朝食。。今日のご飯。ハァア。。」

 小さな子供に見えてしまう理々杏が、奨学金で高校に通うためには、
 同じ孤児院を出ているような先輩を頼るか、
 お母さんの知り合いに頼むしかなく、
 このアパートの管理人がお母さんの知り合いで、
 たまたま、高校から歩いて三十分程度の距離にあったので、
 素直に何でもするから住まわせて欲しいと頼んでいた。

 もちろん、朝のアルバイトとは違うお手伝いをするという事で、
 このアパートでの一人暮らしを認めて貰ったのだが。。。。

(ハァ。。クロぉおお。ひもじいよぉお。これって、食べられるかなぁ。)
(蛍光インクだから毒になるよ。消化も出来ないし最悪動けなくなるよ。)
(そういうんじゃ無くてぇえ。ハァ。。美味しそうだなぁ。お肉ゥ。)
(朝ごはんが食べたいのなら、管理人に頼むか、家に戻ったら?)

 新聞に入っているスーパーのチラシは、とても美味しそうに見えるし、
 お菓子やジュースなどの嗜好品も多く印刷され、
 理々杏の若い心をかき混ぜていた。

 確かに同居人が言うように、
 孤児院に戻るか、身元引受人に話せば食事が出来ると思うのだが、
 何故か理々杏は、必死にどちらも嫌がっていた。

「ハァああああ。。管理人さぁあん。でも、これ以上。。家にぃ。ハァ。」

 やっぱり、食べたい気持ちを声に出して心を整理すると、
 何処かで食べようという気持ちも消えてくれて、
 夕食ぐらいは食べるようにしようと、心を先に進めていた。

(いい人だと思うけど?)(うぅン。。うん。クロが言うなら、いい人?)
(普通のおじいちゃんだよ。)(でもぉ。。ハァ。考えすぎなのかなぁ。)

 両親も、もちろん親戚や肉親など見たことも無いし、
 人との距離もドラマで見る程度の感覚なのだが、
 管理人のスキンシップが、この思春期が始まったような、
 少女から女に変わっていく身体が、拒否しているように反応してしまい、
 その後に続く、気まずい空気感が嫌で、
 最近は、あのおじいちゃんと話さないようにしていた。

(リリィが嫌ならいいけど。僕は普通だと思うよ。)
(ハァ。そうかなぁ。)(あはは、考えすぎだって。考えすぎ。)

 もちろん、母親におじいちゃんの行為を聞くという手段も考えたが、
 もし結果が悪い方向に転がれば、やっと一人暮らしを始められたのに、
 ここに住むことさえも出来なくなりそうで諦めていた。

「ガサガサ。。。ハァ。。。食事付きのバイト。。流石に。。深夜は。。」

(んっ!なにこれ。。。アレ?正義の味方会社。。なによこれ。
 年齢不問。性別不問。。。。身長。体重。スリーサイズ。えっ、応相談?
 月払いのお給料。。。。ウソ!。借金可能。50%先払い可能。
 有給完備。残業手当有り。出勤退社時間なし、緊急対応有り、応相談。
 待機時の食事代支給。うそ。。ご飯。。ご飯がぁああ。)

 理々杏が驚いているようだが、
 普通の社会人とあまり変わらない月給だし、
 書かれている内容は普通の事だったが、
 年齢不問なのも、会社の名前も、とても変な内容だったが、
 彼女の年齢で就職可能であれば、ありえないほどに破格の内容だった。

(やめた方がいいよ。リリィ。まともな会社じゃないから。ダメだよ。
 管理人さんの方が、何百倍もマトモだと思うよ。だからァ。
 早く行こうよ。大丈夫。あの程度は、普通のおじいちゃんだって。)

 クロは何かを知っているのか、
 もしかしたら、管理人から何か別のものを貰っているのか、
 彼女が見ている会社のことを、とても嫌そうに話して、
 管理人に助けてもらおうと説得していた。

(早く行かないと。。早く。正義。。正義の味方。。そうよ!これは。)
(待ってぇえええ。ちょっと、待とうよ。リリィ。ちょっとやめよう。)

「ガサガサ。私は、正義の味方よ。そうよ。これは啓示よ。これは運命!」

 お腹が空くと頭が冴えるとも言うが、
 今の理々杏は、今朝見たスプラッターで異常な光景と、
 目の前に広がっている「募集中」の文字が、
 全て自分を正義の味方にするために引かれたレールのように見え、
 その胡散臭い現状を疑うこともなく、全てを受け入れていた。

 
 出会い②
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