夏目の日常

連鎖

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二人の日常

誓い③

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 二人が見つけたプールは、ゴミ処理施設に併設されたもので、
 調べてみると、今の時間は平日の一般開放時間のようで、
 素直に、その場所を利用することにしていた。

「コレって、大丈夫かなぁ。ちょっと変じゃない?大丈夫?」

「今日も暑いから大丈夫ですよ。建物に入ると暗いから見えませんって、
 だから早く中に入ろうよぉおお。早くぅぅ夏目さん。早く行こうよォ。」

 もちろん、夏目が持っているまともな服は一着しかないので、
 最初に着ていた透け透けなロングワンピースを我慢して着ていた。

 もちろん、この服が透けて中身まで見えている格好を、
 旅行中は色々な場所で見せていたとしても、

 平日の昼間にプールに来るような人たちに見せるのは抵抗があったし、
 いくら海斗に大丈夫だと言われても、見せるのに少し気が引けていた。

 それでも、自分からプールに行こうと海斗を誘ったのだし、
 他に普通の場所で着る服がなく、

 多少身体のラインが出ていると思うが、アソコの毛は透けないし、
 腕組みをしていれば、胸のポッチも見られないだろうと諦めていた。

 。

 建物の中に入ると、海斗よりは多少年上の女性が、
 暇そうに、簡素なカウンターに座っていた。

「すみません。プールの券は、ここで買えばいいですか?」

 そんな二人が建物に入ると、受付の近くに自動販売機のような機械と、
 隣には店員がいない売店があるのだが、
 こういう場所は初めてなので、どうすればいいか素直に聞いていた。

「はい、そこでお買い上げ下さい。市外ですか?」

(女は年上よねぇ。男。。はァァ。いい男よ。イイなぁ。ああいう人が。)

 平日の昼間に若い男女が来るだけで珍しいのか、
 何か意味があるのだろうと、値踏みするような顔で二人を見ていた。

「はい、二人とも市外です。」

「じゃあ、400円ですね。
 そのボタンを押して券を買ってから、そのまま持ってきて下さい。」

(やっぱり、この辺じゃいないよねぇ。彼女の服も高級品だし、

 んっ。。彼のって、普通のよね。ハァ。あのブランドを、
 私服みたいに着ちゃうんだから、お金持ちの令嬢なのかなァァァァ。

 最近セレブで流行っている透けさせて着るなんて、カッコイイわぁ。)

 見ただけで、彼女の方が年上のハイカップル同士が、
 どうしてこんな田舎のプールに来ているのか、少し興味を持っていたが、
 受付係としては、そんな気持ちをおさえて普通の応対をしていた。

「カチャン。。カチャ。。。本当に安いね。カイトぉおおお。」

 同性の探るような視線は痛いぐらいに感じていたが、
 サービスエリアの時とは違う感じだったので、とても安心していた。

「そうだよねぇえ。ここが良かったかなぁ。
 ここなら近かったし、この辺で旅行をしても良かったよね。アハハハ。」

「そおぉお?温泉も、海だって、途中も楽しかったわよ。あはは。
 お酒で寝ちゃったから、あんまり覚えていないけどねえええェ。」

「お酒は禁止ですからねぇ。夏目さん。」

「そうだ。カイトおぉおおお。」「?」

(プ。。プール?どれを思い出したあ?あれか?あの行為?あっちか?)

 プールなどに繋がるイベントなど考えられなかったが、
 怒ったように軽く睨んでくる夏目に焦っていた。

「もぉおお。激しいんだからぁあ。もう、あんな事は外でしないでね!」

「えっと。。」「。。」

(いいなぁ。彼と高級温泉旅行かぁ。羨ましいなァ。わたしのは。。)

 自分の容姿が、普通よりも上だと思っていたが、
 本当のセレブを見てしまうと、
 連れている海斗を見ているだけで、ため息しか出てこなかった。

「別にいいけどね。ウフフフ。」
「あの。。そのぉお。。」「。。。。」

(やっぱり、そうよねぇ。ハァ。。彼も、海斗さんぐらい。。ふぅう。)

