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「会社の黒幕」姉貴に逆らえない。
しおりを挟む本社勤務、初日。
小会議室。
明菜さんから説明を受ける。
まぁ、いろんな本社ルールの説明だな。
まずは、各種備品の説明。
「タバコ吸います?」
ボクは、小さく頷いた。
段ボールを渡される。
備品一式が入っている。
中に「灰皿」が入っていた・・・
会議室を出てふたりで歩き出す。
「まだ、未成年なんだっけ?」
明菜さんは笑顔だ。
「来月、誕生日です。20歳です」
「わっかいなぁ・・・・」
明菜さんが吹き出した。
本社には「高卒」ってのがほとんどいない。
「10代」ってのが珍獣にでも見えるんだろう。
洗面所。
タバコの吸い殻を捨てる場所も決まっていた。
んで、灰皿を洗う場所も。
「My灰皿」は、毎日、自分で洗って片付けるってルールだった。
トイレ・・・社員食堂・・・
案内されながら説明を受ける。
「昼食」のルールとかさ・・・・
ビル内に社員食堂がある。・・・人数が多いんで複数ある・・・・で、使用時間とかが所属によってわかれていた。
ふたりでビル内をウロウロする。
オジサンばかりだ。・・・・オジサンっても、みんな30代なんだと思う。
考えてみれば、「課長」っても40代なんじゃないかと思う。
ただ、ハタチそこそこのボクからみれば、30代なんつったら、じゅーぶんなオジサンだった。
22、3歳の明菜さんも、
じゅーーーぶんに、オネーサンだった。
高校卒業して、まだ2年も経ってない。
工業高校なんつったら男子校みたいなもんだ。
だから、ここ数年「女の子」すら、満足に見たことがない。
「化粧」した若い女の人なんつったらまったく見たことがない。
歳は3、4コしか違わない。
けど、
20歳そこそこの「4歳差」ったら、ひと世代違うくらいの感覚だ。
明菜さんと社内を歩く。
カチっとしたスーツ姿の姉ちゃんに連れられた、作業服の弟って図だ。
今はどうなっているのか知らないけれど、
ボクが入社した時は、
高卒18歳でも、煙草を吸うことは黙認された。・・・・時代としては、煙草を吸って、酒を飲んで一人前ってな感覚だった。
18歳とはいえ、
働いていれば「一人前」
煙草も酒もOKってな扱いだった。
ちなみに・・・
タバコは、今は吸っていない・・・・ってか、社会人になってけっこー早い段階でやめてしまった。
タバコは、
大人への憧れから、みんなが吸い始める。
タバコが身体に悪いのは子供でもわかっている。
高校生。
タバコを吸うようになって、
明らかに肺活量が落ちたしな・笑。
体育の授業とかで、走るのが苦しくなってきたもん・笑。
だから、いつかタバコはやめなきゃと思っていた・・・・けど、
「いつか、いつか・・・・いつかやめなきゃな・・・・」
・・・・そうやって、毎日が過ぎていく・・・
タバコを1本吸うのに7分かかる。・・・・その間、仕事は中断される。
「オレは、タバコ吸ってても、ちゃーーんと頭も動いてるから・・・・」
って言うヤツがいるんだけどねぇ・・・
ボクの経験からは、それはできない。・・・・まぁ、ボクの場合はってことだけど。
・・・・ってことは、
タバコを吸ってる間は「休憩」ってことだ。
何もできない、何もしない時間ってことだ。
タバコ1本吸うのに7分。
10本なら70分。
ボクが、当時吸ってたのは、だいたい1日1箱、20本・・・・・ってことは140分の休憩時間。
1日に140分間、「何もしない」時間があるってことだ・・・・1日2時間以上・・・・
1ヶ月で70時間・・・ゲゲ! 1年間で、840時間もかよ???!!!!
・・・・これって人生の無駄じゃね???
「タバコ・・・・いつかやめるんだよな・・・・・?」
いつかやめると思っている・・・・
毎日、「いつかやめる」と思っている・・・・
「いつかって・・・・いつなんだよ???」
ってことで、その瞬間からやめた・笑。
・・・・このあと、5年後とかだよな。
今じゃ、
他人の煙でも「頭が痛くなる」笑。
本社勤務が始まった。
ボクは、自分の机で・・・・「課長」「係長」の目の前の机ね・笑・・・・・問題集に取り組んでいた。
「とりあえず、これをやっといて」
係長に言われた。
ボクの本社での配属は決まっていない。
「課」は決まっているものの、その中での「チーム」が決まっていない。
とりあえず、「係長」が直属の上司・・・ってか、面倒をみるってことなんだろう。
新たに配属が決まるまで、「これやっといて」と渡されたのは「問題集」だった。
会社の「新人研修」でやった建築学科の問題集だ。
・・・・これで、明らかになった・笑。
ボクは、「現場」から、
「使えねー」
と言われて本社に戻されたんだろう。
「再教育の必要あり!!」
ってことなんだろう・笑。
朝、タイムカードを押す。・・・・そこから、ひがな1日、問題集にとりかかる。
「質問があったら聞いてくれ」
40代・・・・親くらいの「係長」に言われる。・・・・そんなの聞けるはずがない・笑。・・・・斜め前に座ってんだけど。
斜め前っても、人が歩く分くらいの通路がある。・・・・それが「近くて遠い距離」だった。
質問どころか、なーーんにも喋ることもない。
・・・・もう、なんか「針の筵」って感じだった・笑。
なぜ?なぜ?なぜ本社にいるの??
