夏目の日常

連鎖

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二人の日常

問題解決②

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 店が女だけで運営されると問題が発生することが多いため、
 この店にも対応するスタッフがいたようで、
 その人が睨むように海斗達を見ていたのに、
 少しも彼らが態度を変えないので、何かを言いたそうに近づいてきた。

「二人とも、さっさと奥に行ってくれ。
 あと。。特に鈴木さんは、来る前には連絡を入れて欲しいと、
 いつも言っていますよね。もしかして、聞いていませんでしたか?」

「師匠?」
「あ。。あはは。いやぁああ。スマン。」「。」「あっ。すみません。」
「ヒロちゃん。行こうよ。グイグイ。さっさと行こうよォ。いこぉお。」

 注意してきたフロアスタッフは、二人の知り合いのようで、
 その声と視線は怖かったが、その後は特に何も言われず、
 山崎だけがペコペコと頭を下げて謝っていた。

「みんな。スマン。今日はアイコの為に来たんだよ。」
「ほら。カイトぉおお。行こうよぉ。海斗も、はやくぅう。カイトぉお。」

 アイコは山崎の腕に胸を押し付けたままで、
 キャスト達にもみくちゃにされている海斗に声を掛けていた。

「みんな。ゴメンな。今日は、アイツの為に来たんだよ。
 今度来る時には、君の為に来るから、
 それまで、いい子で待っててくれよ。ポンポン。ポン。頼むよ。」

 身体を寄せていたキャストの頭を優しく撫でると、
 それが合図だったのか、
 触られた女は一斉に身体を離して、嬉しそうに少し離れて見ていた。

 ただ少し気になるのは、合図を受けて離れたキャストの近くに、
 新人だったのだろうか、
 彼女が海斗を見ているだけで、何か別のことを考えていたので、

「その時には、そうだね。。。。ニコっ。。。君にお願いね。ちゅっ。」

 気になった彼が、覗き込むように顔を寄せると、
 正気に戻った彼女が、驚いて何か言おうとしたので、
 海斗は何も言わずに優しく微笑み、そして軽く口づけをしていた。

「あわぁあ。」「いやぁああ。カイトぉおおおお。いやあああああ。」
「次は、私もぉお。」「次はわたしぃいい。」「エ。。えぇええ。」

「アイツとの用事が終わったら、そうだねぇえ。
 一番働いていた子に、続きをお願いしようかな。それじゃぁ、またね。」

 キャストの唇を奪うのはダメだし、身体に触れるのもダメだと思うが、
 何故か海斗が彼女達にするのは許されているようで、
 怖い顔で睨みそうな男も、ニコニコと笑って許していた。

「アイツはアイドルとか?」「ホストじゃないのか?」「すごいよなぁ。」
「スカウトか?」「誰かの知り合い?」「カッコイイよな。」
「あの男じゃシャアねえって。」「あはは、仕方ねえな。」「まあなっ。」

 やっぱり海斗の姿を直接見てしまうと、
 嫉妬が1で、諦めが8、残りが羨望という、
 こういう店としては、絶対にダメな雰囲気が漂っていた。

「パンパン。さあ。さあ。パンパン。皆さん。仕事をしてください。
 お客様が待っていますよ。さあ、仕事をしてください。仕事ですよ。

 お客様には、大変申し訳ございませんでした。

 これから一時間は、席料を無料にいたしますので、
 少しの時間でも構いませんので、続けてお楽しみください。」

「まあいいか。」「しゃあないよな。」「そろそろ時間か?」「まあぁ。」

 席料をタダと言われたのは嬉しいが、自分達が狙っていた女の子が、
 海斗にあの態度を見せている所を見てしまうと、
 イマイチ盛り上がらない雰囲気は、大きく変わらなかった。

「もぉぉぉ。飲みませんか?」「ぐいぃ。ここどうですか?」「ぐい。」
「私も、この後は頑張っちゃうからぁあ。」「さあ飲んでぇ。飲んでぇ。」

 逆に店のキャストは、やる気が満ちているらしく、
 時には、少し強引に接客しているように感じられるが
 身体が触れてしまうのを嫌がって、
 少し離れて座っていた女の子でも、すぐ近くまで近づいてくれるし、
 もちろん積極的な女の子は、それ以上に近づいてくれていた。

 お客もすぐ近くで接客してくれるのも、仕事だとはわかっているが、
 好みの女の子が、近くで笑って話してくれるだけで、
 だんだんと前の出来事や、王子様の事など忘れていった。

 。

 そんな雰囲気に、店がなっていると思っていない三人は、

「アイコさん。今日は、なんの御用ですか?」
「ゴン。カイトお前さぁ。もっと来いって言ってるよなぁ。アアアン?」
「し。。。仕事も有りますので。。しっ。。師匠の。」
「おい、俺まで巻き込むなって。。。。ち。。。ちがうよ。あいこ。」
「はぁあぁ。そうか、お前の差し金かぁあ。お前かぁ。お前だなァあ。」
「違う。あいちゃん違うってぇえ。チガウヨ。。違うったら。ちがう。」

