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武器屋

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 ギルドの前に到着する。馬から降りると、すぐさま馬番の初老のお爺さんが手綱を受け取り、馬小屋へと連れて行く。
 馬を降りて頭を押さえ「…痛い…」と言う私。帰りにもサラの匂いが良すぎて二回ほど抱き着いた。そして二回目にサラからゲンコツを貰ったのだ。
「同じ女相手にヘンな事をしてくるからだっ! お前ホントは変態なんじゃないのか?」サラが呆れながら言う。違うしっ! ただ綺麗な女の人や可愛い娘が好きなだけだしっ!
 サラと一緒にギルドに入ると「ネネ、コイツを洗って綺麗にしときなっ! リーン、カオルコのギルドカードの手続きを続けろ!」マントを翻しながら職員に指示するサラ。何かかっこええ…。
 ネネと呼ばれた職員は、私に不審者を見る目を向けてきたネコミミの娘だった。持ってた書類をカウンターの端に置いて、すぐにサラからブーメランを受け取る。さっきの害鳥を駆除した時に、血で汚れていた。それを洗いに行くため、ギルドの外へ出て行く。リーンはイヌミミの娘で、私の冒険者登録の手続きをしていた娘だ。サラがリーンの所に行くように私に言う。
「書いて頂いた書類に不備はありませんでした。後はこの書類のこちらの部分に血を一滴垂らしてもらいます」そう言いながらリーンは、小さくて太めの針をだしてきた。私はその指示に従い、人差し指を針に刺して書類に血を垂らす。すると書類が変化し、一枚のカードになった。
「これが私のギルドカード……」自分のカードに感動していると、サラが依頼版の依頼書を一枚剥ぎ取りながら「これでカオルコも冒険者の一人になったわけだ。冒険者は自分の生き死ににも重大な責任が発生する。心するようにな…」振り返って真剣な目をして告げる。
「あ、あの…、マスター。その依頼書は…」他の職員が訊いてくる。
「ああ…、たった今このカオルコが全部終わらせた」と一言。途端にザワつくギルド内。「あの依頼、誰も受けなかったヤツよね?」「一年以上放置されてたよ確か」「あの娘今日登録したんだったらF級よね? D級の依頼は受けられないはずだけど…」などなど…。職員たちの囁き声が聞こえてくる……。どう言う事?
「では依頼達成の報奨金を……」とリーンが言い掛けるが「その必要はないっ!」とぴしゃりと言い切るサラ。「何故ならば、カオルコは登録前にテストとしてあの依頼を片付けた。なので今回の件に関しては正式に冒険者になってなかったカオルコには報酬は発生しない。二級以上の依頼は受けられないと言うギルド規定にも反していないっ!」
 そう言いながらニヤァとした意地の悪い笑顔で私を見るサラ……。何その顔、すげぇムカつく~~っ!!
「そんなのズルいよサラさんっ! 私結局タダ働きじゃんっ! ズルいズルい!」
「まぁ今回のお前の討伐は証拠品も持って来てないし? 討伐証明が出来ないわけだから、本来は規定で無報酬として処理されるんだよ」ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら言うサラ。「うぅぅ~~~っっ……」と唸るしかない私。
 そんな恨みがましい私に、サラは自分の財布から金貨を一枚取り出し、指で弾いて投げて渡す。そして…。
「これでお前も冒険者の一人になった。生きるも死ぬも全て自分自身に掛かってくる……。いいか? カオルコ。…絶対に死ぬなよ?」顔を近づけて耳元で囁くように言うサラ。あの意地の悪い笑みは、いつの間にか消えていて、真剣な表情に戻っていた…。
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 ギルドで登録を済ませた私は、早速武器を買いに行った。買う武器はもちろんブーメラン一択。ブーメランなら上空の獲物や地上にいる魔物の全てに対応できるからだ。
「…ごめんくださーい…」と武器屋のドアを開ける。途端に鼻を付く男臭さ。ううぅ…、長居できそうにない…。
「はいよー」と声がして、奥から青年が出てきた。私より少し年上っぽい。
「武器を買いに来たのかい? ウチは何でもあるけど、どんなのが欲しい?」
 日焼けした肌で、白い歯を見せて訊いてくるお兄さん。
「あ、あのー…、七~八十センチくらいのブーメランを…、二本……、ケースも含めて……」
「ブーメラン?」途端にお兄さんの顔色が変わる。そして「ブーメランかぁ…」と言って頭を掻く。
「もしかして、ないんですか?」と恐る恐る尋ねる私。「いや、ある事はあるんだけどね……。お客さんの注文通りの大きさのが……。ただなぁ……」
 ? 何か問題でもあるんだろうか?