なぜ?なぜ?なぜ?10代が???
ヒソヒソ・・・・ヒソヒソ・・・・
課内で、みんなの注目を浴びてるのはわかる・笑。
なんだか、刺すような視線を感じる。
課員は40名くらいだ。
ボクは最前列に座っている。
常に背中に視線を感じた。
・・・・・なんだか、冷たい汗が流れる・笑。
てきとーにタバコを吸って・・・・
てきとーにジュースを飲んで・・・・
んで、問題集にとりかかる。
・・・・・誰も話しかけてこない・・・・
透明人間のように毎日を過ごした。・・・・この「技」は慣れたもんだったけど・笑。
小、中、高校。
ず~~~~っと虐められてた中で培った「技」だった。
「透明人間の術」
昼休みは、グランドでてきとーに過ごした。
ここは、ゼネコンの本社だ。
各種の研究施設なんかもあって、敷地は広大だ。
その中に、
野球場。・・・・社会人のチームがあった。
サッカー場。・・・・これも社会人チームがあったけど、弱小。
各クラブ活動も盛んで、
テニスコートもあった。
新人研修の時、
敷地に東京ドームが何十個入るとか・・・そんな説明を受けた覚えがある。
毎日を「針の筵」でやり過ごす。
昼休みが、唯一ホッとできる時間だった。
「昼食」は食べなかった・・・・食べられなかった。
どうにもこうにも、
「東京の味」ってやつが合わなかった。
「旨い」
「不味い」
以外の感じだった。
ボクにとっては「外国の味」って感じだった。
それで、食べられるものがなかった。
・・・・おそらくは「ホームシック」にもかかっている。
たった一人で出てきた東京で、
右も左もわからない東京で、
・・・・さらには、
どうにも、
「仕事でも落ちこぼれた」らしい・・・
ボクの将来ってどうなっちゃうんだろう・・・・???
不安に押し潰されるような感じだったんだろうな・・・
精神的には「ズタボロ」って状態だったんだと思う。
もちろん、本人には自覚はない。
けど、
身体は顕著に症状を表していた。
モノが食べられなくなっていた。
今だったら「適応障害」ってな立派な病名がついてたんじゃないかと思う。
当時は、そんな病気なかったんじゃね?笑。
(笑)とかって描いてるけど、
精神状態は、けっこーなシリアスな状態だった。
すんごい痩せちゃったしな・・・・ズボンなんか、みんなずり落ちた・笑。
「これ、ちょっと手伝ってくれるかい?」
何日が経ったんだろう。
課の先輩が声をかけてきた。
図面の清書を手伝ってほしいってことだった。
建築図面。
この時代は、まだ「手描き」だ。
建築図面ってのは、膨大な枚数になる。
ビル。
いっこのフロアーの図面だけでも、
天井図。壁面図・・・設備・・・・設備っても、電気に電話・・・・空調・・・消防関係・・・
とにかく膨大な枚数の図面が必要になる。
設計士がラフに描いていったものを、清書していく。
清書は、だいたい「下っ端」の仕事だ。
本社に呼び出されてから、
来る日も来る日も、
「問題集」の日々。
誰も話しかけてこない日々・・・
やっと、回ってきた・・・・ありつけた「仕事」
肩の力が抜けたように図面の清書にとりかかった。
図面ってのは、
内容によって「線の太さ」が違う。
0. 3mm・・・・0.5mm・・・・
内容によって、シャーペンを使い分け図面を描き上げていく・・・・
「カズくんって、車持ってるんだよね??」
いきなりだった。
斜め前の席。
明菜さんが、クルリと椅子を回転させてこっちを向いている。
・・・・はい?
「何に乗ってるの?」
畳みかけてくる質問。
シーーーーーーンとしたオフィス。
明菜さんの声だけが響く。
課の全員が「聴き耳」を立ててるのがわかる。
・・・・いや、今に始まったことじゃなかった。
本社勤め。
誰も話しかけてこなかった。
・・・・その中で、ひとりだけ話しかけてくれる人がいた。
明菜さんだった。
オフィス。
課員たちは、いつだって座って仕事をしてるわけじゃない。
図面を描いてる日があるかと思えば、
現場に行ってる日もある。
みんなが、オフィスを出たり入ったりだ。
そんな中で、全く・・・・ずーーーーーっとオフィスにいるのは、ボクと明菜さんだけだった。
本社で初めて喋ったのも明菜さんなら、
名前を知ってるのも明菜さんしかいない。
んで、
なんたって席も近い・・・ってか、隣、斜め前だ。
気づけば「カズくん」って呼ばれていた。
全くの「弟」扱い・・・・ってか「子分」扱いか・笑。
なんかあると・・・・休憩とかか??
