「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「彼女が泣いていた」焦燥感と後悔と。

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寝室。布団の中。
眠っていたのか、起きていたのか・・・翌日の朝を迎えた。


地震が頻発していた。

少しウトウトすれば震度5クラスの地震に起こされた。

そのたびに横で眠っているお嫁さんがボクにしがみついた。
ボクも抱きしめる。

結婚していて良かったと思った。
結婚していれば一緒に住むことができた。一緒に寝ることができた。
結婚していれば、相手の安否が即座にわかる。


・・・結婚させてもらえなかった。
お嫁さんの両親に反対された。結婚までに時間がかかった。

変な話だけれど・・・揺れる震災の最中、お嫁さんと結婚できて良かったとしみじみ思った。


仕事部屋に入る。

・・・・書類を入れているスチール棚は上下がずれていた。
パイプ棚は倒れて資材が散乱していた。
・・・もし、ここにいたなら大怪我をしていただろう。

PCを立ち上げ、ピグの部屋に入る。

ゆい の部屋へ。

手紙の返事はなかった。


リビング。珈琲を入れてニュースを見る。

被災地の状況が刻々と明らかになってくる。

東北が壊滅していた。
未曾有だ・・・・阪神淡路大震災より規模が大きい。

津波の映像・・・
避難所の映像・・・・
被災地は燃え続けていた。消火作業すらされていない。
幹線道路が水没、陥没して緊急車両が入れなかいからだ。

3月とはいえ、まだ雪が舞っている。
水没した家々に雪が舞っていた。・・・・水温は何度なのか。家々に残された人はいないのか・・・

身体の中をわけのわからない感情・・・怒りなのか・・・憤りなのか・・・が走る。


寝室を開け、お嫁さんの様子をみる。
・・・眠っている。
それでいい。

一緒に暮らしていれば、すぐに安否がわかる。

仕事部屋に戻り、片付けに取り掛かる。

離れて暮らしていれば安否はわからない。
・・・ただ、切なさだけがこみ上げる。


地面は揺れている。
このまま沈静化するとは思えなかった。

スチール棚、パイプ棚といった大物を元の位置に戻し、ざっくりと片付けた。

PCを立ち上げ、ピグの部屋へ。

ゆい の入った形跡はない。

心配している。・・・・心配している。
・・・・そう手紙を書いた。


携帯電話が繋がらなかった。
実家、仕事仲間との連絡も取れなかった。
インターネットは繋がっていた。

リビングに戻ってニュースを見ながらブログを更新する・・・みんなに無事だと知らせるためだった・・・

・・・キーボードを叩く手が止まった。テレビ画面に釘つけになった。
あり得ないことが起こっていた。
あってはならないことが起こっていた。


福島原発が爆発した。


チェルノブイリ原子力発電所の事故から20数年。放射能による深刻な経年被害が報告されていた。
20数年経った今でも新たな健康被害が生まれていた。・・・いや20数年経ったことで被害が顕在化されてきた。

単なる巨大地震では済まないと思った。
国家存亡の危機。大袈裟ではなく、そういった状況になると悟った。
放射能は、原発事故は、それほどに深刻な状況を生む。


全ては被災地の規模が大きすぎることだった。

阪神淡路大震災は、まだ被災地が限定的だった。・・・・周りから救助に行けた。

今回の震災は、規模が大きすぎる。
東北全てが被災地となっている。
助けに行くべき周りすら全てが被災地だ。
日本海側も、太平洋側も・・・北海道すら被災地だ。
陸続きの関東ですら深刻な被害を受けている。
未だ千葉県の火災も消火されていない。
・・・・どこから助けに行くというのか。

被害の状況は拡大の一途だった。一夜明け、状況が確認されればされるほど事態は深刻だった。
・・・・今もなお、地面は揺れ続けている。その度に新たな被害が生まれていく。


ピグに入る・・・

ゆい はいない・・・・入った形跡がない・・・・

心配している・・・
ただただ心配している・・・・そう綴った・・・


テレビからは原発事故からの住民避難のニュースをやっている。
映像はない。
政府の発表、記者会見。

・・・・放射能の心配は無いと言う。

本当か。
チェルノブイリと同じではないのか。
・・・・もし、そうなら・・・

もどかしい。

なぜ、日本は自民党が政権を失った時に限って、未曾有の震災に見舞われるのか。
社会党政権下での「阪神淡路大震災」・・・そして民主党政権下での今回。
単なるめぐり合わせでしかないだろう。