 三人が入ってきた部屋には、
 部屋の向かって一番奥に、巨大なモニターが壁にかけられて、
 モニターの手前には、豪華な四角いテーブルが配置されていた。
 そのテーブル用の椅子は、手前と右側には二人掛けのソファーが、
 残った左手には、一人掛けのソファーが置かれていた。

 そんな豪華な部屋にふさわしい絨毯も、
 その毛足は長くフサフサとして非常に豪華なものだが、
 その上で男達は正座をさせられて、
 それを上からアイコが立って睨みつけていた。

「言っているよな。ここのキャスト全てを夢中にさせろって!
 その為に、毎日来いってなぁ。毎日だぞ、毎日なぁ。言ったよなぁア。
 店に来たら。全員を惚れさせろって言ったよなぁ!覚えているかぁ?」

 アイコは、さっきまでの可憐な仮面など脱ぎさって乱暴な声で話し、
 なぜ怒られているのか分からない二人は、神妙な顔で聞いていた。

「お。。。お金が無いから。。む。。無理です。む。。むむむりです。」
「お金といえば、店への借金。そうだ。二人とも払えるんだろうなぁあ!」

「アイコさん。そ。。その件は、海斗で大丈夫って。大丈夫って言った。
 海斗が来たら。待つって言いました。」
「あ!俺がそんな事を言ったか?言ったのかぁあ!!言っただとぉお!!!
 俺は、さっさと払えって言っているんだ。今すぐに払やぁいいんだ。」

 店のキャストが、同僚全員を海斗に夢中にさせようとするのは変だし、
 山崎の借金を、アイコが肩代わりしているのなら理解出来るが、
 店の借金を、アイコが取り立てようとするのも変だし、
 それが呼び出した理由だと言われ、
 呼ばれた二人は、理解が出来ないと戸惑っていた。

「ガチャ。外まで聞こえたらどうするんだ?
 アイコ。お前はいつも煩いぞ。少しはダマレ。いつも言っているよな。」

 この豪華な部屋からの音が外に漏れるはずは無いが、
 今入ってきたのが、店内で優しく注意してくれた男だと思いたいが、
 今感じるのは、心まで縛りつけるような声で、感情を無くした顔で、
 さっき部屋で見かけた男が入ってきていた。

 部屋に入ってきたその姿は、海斗にとって二人目のアニキで目標だった。

 この男は店の総支配人で、
 この地域のいくつかの風俗店をまとめている仲村透。
 もうすぐ六十歳になりそうなのに、
 がっしりとした体つきと、年齢を感じさせない立ち振る舞いに、
 さっきまでの、少し気弱な仮面は欠片も見当たらず、
 アイコを冷たい顔で一瞬見たが、すぐに優しい顔で海斗を見ていた。

「マスター。」
「最高です。マスター。うぅぅ。マスター助けてぇ。ますたぁあああ。」

 大の大人が、情けない顔をしてすがりついて来たので、

「はぁぁぁ。お前さぁ。顔だけは良いんだから、
 さっきみたいに出来ないのかよ。今も、本当は出来るんだろ?
 こんな女。お前が叩き伏せればいいだろ!こんな腐ったゴミだぞ。」

 本当はこれが本音なのだろう、ダメな弟を叱る兄のように、
 少しだけ人間味のある声で海斗に話しかけていた。

 自分がゴミだとまで言われているアイコは、

「あぁあァアア、すみません。総支配人。私が言い過ぎました。
 はぁあああ。申し訳ございません。申し訳ございません。ゴシゴシ。」

 さっきまでとは明らかに違う態度で、
 二人の横に正座で座り、頭を床に擦り付けて必死に謝っていた。

 アイコが謝っていることなど、仲村の目に最初から映っていないのか、

「さあ、お二人とも立ってください。
 借金など、気にしないでいいですから、
 私は、山崎様に救われているんです。そう言いましたよね。
 さあ、海斗様もお立ちになってください。
 これからは、床になど座らないでくださいね。」

 正座をしている二人の手を取り、
 とても穏やかな菩薩のような笑みを浮かべて、優しく引き上げていた。

「も。。」

 そんな優しい声を聞いて、自分も許して貰おうと顔を持ち上げた瞬間に、

「どけ!ドカン。」

 視界に入ってきた不快なゴミを、
 視界から外そうと、思い切りお腹を蹴り飛ばしていた。

「うぅぅぅ。すみません。総支配人。
 許して下さい。モウシマセン。うぅぅぅ。うぅうう。ぐぅぅぅ。」

 華奢なアイコが、屈強な男が手加減しているとはいえ、
 気を許した瞬間にお腹を蹴られて、出すのも苦しそうな声で謝っていた。

「そんな二人に何を言っているんだぁあ!メスブタがあ゙ぁあ。

 俺が何か言ったか?俺が言ったのか?俺が言ったか?おい、ゴミ!
 俺がゴミに働けとでも言ったのか!