そんなときはクルリと椅子を回転させてこっちを向く。
「はぁ~~~~~疲れた・・・・15日の締めがやっと終わった・・・・
だから、ちょっと休憩・・・相手して・笑」
・・・・いや・・・あの・・・ボクは図面描かなきゃ・・・・
「で、車・・・何に乗ってるの?」
・・・・はぁ・・・・スカイラインです・・・・
就職した。
東京にやって来た。
東京では寮暮らしだ。
隣接してる寮の駐車場には「空き」があった。
東京出てきて最初の休み。土日。
カーセンサーでチェックしていた車を見に行った。・・・・・5店舗くらい見て回った。
・・・・で、次の休みの日。・・・・つまり翌週、
車を買った。
「いつの?」
明菜さんは矢継ぎ早だ。
いっこ前のスカイライン。
ターボもついてない、一番下のグレードの「GT」
広いオフィス。
喋っているのは明菜さんとボクだけだ。
学校。
授業中。
コソコソ隠れて喋ってる、あの罪悪感におそわれる。
斜め前の「役席」には、課長がいれば、係長だって座っている。
ボクの、
脇の下につめたーーーい汗が流れる・・・・・
「いくらで買ったの???」
・・・・諸々で100万ちょっとです・・・
3年ローン。ボーナス併用払いで買いました。
明菜さんは、そんな凍りついた周りの空気なんぞお構いナシだ。
かまわずボクを問い詰めていく・・・・
ゼネコンだ。
男社会だ。
どっか「体育会系」の感じだった。
その中で、
「総務」だけが別世界だった。
別世界のルールで動いてるようだった。
会社の事務仕事をするために、
「総務」から各課に女の人が配属されていた・・・・いや「派遣されている」という方が正しい。
あくまで、明菜さんたちは「総務」から派遣され、課内の事務を担当してるんだった。
つまり、ボクの目の前の「課長」の部下ではないってことだ。
明菜さんの上司は「総務課長」だった・・・・・ウチのオカンと同年代ってオバチャン課長。
・・・・で、「秘書課長」っていうのも女性だった。・・・・この会社唯一の女性課長がふたり・・・・
・・・いや、もう「女性」という存在自体が「総務」にしかいない。
本社に数日いるだけでわかった。
「総務」は、
「治外法権」だった。
全くの「別会社」のようだった。
「ゼネコン」・・・・男社会の会社。
その中に、まったく違うカルチャーの会社があるような感じだった。
作業服姿の男社会。
その中に、
時代を彩るようなスーツを着こなした・・・・女性社会の「総務」という別会社が存在している。
んな感じ。
で、
他の課員・・・・「課長」も、当然として手の出せない「治外法権」の世界。・・・で、彼女たちの立場の方が圧倒的に強かった・笑。
どうにも、「オジサン」たち・・・・課長たちは、彼女たちをどう扱っていいか苦慮してるって感じがあった。
「父と娘」・・・・みたいな・笑。
実際、年齢差は「親子」ほどになる。
思春期の娘にどう接していいかわからない「オヤジ」のような感じだった・笑。
・・・・で、
「総務」
会社の備品から何から・・・「出張経費」とか、「領収書処理」とかを「握られてる」 笑。
彼女たちの機嫌を損ねたら、自らの業務が滞る・・・・んな感じ・笑。
・・・・どうやら、この会社、
「総務」
彼女たちに逆らっては生きていけないらしい・・・・
小学校。
「虐めグループ」の女の子たちと重なった・笑。
背景として、
「女性が強い」ってな時代だった。
女の人がドンドン強くなってく時代。
「男女同権」
「雇用機会均等法」もすでに施行されている。
このすぐ後には、「ジュリアナ」をはじめとした、巨大ディスコで、女の人たちは、扇子を振り振り、腰を振り振り踊り狂うって時代がやってくる。
世の女性たちの「地位」が、
うなぎのぼりで上がって行く時代だった。
「オジサン」たちは、相変わらず、ドブネズミルックと揶揄さたグレーの「背広」。
女の人たちは、前髪を逆立て、ロングヘヤーで、肩パットの入った原色のスーツでキラキラした街並みを闊歩していた。・・・・そんな時代だ。
「カズくん、明日・・・・土曜日、買い物つきあってよ。スカイライン出してくれる?」
明菜さんがニコニコしながら言った。
ニコニコしてるけど、
これは「命令」以外の何ものでもない・・・・・
「会社の黒幕」
姉貴の命令には逆らえないぞっと。
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