「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「貴女が泣いた」愛の熾火。

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ベッドに倒れ込んでいた。
亜貴を背中から抱き・・・・背行為で果てたまま・・・そのままベッドに倒れ込んでいた。
ボクが、亜貴を背中から包むように抱いていた。

・・・どれくらい時間が経ったんだろう・・・夢と現の境界線を彷徨っていた。


目の前に、亜貴の熱を含んだ髪がある。
ボクは、その中に顔を埋めていた。
魅力的な亜貴の香りに包まれる。

どこか記憶にあるような・・・そんな香り・・・・でも、日本じゃない・・・・

仕事でアメリカに何度か行ったことがある。
その記憶の中にあるようだった。

・・・・そういえば、シャンプーの香りだったっけか・・・知り合いの美容院から取り寄せている・・・日本では売っていない・・・海外のものだと言ってたか・・・そんな話を亜貴から聞いたっけ・・・


日本のものとは違い、濃厚な・・・それでいて軽い。
華やかな香り・・・

まぁいい・・・・どうでもいいや・・・ボクには亜貴の香りだ。
亜貴を亜貴としている香りだ。


亜貴は背が高い。
たぶんボクより高い・・・まぁ、ボクが低すぎるんだけど・・・
・・・それに、脚も長い。

精一杯「主婦」然とした、個性を隠すような服装に身を包んではいるけれど、持って生まれた「華」は隠せない。
どこか、パッと花が咲くような空気感を醸し出す。
立ち振る舞い、動く姿がカッコよかった。

どちらかと言えば、欧米の女の人の雰囲気だ。

野菊の美しさではなく、薔薇の華麗さの女性だった。

・・・・だから、この香りは亜貴にぴったりだ。「見事」・・・そう膝を打つほど似合っていると思う。


亜貴の匂いに包まれている。
腕の中に亜貴がいた。
ボクの右腕に頭を預け亜貴がいた。

左腕で亜貴の肩を抱いていた。

人生の幸福の中にいた。

永遠に存在していたい至福の時間・・・・


・・・

・・・・・・

・・・・泣いている・・・・泣いてるのか・・・

後から見ている亜貴の髪が微かに揺れている。微かに腕に感情が伝わってくる。

身体を起こして、亜貴の顔を見る。横顔。


・・・亜貴が泣いていた。・・・眼に涙を溜めている。


・・・どした・・・?


・・・・何か、嫌なことをしてしまったのか・・・

・・・考える・・・

後からしたことが嫌だったのか・・・
亜貴は背行為を許したことがないと言ってた・・・


「ううん・・・」


亜貴がかぶりを振る。


どうしたの・・・・?


・・・何か痛いことをしてしまったのか・・・

後ろ手に、腕を掴んでしてしまった・・・
肩を抑えつけるようにもしてしまった・・・

・・・何か、夢中になって、亜貴に痛くするようなことをしたんじゃないか・・・


「ううん・・・」


小さく言って顔を上げる。
ボクを見る。笑顔をつくる。


・・・大丈夫・・・?


何か痛かったかな・・・嫌なことしちゃったかな・・・

もし、そうなら謝らなきゃならない。
亜貴に痛い思いをさせたくない。
亜貴に嫌な思いもさせたくない。

やっぱり、後からしたことがいけなかったのか・・・・無理な姿勢で痛かったかな・・・
調子に乗ってお尻の穴まで触っちゃったからなぁ・・・あれはマズかったかも・・・
考える・・・思い出す・・・


「違うの・・・」


亜貴が微笑んでる。
次を待った。亜貴の次の言葉を待った。

何か言いたそうだ・・・・


「・・・ううん・・・やっぱりいい・・・」


亜貴は頭を振って顔を伏せた。
言葉にすることを止めてしまった。

ボクの何かが「嫌だった」・・・そんな風には感じなかった。
・・・なんだろう・・・どうしたの・・・?心配な顔になる。


「・・・ううん・・・大丈夫・・・」


顔を伏せたままだ。眼を合わせない。
それでも微笑んだまま答えた。

引き寄せた。

腕枕に亜貴を収めた。
二人で天井を見つめた。

髪の毛を撫でる・・・片時も離したくない。ずっと触れていたかった・・・

泣くと言っても、嗚咽が入るわけじゃない。
ジワリと涙が溢れてくる・・・・そんな感じだった。

それ以上は深追いしなかった。
言えることなら、聞いて欲しいことなら言ってくれるだろう・・・・たとえ、今じゃなくても。

・・・・いつか教えてくれればいい・・・・


ただ、亜貴の髪の毛を撫でた。
亜貴の髪を撫で・・・・亜貴の体温を感じ・・・・亜貴に触れてるだけでよかった。
触れた部分から亜貴が浸透してくる。身体に亜貴が染み渡ってくる。
こうして、亜貴に触れられるだけで、全てが幸せだった。


