「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「爪痕」世界で一番幸福な呪文。

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天井を見ていた。

腕枕の中に亜貴がいた。
静かに亜貴の髪の毛を撫でていた。・・・撫で続けていた。・・・触れていたかった・・・常に亜貴に触れていたかった。
息も絶え絶えに大きく呼吸をしていた・・・やがて落ち着いてきた・・・静かな整った呼吸になった・・・

・・・今は、腕の中で、微かな寝息が聞こえていた。


外から陽が入ってくる。
たまに地面が揺れること以外は穏やかな日だ。

外に人の気配もない。
静かな世界にふたりだけがいた。

幸福だった・・・

朝、亜貴がお弁当を持ってきてくれた。
・・・・顔を見た瞬間に我慢ができなかった。
いや、昨日から我慢できなかった・・・いやもっと・・・
初めて会った時から・・・もう、どうしようもなかった。我慢ができなかった。抑えられなかった・・・

初めてキスをした時、舌先で火花が散った。
身体にスイッチが入った。抱きしめ、抱かれ、ひとつになった。

・・・そこからOFFにできなかった。
果てても果てても、亜貴を求めるスイッチはOFFにならなかった。
果てた次の瞬間から身体が疼いた・・・
亜貴への欲情のスイッチがOFFにならなかった。

自分では、もう、どうにもできなかった・・・
昨日・・・亜貴は旦那さんと一緒だった。旦那さんが休みだった。娘さんは学校だ、家でふたりっきりだ。
昨日1日会えなかった。声は聞けない。メールすら簡単にはできない。焦燥感に身を焦がした。

・・・・亜貴が旦那さんとSEXしてたらどうしよう・・・

嫉妬に身悶えた。亜貴を求めるスイッチに尚更に火がついた。


・・・亜貴の身体がピクッと動いた・・・
起きたらしい・・・

亜貴は、しばらくそのままにしていた。
・・・どうやら、寝ていたことをごまかす気らしい・・・
声を殺して、腹の中でクスクスと笑った。


「寝てないよ・・・・」


しばらくしてから亜貴が言った。
いーや。寝てました。寝息を聞いてましたー。
言わなくてもいいことを言う。愛おしいなぁ・・・


「ご飯にしなきゃね・・・」

それでも、シャキっとして亜貴が動き出す・・・いい笑顔だ。
目が合った・・・


「愛してる・・・・」

「愛してるよ・・・」


亜貴の腕を掴んで引き戻した。
キスをする・・・すぐに舌が絡まる・・・

愛してる・・・
言える喜びを噛みしめていた。


「愛してる」


言えなかった。

ピグで出会った。
好きになった・・・・すぐに「愛してる」と気づいた。

・・・・それでも言えない。

ピグで話しただけで会ってもいない。声も聞いていない。
それで「愛してる」はおかしい。言えない。


初めて声を聞いたとき・・・

「亜貴・・・好きだ・・・・大好き!すっごくすっごく大好き!世界で一番大好き!」

絶叫するように告白した。
亜貴への気持ちを伝えたくて・・・亜貴が生きていてくれたことが嬉しくて・・・やっと気持ちを伝えられることが嬉しくて絶叫した。
それでも「愛してる」とは言えなかった・・・逆に嘘っぽく思える。


「愛してる」


伝えるために、ボクはこの地へやってきた。
フラれても、どうでもいい。
亜貴に気持ちを伝えたかった。

初めて会って「愛してる」と伝えた。
やっと伝えられた。・・・そして、あろうことか受け入れられた。


「愛してるよ・・・」

「愛してるってば・・・」


それ以来、口を開けば伝え合った。
呟くように・・・囁くように・・・まるで呪文のように。
触れ合って、キスをして伝えあった。


愛してる人に「愛してる」と言える幸せ。
愛してる人に「愛してる」と言われる幸せ。


この、世界で一番の幸福を噛みしめていた。


「ご飯しなきゃね・・・」

亜貴が名残惜しそうに身体を離す。

うん・・・と、ボクも身体を起こした。
Tシャツを探す・・・・・
視線を感じて振り返った。
亜貴が見ていた。

どした・・??


「カズくん、背中・・・」


亜貴が驚いた顔をしていた。


ボクはバスルーム・・・ってか、脱衣所の鏡で背中を確認した。

・・・・クッキリと、背中に爪跡が残っていた・・・
亜貴が、さっきつけたものだ。

・・・どうりで、最後、キリリとしたはずだ。


「ごめんね・・・」

ボクの背中を見ながら亜貴が言う。

いや、大丈夫、大丈夫。
・・・・どちらかといえば嬉しかった。・・・じつは初めてじゃなかった。1回だけある・・・というか一人か。以前に、付き合っていた彼女につけられたことがある。
SEXの度に快楽が深くなっていくのは感じていた。・・・何度目かの時に背中に爪を立てられた。・・・彼女は無意識だった。・・・ただ、もの凄く感じているのはわかった。
だから、背中に爪を立てられるのは、すごく感じた証拠なんだと思った。

・・・・亜貴が感じてくれるのは、もの凄く嬉しいことだ。


亜貴が買ってきてくれたお弁当を食べる。
亜貴がお茶を入れてくれた。

・・・夢のような長閑な時間だ。
テレビからは情報番組、震災関連のニュースが流れる。・・・それが、単純な長閑な時間ではないことを表していた。

13時を回っていた。
・・・亜貴が来てから、3時間が経っている。
・・・微睡んだのが1時間・・・・2時間は抱き合っていたことになる。
自分で驚いていた。
夢のような中を2時間、夢中で愛しあっていたことになる・・・こんな長くSEXしたことはない・・・しかも、2時間という時間経過が信じられなかった。全く実感がなかった。・・・ただ夢中で抱き合った・・・夢中で亜貴を責めた・・・責めても責めても終わりがなかった・・・終わりにしたくなかった・・・もっともっとと亜貴を味わっていたかった・・・

「カズくん・・・背中、大丈夫・・・??」

亜貴が本当に申し訳なさそうに言う。・・・なんだか、怪我をさせてしまった・・・どう謝ればいいのか・・・なんて言えばいいのか・・・そんな雰囲気だ。

「そんなふうに跡つくんだね・・・」

不思議そうな顔だった・・・

・・・・初めて・・・?

亜貴が頷く。


「私・・・H嫌いだったから・・・」

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