 二人が付き合い始めた当初なら考えられないほどに大胆な話を、
 人前でも堂々と話していたので、
 彼らの仲の良さを見て羨ましく思っていた。

「うふっ。寝ている時に、もう襲っちゃだーーーめよ。か。。い。と。」

 夏目も、海斗が少し戸惑っている様子を見て楽しんでいるし、
 受付係のバカカップルを見るような視線は少し気になるが、

 そういったことは少しも気にせずに、
 二人の気持ちが、ますます近づいているのを感じて嬉しくなっていた。

「ご利用ありがとうございます。帽子は、ありますか?」
「帽子が必要なの?」

「ええ、プールには必要ですので、お手数をお掛けしますが、
 隣のショップで、選んで持ってきてください。」

(そうよねぇ。そうでしょうとも。ハァ。ですよね。持って無いよねぇ。)

 SNSで見るようなプールだと考えられないが、
 このプールは目的が違うのよと、少し嫌味まで混じっていたのか、
 それとも、
 二人が羨ましかったのか、帽子を用意して欲しいと話していた。

「サイズって、L?Mかなぁ。」「どうなんだろうね。」
「奥様は髪が長いのでL。ご主人はMがいいと思いますよ。」

「じゃあ。これと。。コレで、お願いします。」

「1500円になります。」
「じゃあ次は、夏目さんの水着を選ぼうか?アハハハ。水着ですよぉおお。
 でも、柄も多いんだねぇ。へぇええ。形も多いなァあ。」

(こういうのだよね。当たり前だよねぇ。アハハハ。ハァ、こうかなぁ。)

 一般的なプールの売店では当たり前のことだが、
 扱っているのは、比較的控えめなデザインだけで、
 色や柄も主に地味な紺色や黒や、派手な花柄や柄のない物ばかりで、
 さらに、競泳用に近い、ひざまで隠すような水着まで並んでいた。

「ああ、えっと。ごめんなさい海斗。水着は恥ずかしいから先に行ってて、
 選んで買ったら行くから。ちょっと先に行って待っててよ。」

「えぇー。一緒に選ぶよ。これなんてどう?。。コレでもいいよ。」
「うぅウン。うれしいけど。。チラ。。アハハハハハ。いいかなぁ。」

「いいから。任せてよ。これがいいよ。これなんてどう?これぇぇ。」

(こういうのもいいかなぁ。やっぱり、こういうの。

 ハァ。ビキニが無いし。。もっと、レジャーよりのプールなら、
 アレも着れるかなぁ。ハァ。。ショートパンツを履けば、あの紐のもぉ。
 V水着も。。ティシャツを着ればァいけるかなぁ。。

 ホテルのプライベートプール。うぅうん、部屋に付属のプールでも。)

 もちろん海斗も、少しでも露出が多そうな物を選んで勧めていたが、
 車に積んだままになっている水着を思い出してしまうと、

 どうしても、イケナイ妄想が心を満たして考え込んでいるので、
 周りからは、水着を適当に触っているだけの迷惑な客に見えていた。

「カイト。ちょっと。いいから。。グイグイ。先行ってて。カイトぉ!」
「ウゥウン。ウ。。ウウウン。うっうううん。」

(海斗さんって、本当に彼女が好きなんですね。ハァ。。海斗さんが、
 私に選んでくれたら、何でもいいんだけどなぁ 。どんな水着だってぇ。)

