37 / 71
「初めて会った」フリーズ・・・救った一言。
しおりを挟む「もうすぐ着くよー」
亜貴からメールが届いた。
ボクは窓際に立った。そこからならコテージの門・・・入口が見える。
街中と違って、ここの空気は澄んでるように感じた。・・・山の中だからだろう。穏やかな陽の光が注いでる。
・・・車がコテージの門を入ってくるのが見えた。
・・・・亜貴だ!
エントランスで車が止まった。
携帯が鳴った。
「今、ボクからは見えてるよ・・・そのまま真っすぐ・・・突き当りの建物だよ・・・」
亜貴の車がゆっくりとこちらに進んでくる。・・・中で電話している亜貴が見えてきた・・・
コテージの前に停車する。電話を切った。
・・・・降りてきた亜貴。
・・・思わず息を飲んだ。
ジーンズの足が長い・・・薄い黄色のロングカーディガン。
肩にかかる髪。品のいいブラウンが春の光の中で輝く。
笑顔でこちらを見ている。
ドアがノックされる。開けた。亜貴が入ってくる。
背が高い。
・・・・ボクと同じくらいか・・・少し高いかもしれない。
・・・そして笑顔。眩しい笑顔だった。
「これ、買ってきたよ」
お弁当屋さんでご飯を買ってきてくれた。
この辺の食堂はやっていない。
しかし、亜貴の家の方のお弁当屋さんは営業してるんだそうだ。
座卓を挟んで座る。・・・座卓は長方形で、上座といっていい場所にボク・・・ボクから見て左列、ひとり分空けて亜貴が座った。
座卓の上にお弁当の袋。
亜貴が見つめていた。・・・亜貴に見つめられていた。
真直ぐにボクを見つめてくる。
印象的な瞳だった。・・・・濡れてるように輝く瞳だ。
「濡れるような瞳」・・・表現として、活字では読んだことがある。しかし、実際にお目にかかったことはない。・・・・初めて見た。
・・・・そして、笑顔だった。
ホントにホントに眩しい笑顔だった。
亜貴の笑顔が眩しかった。
これまでの人生で笑顔を眩しいと感じたことはない。
そんな経験をしたことがない。
初めてだった。
・・・・ボクは見つめ返すことができない。
見つめるどころか、満足に顔すら見られなかった・・・どこを見ていいのかわからない。
下を向くのも失礼・・・だけど、どこを見ればいいんだ・・・??
言葉は悪いけど「蛇に睨まれた蛙」のようだった。
亜貴の眩しい笑顔に固まってしまっていた。フリーズしてしまっていた。
・・・・心臓だけが早鐘を打っていた。
本当に、口から心臓が出てくるって表現は有りなんだと思った。
自分の心臓の音が自分で聞こえた。
「眩しい笑顔」だけじゃない。亜貴は美しかった・・・・もう形容詞が思いつかない。
誇張じゃなく、こんなに美しい女性がいるんだろうかと思った。
・・・・いや、テレビの世界なら、芸能人なら、そりゃいるさ・・・そうじゃなく、一般の女性で、一般の主婦で、こんなに美しい女性がいるんだろうかと思った。
ブログを見ていた時・・・埃ひとつ落ちていない部屋・・・染みひとつないキッチン・・・そこから想像していた女性と、現実の亜貴は見事に一致した。・・・いや、容姿を想像したことはない・・・雰囲気、空気感が見事に一致していた。
大きな目、そして瞳。シャープな顎のライン。
綺麗な白い歯が笑顔から覗いていた・・・さすがに歯科衛生士だ・・・・
キリっとした眉が、全体の印象を「美人」として整えている。
にもかかわらず、絶やさない笑顔が・・・微笑みじゃなかった。・・・笑顔が人懐っこく、美人特有の「ツン」とした感じを消している。
東北美人の特徴で色が白い。それを引き立たせる・・・肩にかかる髪は黒色・・・光が入れば微かなブラウン。綺麗なウェーブがかかっていた。
・・・亜貴の笑顔から「嬉しさ」を読み取った。
・・・ボクに会えて嬉しいってことなのか?・・・え?ボクで?・・ボクで??・・ホントに?ホントにそうなの?