・・・・それでも「阪神淡路大震災」に対しての、社会党、村山総理の立ち竦むような姿が脳裏に焼き付いている。

・・・今も、新米民主党政権に、何か、もどかしさを感じていた。


・・・考えてもしょうがないことだった。
ボクには、どうしようもないことだった。


焦燥感に・・・わけのわからない憤りにかられていた。


次の日。そして次の日。そして次の日・・・


仕事部屋にいた。

窓から見える公園は、どんよりとした空気の中にあった。

PCの前に座っていた。

地面は絶えず揺れていた。

ゆい からの返事はなかった。

ブログをウロついた。

ゆい は、ふつうの「ピグとも」に戻りたいと言っていた。

・・・・ひょっとして、ボクにだけ連絡をつけていないんじゃないか・・・そんな風にも思った。

ブログの中を ゆい の痕跡を求めて彷徨った。

・・・・痕跡はなかった。

ブログ仲間のどこにも ゆい は顔を出していなかった。


ゆい に手紙を出した。毎日出した。

・・・・心配している・・・ただ綴った。

生きていてほしい・・・・・本気でそう願った。
会えなくてもいい、ただ、生きていてくれたらそれでいい・・・本気で思った。

・・・・生きている証だけがほしい・・・


・・・ゆい の部屋に、ボクと同じように毎日「来たよ」をしている人が何人かいた。
みんなが心配していた。
その中にラブリンさんがいた。


ラブリンさんの部屋に行く。

ラブリンさんの部屋は豪華だ。
リアル生活そのままに、白を基調としたバロック様式の部屋だった。

その豪華なバロック様式のソファに金髪のラブリンさんが座っていた。

ランニングシャツ1枚の「カズくん」が入口に立っている。

「連絡がとれないの・・・・・」

ラブリンさんが言った。

なんとなく・・・なんとなく座るのが憚られた。立ったままでいた。
ランニングシャツ1枚の「カズくん」には不釣り合いな部屋だ。
居心地が良くない。
貧乏人の子供が、たまたま公立小学校で一緒になったクラスメイト。家に誘われ行ってみたらお金持ちの豪邸だった。そんな感じだった。

・・・経験したことがある。
3時のオヤツに初めてショートケーキの本物を見た時だ。

「海の近くじゃないとは言ってたんだけど・・・」

女王様然としたラブリンさんが言った。


・・・確かに ゆい との話題で「海」が出たことはない・・・


・・・・ラブリンさんのピグが泣いてるように見えた。泣いているに違いない。

お互いに何かわかれば連絡すると約束して、ラブリンさんの部屋を後にした。



ラブリンさんのブログがアップされる。

ブログを通じて仲良くなった方と連絡が取れません。
・・・そうです、東北の方です。
毎日のようにピグで話し、子育てや、なんでもない日常の話をしていました。
もちろん会ったことはないけれど、毎日話し、どこか姉妹のような・・・勝手に妹のように感じていました。そんな温かさを感じる方でした。
彼女の無事を祈っています。
消息を知っている方がいらっしゃったら教えてください・・・


ボクは泣いた。
ラブリンさんのブログを読んで泣いた。

・・・・ラブリンさんだけじゃなかった。
ゆい のブログの読者さん、みんなが ゆい を心配していた。

・・・・その中で・・・その中で、一番 ゆい のことを心配しているのはボクだと思った。

・・・ボクは・・・ボクは・・・心配を通り越していた。
自分が日々「憔悴」していっていることを実感していた。
胸が苦しくなっていた。胸が痛かった。

民主党政権への憤りも、原発への不安感も、全ては ゆい への心配からだった。


眠れなかった。
物理的な地震の影響・・・常に地面が揺れた。常に不安感に襲われた。・・・そのために眠れない。
それもあったに違いない。

・・・しかし、焦燥感。そして後悔。
これほど大きな焦燥感。そして後悔の念に襲われたことはない。


ゆい の部屋に行く。

手紙を書いた。

生きていて欲しい。

・・・・ゆい 大好きなんだ・・・出会ってすぐに大好きになった・・・
後悔している・・・どうして想いを伝えなかったんだろう・・・そればかり・・・後悔している・・・
どうか、貴女の無事を祈っている。
貴女が生きていることだけを願っているよ。


・・・・まんじりともせず朝を迎えた。
・・・震災から何度めの朝なのか・・・・

真っ暗な中。深夜、夢に見た。・・・いや、夢じゃなかった。
ボクには実体だった。


・・・・ゆい の泣いている姿を見た。


ピグだった。
大きな目・・・クリッとした大きな目。そして笑顔。
・・・その笑顔のまま泣いていた。
ゆい のピグが、ボクの名前を呼んで泣いていた。



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