天井の空調。
微かに擦れるような、何か機械的な唸りが鳴っている。

他には何も聞こえない。

窓の外は長閑な陽射しだ。

静かな、静かな・・・静かな春の日だ。

ふたりだけの時間だった。

動いているのはボクの右手だけ。
亜貴をあやすように撫でていた。


「亜貴の初めてが欲しかった・・・・」


天井を見たまま言った。
髪を撫でながら言った。

亜貴の処女が欲しかったと思った。
そんなこと、これまでの人生で思ったこともない。

「処女」に価値を感じたことはない。
ボクだけじゃないだろう。今の時代に、そこに価値をもつ男は少ないだろう。
ただの「1回目」それだけのことだろう。

「とっておく」というほど重くもなく、無理に棄てるってことでもない。
自然に、あくまで自然に・・・時の流れで過ごせばいい。

・・・・なのに、亜貴の「処女」が欲しかったと思った。
強烈に・・・強烈に・・・強烈に、亜貴の処女が欲しかったと思った。


「・・・私もそう思う・・・」


頷き、腕枕の中で亜貴が言う。


「どうして、初めてがカズくんじゃなかったんだろう・・・カズくんが初めてならよかった・・・」


「単なる1回目」

亜貴もボクと同じ考えだったと言う。
・・・・なのに・・・今、処女をボクにあげたかった・・・そう思うの、と。


・・・亜貴の全てが欲しかった。

未来は当然として、亜貴の過去さえ欲しかった。

亜貴の過去にボクが存在していないことが悔しかった。
亜貴の人生に・・・・途中からしか存在できていないことが悔しかった。



「ご飯してあげるね・・・」


亜貴が身体を起こした。
お昼ご飯は亜貴が買ってきてくれていた。


「キャッ!!」


亜貴から素頓狂な悲鳴が上がる。

ベッド脇。備え付けの時計を見ての驚きだった。

・・・すでに昼を過ぎていた。1時が近い。

部屋に入ったのは9時といったところだと思う・・・・すでに4時間近くが経過していた。

・・・3時間は抱き合っていたということか・・・


え・・・?
そんなことあるの・・・・???


浦島太郎になったような感じだ。
あるいは、UFOにさらわれて戻ってきたとか・・・

・・・すごいね・・・・???

ふたり、顔を見合わせて笑った。


顔を上げて亜貴を見る。
潤んだ大きな瞳。
堪らない笑顔だった。


その笑顔を引き寄せた。

唇をもらう。
すぐに舌が蠢く。
亜貴の口中に舌を差し入れる。

・・・もう、止まらない。

また、舌が絡みあう・・・舌の表面・・・舌の裏・・・歯茎の一本一本にまで・・・
亜貴の奥へ・・・
亜貴の奥へ・・・躰の奥へと入り込みたい・・・・

終わらない・・・果てても果てても終わりはしない・・・

快楽の焔が消えない。炎が消えない。

キスが・・・舌が、燻っていた残り火を転がす。
すぐに酸素が吹き込まれ燃え上がる。
常に身体の中に、悦楽の余韻が残ったままだった。

・・・・いや、余韻じゃない。

「熾火」だ。
身体を燃やし尽くしても・・・果てても・・・イっても・・・逝っても、熾火が消えることはない。
指先ひとつで、舌先ひとつで・・・視線ですら、すぐに焔となり燃え拡がる。

果てても、果てても・・・・果てた瞬間、触れれば、キスから、すぐに焔が立った。


「イく」

「逝く」

「果てる」


・・・その瞬間から、名残惜し気にキスを這わせた。

首筋に・・・耳に・・・耳の輪郭を甘噛みし・・・耳たぶに舌を這わせた・・・鎖骨を唇でなぞった。

亜貴の全てが愛おしかった。

全てを愛したかった。

亜貴の躰。一厘の隙間もなく愛したかった。


後戯は、そのまま前戯となり、また亜貴を求めた。
亜貴で果て、そのまま亜貴が前戯となった・・・・


この焔は消えない。
決して消えることがない焔だ。


「悦楽の熾火」

身体の芯に熾火として「お互い」が置かれてしまった。


亜貴を抱く。
狂おしいほどに抱いた。

何度でも・・・何時間でも・・・時間の限り抱き続けた・・・
時間が許せば1日中抱き続けられる・・・

3日間だって愛し続けていたい・・・

毎日毎日・・・

毎日、亜貴を抱きたい・・・

毎日毎日・・・

毎晩毎晩・・・

その日の終わりは亜貴を抱きたかった・・・・


・・・一緒にいたい。

一緒にいたい・・・一緒にいたい・・・・一緒にいたい・・・・一緒にいたい・・・・

常に、互いの熾火を感じていたかった。

「愛の熾火」だ。

常に、求められたかった。


・・・・ただ「一緒にいたい」


それだけが、ふたりの「幸福」だった。


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