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「世の中から消滅した」解雇。
しおりを挟む後ろからベンツのクラクションが鳴り響く。
東京。赤坂。
道路の真ん中で、停まってるわけにはいかない。
ギアを入れて走り出す。
アパートに帰りつく。
着替えるも何も、とにかく電話する。
覚えてしまった、何度もかけた明菜さんの電話番号・・・・女子寮に電話する。
女の人が出た・・・・たぶん、寮母さんだ。
明菜さんへの呼び出しをお願いする。
「・・・・出られたんですよ・・・・」
・・・・え・・・?
「もう、寮を出られてます・・・・」
何か、歯切れが悪い・・・必要最小限しか言えないって感じだ。
・・・・そうですか・・・
今日子さんを呼び出してもらう。
今日子さんは不在だった。
電話を切る・・・それしかない。
明菜さん・・・
ボーっとしながら、
溜息をつきながら、時間をやり過ごす。
どうしよう・・・どうすればいいんだろう・・・
明菜さんがいなくなってしまった。
陽が暮れていく・・・・
ただ、大型テレビの画面を見つめていた。
・・・・どうすればいいんだろう・・・
・・・・明菜さんがいなくなってしまった・・・・
深夜。
SEVEN STAR の煙の中、
目の前を、テレビの光が流れていった・・・・
・・・・明菜さんが消えてしまった・・・・
月曜日。
会社に行く。
すでに、今日子さんがいた。
ボクの顔を見て、全てを察したんだろう。
「カズくんには言わないでって・・・口止めされてたの・・・」
明菜さんの居場所はわからないという・・・・教えられていない、と。
・・・ホントかどうかはわからない。・・・しかし、それ以上は何も言えない。
たぶん、
本当に知らされていないんだと感じた。
正真正銘、
明菜さんがいなくなった。
糸が切れてしまった。
・・・・それでも日常は回っていく。
気を取り直して仕事をしていく。
誰も、何も言わなかった。
ボクへの気兼ねなのか・・・
誰も、明菜さんの話題には触れない。
1日、2日、3日・・・・
・・・・それでも、日にちが経てば、
風の噂・・・・聞くともなしに噂は流れてきた・・・・
流れてきた断片を集めていく・・・・ジグソーパズルのピースが埋まっていく。
明菜さんは、夜の店、スナックでバイトしていた。・・・・短大時代から「水商売」をやっていたらしい。
明菜さんは、
親からの援助なしで、東京で大学生活を送っていた。
下宿代・・・授業料・・・
全てを自分で賄っていた。
短時間で稼ぐには「水商売」が一番効率が良かったんだろう。
「姉御肌」だった明菜さんには、意外と苦にならないバイトだったのかもしれない・・・・
その「水商売」を、
就職してからも続けていた。
・・・・そして、「刑事」がやってくる。
ボクのところまでやって来たくらいだ。
まずは本人に・・・・
会社の寮に・・・
そして、会社にやってきた。
「総務」
直属の課長は女性だ。・・・・しかし、その上の「部長」は男だ。男社会のサラリーマンだ。
その部長が、明菜さん同席で刑事の相手をした。
明菜さんの親父さんは、
会社を潰して失踪中だ。
借金を踏み倒して失踪中だ。・・・・しかし、その借金は、親父さんの借金じゃない。親父さんは、友人の「連帯保証人」として、全てを被っただけだ。
それでも、
社会的には、
「親父さんの借金」となる。
地元では、けっこうな、大きな事件だったらしい。
親父さんは、「民事」「刑事」両方で訴えられていた。
警察は「民事」不介入でも、「刑事事件」となれば、捜査に動く。・・・・刑事が、明菜さんの身辺をウロつく・・・
そして、会社にまでやってきた。
・・・・これによって、会社は、明菜さんが、「水商売」に手を染めていたことを知ってしまう。
会社は「上場企業」だ。
副業、バイトなんか、もってのほかだった・・・さらには「水商売」となれば尚更だ。
重大な職務規定違反だった。
女性課長は明菜さんを庇った・・・・せめて、理由をちゃんと聞くべきだ。
しかし、男部長は、単なる「事なかれ主義」のサラリーマンでしかない。
最も大事なのは、「自分のキャリア」だ。
自分のキャリアに傷がつかないこと・・・「減点」がつかないことだ。
問答無用。
明菜さんは、
解雇・・・・せめてもの温情、「依願退職」となった。
事実上の「解雇」
即時の退職となった。
即時に、寮を追い出された。
静かな・・・いつもの日常が流れていた。
桐原チームの一員として、ふつーに日常が流れていった。
誰も、何も言わなかった。
何かを言うほどの問題ではないということか・・・・
「明菜さん」
もう、
彼女の名前を口にする人はいなかった。
「明菜さん」
ひとりの人間の存在が、
キレイさっぱり、この世の中から消滅してしまった。
こうして、
アッサリと、
明菜さんは、ボクの前から姿を消してしまったんだ。
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