 こんな所に売れ残っている水着でも、
 彼に選んで貰えたのなら、嬉しくてすぐに見せてあげたいと、
 何故か自分の彼氏が、海斗に変わったような妄想をはじめていた。

「あっ。。すみません。」

 いくら間が悪い海斗でも、夏目が申し訳なさそうに見ている先に、
 不機嫌そうな顔で咳払いしている人がいたら、
 素直に謝ることしか出来なかった。

「そうだカイトっ。ちょっと車の鍵を貸してよ!。。忘れ物があったの。」

「ポイ。。アハハ。じゃあ先に待っているね。だだだ。それじゃぁ。」
「モォ。。子供なんだからぁあ。」「。。。」

 受付係が、美男美女が痴話喧嘩をしている姿を見て、
 微笑ましい気持ちにでもなってくれたらいいが、そんなことは無いので、

 不機嫌そうに見てくる相手の気分を悪くさせないように、
 海斗は慌てて更衣室に消えていった。

 慌てて逃げていく可愛らしい海斗の背中を見送っていた夏目も、

「す。。すみません。ちょっと水着を取りに車に戻りますので、
 水着は買わなくて大丈夫です。本当に申し訳ございません。」

 水着を買うのを諦めたのか、受付の彼女に謝っていた。

「。」

(やっぱり、こういう場所の水着じゃ気に入らないでしょうね。ハァ。)

 店に売っている備品が売れたからといって、恩恵もない彼女としても、
 売れた後の並び直しや、補充の手間が無くなったので内心喜んでいた。

 それよりも気になるのは、この透け透けのワンピースを着ている彼女が、
 どんな水着を着て泳ぐのか、
 もしかして泳がずに、外で見るだけで終わらせるのか気になっていた。

「アハハハ。。。。。。はァああ。。。。アハッ。アハハハハハ。
 今から取ってきますので、ちょっとだけ外に行きます。
 すみませんチョット。チョットだけでいいんです。すみません。」

 もちろん夏目も、旅行の服を安く揃えて欲しいと言っていたのに、
 ここで高価な水着を買うことは考えられないと思い出したのか、

 それとも、素直に海斗と同じように考えているのか、
 もしかして、水着らしいものが安く売っている店でも探しに行くのか、
 自分たちが乗ってきた車に戻って行った。

「わかりました。持ってきたら、またお声をかけください。」

 。

 車に戻って荷物?水着?服?を取ってきた夏目は、
 水着だけを持ってきたと言えないほど、
 大きなボストンバッグを、大切そうに抱えて持ってきていた。

「じゃあ、入ります。」「どうぞ更衣室は、あちらになります。」

「あっ。。ガサガサ。すみません。この水着って、ここで大丈夫ですか?」

 持ってきた水着?に何か気になることがあるのか、
 受付の前を通り過ぎようとしたときに、
 バッグから水着を取り出し、申し訳なさそうな顔で尋ねていた。

「は。。い?柄的にも問題ありません。。。し、形も。。大丈夫ですよ。」

(コレを着るの?これを彼女が着るの?やっぱり、流行りとかかなぁ。)

 受付の女性は、何か気になることがあったのか、
 すごく嫌そうな顔で、一瞬だけ夏目の顔と水着を交互に見ていたが、

 その後は、少し困ったような?少し懐かしそうな?不思議な顔で、
 持ってきた水着を使っていいと答えていた。

「こういうプールで泳ぐのは初めてなので、他に必要な物がありますか?」

 夏目も、最初に彼女がしていた表情が気になったらしく、
 この水着を着て泳ぐ為に、必要なものが無いかを尋ねていた。

「キャップは選んで頂きましたし、
 泳ぐのでしたら、ゴーグルに、後は大きなタオルですね。
 さっきの場所に置いてありますから、好きな物を選んでください。」

(セレブってのも大変よね。ハァ。こういうのを着るのねぇ。これかぁ。)

 セレブの夏目が、この水着を魅せたいのであれば問題は無いが、
 彼女自身は普通の生活と普通の幸せをと、彼氏のことを思い出していた。

「じゃあ。これと。。。。これでお願いします。」
「4000円です。」「(タカァアア。)うぅうん。ペラペラ。」

「ガシャ。。ガシャ。。お釣りは、6000です。袋に入れますか?」
「ガサガサ。このままで、このまま。あ。。ありがとうございます。」

 いつもの夏目は、自信に満ちた印象を与えることが多いが、
 この時は何かを気にしているのか、他のことに気を取られているのか、

 オドオドと焦った表情をして、一万円札をポケットから取り出して払い、
 受け取った商品をバッグに詰めていた。


 誓い③
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