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「寝落ちされるのが好きだ」肩を撫で続けた。
しおりを挟む寝息が聞こえる。
穏やかな・・・・柔らかな寝息・・・・
平日。
世間が、騒々と・・・・突き動かされるように働いている中。
湾岸のホテル。
大きな窓からは暖かな陽の光が入っていた。
下界の喧騒は聞こえてこない。
暖房も十分に効いていいる。
「幸福」な時間が流れていた。
腕枕の中。
華子がこちら向きに寝顔を見せていた。
・・・・・無理もない。
「処女喪失」
その儀式が終わったばかりだ。
・・・・それに、
ここまでくるのに・・・・色々あった。
非常事態宣言での延期。
・・・・そもそもが病床の身だ。
全てが終わって、
本当に、
本当に、ホッとしたんだろう。
腕枕で寝られるのが好きだ。
腕枕に限らず、
女の子・・・・女の人・・・・
腕枕で寝られる・・・・
そもそも、
「眠られる」
というのが、好きなんだろうな。
「眠る」というのは、安心している証拠だ。
・・・・それは、
ボクに対して安心している・・・・・信頼しているという証だ。
それが、嬉しいんだろう。
腕枕の中。
カクっと・・・・
一気に体重が重たくなる、
子供が・・・・幼児が腕の中で寝入って、
一気に体重が重くなる、
あの瞬間。
・・・・ボクにとっては、
かけがえのない瞬間だったんだ。
・・・ボクは、
ずーーーと、虐められてきた。
小学校から、ずーーーっとだ。
「虐められる」というのは・・・・・
「必要とされていない」
大事にされていない。
他人から必要とされていない。
そういうことだ。
小学生・・・・子供のころから、
ボクにとって、
世界とは・・・
世間とは、
全てが「敵」だった。
虐めてくる子供たち。
弟との仲を裂こうとする大人たち。
母子の生活を壊そうとする社会・・・・
全てを睨みつけるように生きていた。
・・・そんな、ボクにとって、
唯一の味方・・・・
いや、
ボクを信頼している人間・・・・ボクに身を任せている人間。
ボクを必要としてくれる人間。
それは、
弟だけだった。
「母子家庭」
日々、弟とふたりで過ごした。
だから、
弟を寝かしつけるのは、
弟が、ボクの手を握りながら寝てくれることは、
ボクにとって、
かけがえのない、
何よりの幸福だった。
・・・・・同じことだった。
女の子。
女の人。
腕枕の中で寝られることは、
ボクを信頼している証であって、
ボクを必要としてくれる証だったんだ。
・・・・・だから、
嬉しかった。
明るい部屋。
静かな部屋。
華子の寝息が心地良かった。
その幼児のような、
安心した寝顔。
腕枕をして、
肩を抱きながら・・・・
肩を撫でながら眺めていた。
眠りを誘うリズム・・・
・・・肩を撫で続けていた。
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