雪の旅人

士鯨 海遊

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 魔物は降る吹雪を見上げて笑みを浮かべた。
 「私はオリンに愛され、心から愛していた」
   横から聞く旅人はその吹雪を見上げる魔物とは別人にそれは美しい国の姫の姿と現れていた。
 「本当にロマンチックな話だ」
 「そうね、ここまでなら……」
 魔物の笑みが段々と消えようとしていた。
 「てことは、つまり……」
 「ええ、帰って来ませんでした……」
 そう言うと口を閉じて沈黙した。周りは吹雪のヒュウーと鳴る音だけが響いている。

 「そっか、残念だったな——」
 旅人は小さい声で返した。
 「戦死か?」
 すると魔物は旅人に顔を向けて言う。
 「いえ、味方に殺されたのです」
 その言葉に旅人は少し驚いた。
 「どういうことだ?」
 「彼はあの夜の翌日に戦地へ行きました。そして戦の最中に味方の兵士から剣を突かれて死んだのです。それも同じ部隊の騎士に——」
 そう話す魔物の顔は悲しい表情をしながらも奥底に怒りを込めていた。
 「どうしてそんなことを?」
 「王様がそう命令したのです」
 「王様? 君の父親が?」
 「あの日の夜に私とオリンが広場にいるところを王様の部下が目撃していて、そのことを父に話したそうです。身分の違いもあってか父は激怒して同じ部隊の騎士に暗殺を命令したのです」
 魔物の目に一粒の涙が落ちる。彼女は旅人の前で初めて泣いた。
 「なんと、酷いものだ」
 落ちてく涙を見た旅人は魔物に同情した。
 「お城では戦死だと報告されました。けど後日にオリンと一緒に戦地へ行っていた別の騎士から暗殺されたことを私に告げました。しかもその騎士はオリンを殺した騎士だったのです」
「え?」
 旅人はまた少し驚いた。
「戦の負傷でお城に戻ったそうですが、その騎士は私の方へ行き、全てを話しました。父である王様に命令されたこと、戦の中に紛れてオリンを剣で刺したことを告げると涙を流しながら謝っていました。それを聞いて私はとても悲しみその方に怒りをぶつけました。王様の命令とはいえ、オリンを殺した騎士はその行為にとても後悔していたのか跪いては何度も謝り、最後に私に一礼して静かに去っていきました。——その後、その騎士は自殺しました。お城の裏で自ら首を剣で斬って死んだそうです——」
 そう話し、沈黙した。

 「なんとも残念だ……」
 旅人は小さく呟いて横を歩く魔物の様子を伺う。魔物は下を向いてまた一粒の涙を落とした。その涙は地面の積もる雪の中へと消えてゆくのである。
 旅人はポケットから懐中時計を取り出して視線を魔物から変える。時刻は午前零時十五分、日を跨いでいた。深夜でありながらもさっきとは変わらない白い空である。
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