半信半疑が拭えない・・・亜貴の美しさを目の当たりにして、なおさらに半信半疑が拭えなくなった。
・・・こんな美しい女性が、ボクに会えて嬉しいって思ってるの・・・?ガッカリしてない・・?
・・・・こんなことがあるんだろうか・・・
ボクは・・・ボクは・・・
「フラれるために会いに行く」
そう思って亜貴に会いに来た。
それは事実だった。
・・・それは、自分の「容姿」にまったく自信がなかったからだ。
ボクは・・・「自分がフラれる」としか考えなかった・・・だから、そこで思考停止をしていた。亜貴の容姿は考えないようにしていた。
・・・・そもそも、できすぎの話だ。
ピグで会って、話が合って・・・・そして、お互い「好き」になる。
・・・これだけで奇跡だ。
そして、「会いたい」とお互いが思い、そして「会う」
・・・ここまででいくつの奇跡が積み重なる?・・・・確かに「震災」という要因がなかったら会わなかったに違いない。
さらに、そこで、相手が「美人」だった・・・・そんなことはありえるはずがない。
そんなことは、映画や小説でもあり得ない。
あまりに出来過ぎで、恥ずかしくて制作できないくらいのご都合主義の設定だ。
亜貴の容姿を考えることは、亜貴に対して失礼だと思っていた。
・・・ボクは亜貴の内面を愛したんだ。
ピグで・・・電話で・・・話しただけで愛してるんだ。
亜貴の容姿は関係ない・・・
そう思っていた。
・・・・裏切られた。
見事にボクの傲慢な考えを裏切られた。
・・・亜貴の容姿を考えない。
そこには「自分のために」という思いもあった。
人間社会には「類は友を呼ぶ」という言葉がある。
いい意味でも使われるけど・・・単純に、同じような人間が群れてテリトリーを作るという意味だ。
亜貴がボクと同じ種類の女性であれば、ボクが許容されるんじゃないかと思った。
亜貴を愛している・・・亜貴と一緒にいたい・・・そのためには同じ世界の女性のほうがいい・・・そんな思いがあった。
・・・だから、亜貴の容姿を考える必要がなかった。
見事に裏切られた。
雑誌でしか見たこともないような、美しい女性が目の前にいた・・・
嬉しい裏切りではあったけれど・・・
・・・・こりゃダメだ・・・
これでは、亜貴とボクでは、住む世界が全く違う。
やっぱり「フラれる」完全にフラれると思った。
・・・まぁ、フラれるためにやっては来たんだけどさ・・・
あまりの亜貴の美しさに・・・嬉しさもありながら、100%フラれることを覚悟してしまい、歓びと絶望とがゴチャ混ぜの混乱状態だった。
・・・いやホントに混乱の極致だった。
何からどう考えていいのか・・・頭が全く整理できない。
亜貴は笑顔で、真直ぐボクを見つめてくる。
・・・・ボクは、亜貴の眩しい笑顔にアタフタしていた。額に汗が浮く・・・まったく言葉が出ない。
「フリーズ」という言葉が一番適切だ。
亜貴が何かを話している。
一応、作り笑い・・・引きつった笑顔で頷いてはいた。相槌も打ってはいた。でも全然話は入ってこない。・・・もちろん亜貴のことを見るなんてできやしない。
・・・ついに、沈黙。・・・に近いような状態になる・・・・
「とりあえず、お湯沸かそっか?」
亜貴が笑っている。
見事に言われた。
そう、約束していた。会ったらボクは何も言えなくなってしまう・・・そしたら「とりあえずお湯沸かして」と。
思わず亜貴の顔を見た。見つめあった。
アタフタ作り笑い・・・いや、爆笑に近かった。
一気に肩の力が抜けた。
・・・・亜貴に救われた・・・
・・・なんて素晴らしい女性なんだろうと思った。
ボクは、間違いなく亜貴を愛している。・・・その想いが加速していった・・・
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
74
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる