不思議体験・外伝。

ポンポコポーン

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「彼女の裏の顏」ベンツの怒の顏。

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「東京って・・・寒ぃよなーーー」


明菜さんが助手席で吐き捨てた。



東京は寒い・・・・


東京は日本の首都だ。・・・・しかし、寒い。


ボクは、関西育ちだ。
そのボクからみれば、随分と東京は寒い。・・・・・古来、「都」ってのが関西に栄えたのがよくわかる。

東京からは、少し北上すれば「東北」だ。

だから、東京の気温は、意外と冷たい。


ボクは雪国でも生活してきた。


雪国の冬は・・・

それは、寒い。


「シンシンとした寒さ」


この擬音の意味が骨身に染みる寒さだ。


・・・・しかし、


意外と、雪が降ってしまえば暖かい・・・というか、落ち着く・・・・


雪が降ってしまえば・・・雪が「保温効果」を発揮するのか、

意外と、なんとかなっちゃう・・・・


雪にも「保温効果」がある。

だから、「かまくら」を作るってなことをやるわけだ。


経験としては、

雪が降る手前・・・・そのあたりが、一番「寒い」って感じる時期だ。


・・・・・東京は、雪が降らない。

・・・いや、降る。

冬、数回は降る。

しかし、積もるほどには降りはしない。


言ってみれば、雪国の、「雪が降る直前の寒さ」が、ずっと続くような感じだ。


そして、

「関東のカラッ風」  とは、よく言ったもんで、冬は、とにかく風が強い。

しかも、東京都心、高層ビルが多い。


よく言われる「ビル風」というのが吹く。・・・・それで尚更に「寒い」



地上に出てみれば、大渋滞だった。

ただでさえ、この辺りは渋滞ポイントだ。

なんといっても、東京の東京。

日本の首都の・・・・そのまた中心地だ。


いつだって、大きな外車が行き来して渋滞している。・・・・今日は、さらに「雪」って状況が追加されている。

昨日、雪が降った。・・・そして、今日も曇り空・・・未だにチラチラと雪が舞い降りる。

昨日からの雪が溶けない。


道路は、「積もっている」と言うほどじゃない。

それでも、うっすらと道路が白い・・・・そして、そこが凍っているんだろう。スリップする車が続出している。

こうなったら、大きな外車は弱い。

「大きな車」は、雪道では最大の弱者だ。


しかも、
東京の車両は、「冬用タイヤ」なぞ履きはしない・・・・ボクだって、人生で一度も買ったことがない。


道路の至る所で、路面が凍っている。

あるいは、微かな泥濘・・・・そこに、大きな外車が足をとられて滑っていた。

道路全体でノロノロと車が進んで・・・・いや、進まない。這うように動いていた・・・・


ノロノロ運転。
エンジンが暖まらない。
いつまで経っても温風になりはしない・・・



カチッ!



明菜さんが、煙草に火を点けた。


溜息が聞こえるようなライターの音だった。


明らかに、明菜さんは不機嫌だった。



・・・・やっぱり、
ボクの、自分勝手なSEXがマズかったんだろうな・・・

嫌な格好をさせちゃったんだろうな・・・

どこかで、「痛く」しちゃったのかもしれない・・・どこだろう・・・どこだろう・・・どの場面だ・・・・??