 お前は、何様だと思っているだ?俺の恩人を相手に何をしていたんだ?」

「まあ。まあ。マスター。」

「こんな雌豚、カネを巻き上げるしか脳がないゴミがァ。
 ドカン。ああっ!ドガン。ドガン。お前の替えなどいくらでもいるぞ!
 わかったか?ドガン。。おいゴミ!。わかったのかよ!。ドゴん。」

 流石に怒っていても冷静な所もあるのか、外から見えない、
 折れたりしない、受け止めやすい、 痛みはあるが鈍痛はしない、
 店の商品が表面的には壊れていないように見える場所を、
 的確に蹴っていた。

「うぅぅぅ。。マ。」
「なんだぁ?メスブタぁああ。何を言ったァあ!!何を言おうとしたァ!」

 アイコの言った言葉に何かを感じたのか、
 さっきまでの怒りが一段と膨れ上がったようで、
 今度こそ強い力で、思い切りアイコを蹴りそうだと思った二人は、

「ガシッ。まあまあ、マスター、二人とも怒っていませんよ。」
「ガシ。マスター、僕は怒っていません。怒っていませんって。」

 仲村の身体を抱きつくように押さえつけて、蹴るのをやめさせていた。

「ふぅうぅ。ふうぅ。良かったなぁ。死なずに済んだなぁ。なあゴミ!」
「ぐぅう。ごぼっ。。ごぼぼぼ。ぐぼぼぼん。」
「パン。。聞こえねぇなぁあ。謝罪しろ。パンパン。さっさと言え!」
「はぁあぁ。。ジョロ。じょろろろ。す。。。すみません。ジョロロ。」

 仲村も二人に蹴るのを止められて、冷静になったのか、
 頭がぼんやりとして、まともに返事さえ出来ないアイコの頬を叩くと、
 目を覚ました彼女の下半身から、
 緊張の解けた音が漏れだし、そのまま謝罪の言葉を述べていた。

「(きったねえぇ。)アイコ、大丈夫かあぁぁ?」
「アイコさん?グイグイ。アイコさん、大丈夫ですか?アイコさん。」
「アハハ。すみません。じょろろ。アハハ。すみません。アハ。アハハ。」

 強く蹴られ、強く頬を叩かれた姿を見ていた二人には心配され、
 涙を流している姿など何とも思わない仲村には、無視されていた。

「ほっとけばいいですよ。そんな、ゴミ。
 それより、久しぶりのご来店ですが、何かありましたか?」

 アイコが目の前で涙を流しているのに、
 仲村が再び菩薩のような優しい顔をして笑っていたので、 
 制裁はすでに終わったと思いたいが、
 二人が店に来た理由が、アイコから呼ばれたからと言ってしまえば、 
 絶対にまた続きを見せられるのは、わかっていた。

「んっ。。。うっ。。。おっ。おい、海斗。おまえの相談って何だっけ?」

 もちろん、山崎はさっきまで忘れていた事なのだが、
 海斗が相談したがっていた事を思い出していた。

「し。。。しょおおぉおお。聞いてください。ししょぉおおおおお。
 やっと聞いてくれるんですかぁああ。やっとぉおお。やっとですかぁ。」
「お。。おうぅ。おおぉお。」
「そうだ。マスターも、マスター。ガシ。。グイ。聞いてくださいよ。
 ますたぁあ。な。。なつめさんがぁああ。ぐいぐい。」

 さっき、仲村がアイコにしていた姿を一緒に見ていたはずなのに、
 今が本当だと錯覚しているのか、それ以上に怖いもの知らずなのか、
 相談を聞いてもらおうと、海斗が強くしがみついていた。

「ええ、いいですよ。」
「落ち着け海斗。。おい、落ち着いて話せ!グイぃい。落ち着けって」

 仲村は、体格のいい海斗にしがみつかれて痛いハズなのに、
 嫌がるふりもせず、痛いと振り払おうともしていなかった。

 山崎は薄い本のような光景が、目の前に広がって戸惑っていたが、
 さっきの事を思い出して、
 落ち着いて話せと、引きつった顔で海斗を引き剥がしていた。

「あぁ。アハハ。。すみません。すみません。あぁあ。いやぁあああ。」

 山崎の真剣な顔に驚き、海斗も何かを思い出したのか、
 夏目から言われた、旅行に行くために必要な課題を、
 覚えている限り、正確に三人に説明していた。


 問題解決②
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