「今時ブーメランなんて買う人少ないから、倉庫の奥に置いてあるんだよ。多分…、結構錆びてるかもなぁ……」
「その錆び落としって、時間掛かるんですか?」と私。「まぁ、多分二~三時間あれば大丈夫だとは思うけど……」とお兄さん。
「じゃあ、今お金払っときますから、後で取りに来ますっ! 幾らですか?」早くこの男臭い店を出たい……。
「ちょっと待ってて。親方に訊いてくる」と言って一旦奥に引っ込むお兄さん。
 一分くらいすると、大男が奥からぬぅっと出てきた……。ドワーフかと思ってたら人間のオッサンだった。途端に強くなる男臭。
「……お前さんがブーメラン買うってか?」ジロリと見下して言う大男のオッサン。けどその程度の威圧なんかに負けてられない私。「はいっ」と目を見てハッキリと答える。
「使えるのか……?」と訊いてくるオッサン。「……誰よりも上手に使えます!」と断言する私。
「……フッ」と鼻で笑って、「ブーメラン二本にケースも付けて金貨三枚だ……。三時間で鏡面仕上げにまでしといてやる…。三時間経ったら受け取りに来な……」
 言われた通りに財布から金貨三枚を出して、オッサンの目を睨み返しながら差し出す。ニヤリと受け取るオッサン。
 そして私は一旦武器屋を後にした…。「だはあぁぁぁぁ~~~~~っっ!!」と大きく息を吐きだしながら……。
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「ただいまぁ」と宿屋のドアを開ける。「おかえりー」と返すモニカお姉ちゃん。
 昼過ぎの店の食堂は大分空いてて、食事してるお客さんはテーブル席に二人しかいなかった。
「もう今日の用事は全部終わったの?」とテーブルを拭きながらモニカ姉。「ううん、この後また少し出かけるから。あ、帰りは遅くはならないよ。昼食終わったら雑貨店に寄って買い物して、武器屋さんで武器を受け取ってくるだけだから」
「ふぅん…、武器は何を買ったの? 短剣とか?」
「ううん、ブーメラン二本」水を飲みながら答える私。
「ブーメランだとうっ??」いきなり厨房の奥から驚く声が聞こえる。モニカ姉の旦那さんのダニーさんの声だった。長期滞在してる私とは、モニカ姉ほど喋った事はないが、清潔感のあるナイスガイだ。二十五歳だそうだ。
「ブーメランなんて今時使ってるヤツいないぞ? それに扱い辛くて敢えて選ぶヤツもいない! それを二本も??」
「うん、一番得意な武器だし…」と、事も無げに答える私。ちょっとポカーンとしながら、すぐに表情を変え「すっげぇ心配だ…」とブツブツ言いながら、夕飯の仕込みに戻るダニー。モニカ姉の旦那だけあっていい人だ…。
 そして野菜スープとパンで遅めの昼食を取った私は、冒険に必要な物を雑貨屋さんで一通り揃え、ブーメランを受け取りに武器屋へ行く。
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「…出来てるぜ」とぶっきらぼうに言う武器屋のオッサン。刃幅が最大六センチくらい、大きさが七十センチ、重さは三キロほどの二本のブーメランが、皮のケースと共に用意されていた。気付かれないように念動力で補助しながら、ブーメランの一本を手に取ってみる。うん、悪くないっ!
「ほぉ…」その私の様子を見て、オッサンが口橋でニヤリと笑う。「お嬢ちゃん、見た目と違って結構力持ちなんだな…」感心した口調だ。そして真顔になる。
「いいか? 嬢ちゃん。冒険者ってのは甘いもんじゃねぇ。命懸けの仕事だ。そのブーメランが壊れたらまたすぐ作ってやる! だから、ウチの武器を使っててしぬんじゃねえぞ? 絶対にだ」と顔を近づけられて言われる。すっげぇ男臭い……。
 こうして私は今日一日の予定していた用事を全部終えて、モニカ姉の待つ宿屋へと帰って行った。
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