SEXの最中は冷静には考えられない。

無理な姿勢、無理な態勢をさせてしまうことがある。・・・・思わず、力が入ってしまって、女の人を痛くさせてしまうこともある。

・・・・微かにわかっても・・・気づいても・・・

最中、
自分の・・・止められない男の快感に逆らえず突っ走ってしまう・・・・


・・・ヤバイ・・・

このままじゃ、まずい・・・・



「ごめんなさい・・・」



思わず口走った。

悪戯が見つかった弟の声だった。



「べつに、カズくんが雪降らせたわけじゃないでしょ?」



冷たく返された。


・・・いや・・・そういう意味じゃなくて・・・・


でも、
もう、
それ以上、何も言えなくなってしまった。



大都会、東京の街。

渋滞。

冬。凍える道路。

ノロノロとスカイラインを走らせる。


車内にも冷え冷えとした空気が流れていた。・・・・いつまでたっても温風が吹き出されてこない・・・


メンソールの香りが流れる。

沈黙が流れる。



聞きたいことがあった。


親父さんのことだ。


あの日、

警察がやってきた。

写真を見せられ、親父さんを知らないかと尋ねられた。


明菜さんが、ボクの部屋に出入りしているのはわかっていると刑事は言った。

・・・・それで、親父さんのことを何か知らないか・・・そう尋ねられた。


もちろん、知らないと答えた。何も知らない、と。


そのことを明菜さんに伝えていない。


親父さんのことを聞くってか・・・刑事が来たことは伝えなきゃと思っていた・・・

しかし、もう、何かを言える雰囲気じゃなかった・・・・



車が流れ出した。


道路が首都高速の高架下に入り、雪の影響がなくなったからだ。

快適・・・とまではいかないまでも、流れ出した。


片道3車線。

その一番右車線を走っていた・・・・



「あたし、会社辞めるから」



明菜さんが突然言った。

灰皿で煙草を消した。



・・・・え・・・・?



「・・・・なんとか、続けたいって思ったんだけどね・・・・」



・・・・え・・・?・・・え・・・・????



「やっぱり、一度、裏の仕事やっちゃうとダメだね・・・・・」



思わず、何度も、何度も・・・何度も、明菜さんの顏を見る。

運転しながらだ。

前を見て、明菜さんを見て、前を見て・・・・



「でも・・・やっぱ、お水が天職なのかもなぁ・・・・」


ガッハッハと豪快に笑う。



お水・・・・???・・・



え・・・???

ええええーーーーーー????



「1ヵ月、真面目に働いて、12、3万円じゃぁねーーーーー

ちょっと、やってけないわ・・・

やっぱ、あたしには、表の仕事は無理だわ・・・・」



・・・・なんだ・・・・???

何を言ってる・・・・

何を言えばいい・・・???


・・・明菜さんが会社を辞めてしまう・・・・???



「カズくん、左っかわ走って」



東京都心。

周りは、大型の外車ばかり。

そこでの、3車線の進路変更。

緊張が走る・・・・


・・・・なんとか、一番左の車線に入った・・・・・


ただ、ちょっと無理気味だった・・・

真後ろに、大型ベンツの威圧感。・・・なんだか、顏が怒ってるように見える・・・



言うべき言葉が思いつかない。

完全にパニックだ。・・・・の、最中での、東京都心の運転・・・さらに、雪・・・


交差点。

信号で停まった。

ホッとした・・・・

ふぅ・・・息をつく。



沈黙。



・・・・何を言う・・・・

落ち着け・・・落ち着け・・・・落ち着け・・・オレ・・・


セブンスターを咥えた・・・・


目の前、横断歩道。

東京。
デザイン優先の色とりどりのコート姿が歩いて行く・・・・

モデルのような男女の姿が行き交う・・・


歩行者信号が点滅に変わった・・・・



「あたしは無理だったけど・・・

カズくんは、表社会で頑張るんだよ」



明菜さんを見る。


満面の笑顔だ。


姉ちゃんの笑顔だ。



ガチャ!


ドアを開けた。


「そんじゃ、ねー」


素早く明菜さんがスカイラインを降りる。



目の前。信号が青に変わる。



明菜さん!


セブンスターが唇にくっついてブラブラと・・・



ドアが閉まる。

振り向く明菜さん。

勢いよく手を振った。

駆け出すように歩道へ。



明菜さん!!



声にならない叫び声を上げた。


後ろからベンツのクラクション。


助手席の窓を開ける。



明菜さん!!!



左足を、微かに引きずるような明菜さんの後ろ姿。・・・・その先に地下鉄の駅が見えた・・・



大型ベンツの怒り顏。

クラクションが響り響く・・・・




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