「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

文字の大きさ
上 下
15 / 86

「友達に戻りたい」何かが違う。

しおりを挟む


プリウスのフロントガラスを硬い雨が叩く。
みぞれ混じり。気温が低い。雪になるかもしれない。

日曜日。夕方18時過ぎの首都高は交通量も少ない。

横浜の客先からの帰り道。
いつもなら1時間の道のりが40分で帰ってこられる。


土日が意外と忙しい。

仕事は「建築デザイナー」だ。
2級建築士の資格しかなかった。
1級建築士の資格を持っていれば堂々と「建築士」を名乗ることができる。
しかし、2級ではできる仕事の領域が限られる。
それで「建築デザイナー」を名乗った。

仕事は地道なことだ。
多くは、オフィスの移転やオフィス内でのレイアウト変更に絡むことが多い。
最も重要なことは、その企業のコーポレートカラーや、各種のコーポレートデザインの決定だ。

企業には、必ずアイデンティティーが存在する。
経営理念であったり、その企業が設立された経緯、存在意義だ。

ボクの仕事は、それらに基づいてオフィスを仕上げてくことだ。
コーポレートカラー、各種・・・封筒であったり、名刺であったりのデザイン・・・そして、机など什器の設定。そしてオフィスのレイアウト。
企業イメージのトータルパッケージをデザインしていくことだ。
よく、この部分が、統一性がなくて、なんだかチグハグになっている企業が多い。

・・・例えば「IT企業」であるのに、いかにも旧態とした灰色の事務机を使っていたり、セキュリティ面で不備があったりとか・・・

格好良く言えば、そういった仕事になるが、個人的な下地として現場仕事に強いという側面があった。
簡単な職人仕事は自分で行うことができた。
2級建築士のほか、各種工事の資格を所持するため一通り勉強したからだ。・・・全てを職人さんに弟子入りして勉強した。
その工事面での知識と能力が、一番重宝されていた。

マンションの乱雑な駐車場に車を停めた。

エレベータで上がって玄関を開けた。真っ暗だ。

お嫁さんは出かけていた。
高校時代からの友人と食事に行くと言っていた。

喜んで送り出した。
・・・少しでも楽しんでほしかった・・・元気になってほしかった・・・

風呂から出て夕食にとりかかる。

冷蔵庫を見渡してチャーハンと決める。
冷凍ご飯が多くあったのと、買い置きのハムの賞味期限が近かったからだ。

家事に不自由はない。高校を卒業して東京に出てきた。最初は会社の寮。そこを出てからは一人暮らしだった。
・・・・料理は好きで小学校の頃から作っていた。


録り溜まっていた映画を観ながらチャーハンを食べた。


・・・やっぱり雪になった・・・

仕事部屋の窓から雪のチラつくのが見えた。

東京でも年に数回積雪になることがある。
それでも、2月の末に降るのは珍しい。
・・・そして、東京は雪に弱い。すぐに道路が渋滞する。電車が止まってしまう。


ピグの部屋にいた。・・・ボクの部屋だ。
「カズくん」がテーブルに座っていた。

ゆい への手紙を書いていた。


・・・・ふいに ゆい が入ってきた。

日曜日のこの時間、ピグに入ってくるのは珍しい。
・・・・リアル家族との団欒の時間帯だ。

ビックリした。
なんとなく固まった。


「大丈夫なの?」

「うん、旦那さんと娘ちゃん買い物に行った。ミニストップ。歩いて行ったから30分は戻ってこないんじゃないかな・・・」

「うん。会えると思わなかった。びっくりした(笑)」

「うん」


ピグで出会って仲良くなった。
毎日話すようになった。
・・・お互いのブログにパートナーの記事を書かなくなっていった・・・
暗黙の了解のようになっていた。

・・・・なのに、ゆい はバレンタインに、旦那さんとの仲良し記事をアップした。
そして、続けて、旦那さんの誕生日の記事がアップされた・・・

なんとなく気まずい。


「この前はゴメンね」

ゆい が言う。座りもしない。玄関先に立ったままだ。

「この前、ラブリンさんとの時・・・感じ悪かったよね。ゴメンね・・・」

この前、ゆい の部屋で ゆい の読者のラブリンさんに会った。
ボクとラブリンさんは、思わず「多肉植物」のことで夢中に話してしまった。

そのうちに ゆい のピグが寝てしまった。

ラブリンさんは、気まずいように出ていった。


「ヤキモチ焼いちゃったの。カズ君がラブリンさんと楽しそうに話してたから・・・」

そうなんだろうなとは思った・・・・


「でも、なんか違うなって・・・ピグで会って・・・仲良くなって・・・でも会ってもいないのに・・・それでヤキモチ焼くって・・・おかしいなって・・・」


ゆい・・・・ボクは、もっとおかしいよ。
ゆい・・・・愛してる・・・そこまでボクはおかしくなってるよ・・・
・・・お嫁さんより ゆい を愛してしまってる・・・

「こんなの変だって思う・・・・カズ君にも迷惑かけちゃう・・・だから、ちゃんとしようって、カズ君にこれ以上依存しないように・・・ラブリンさんにも謝ったの・・・」

そっか・・・・それが理由だったのか。
どこか ゆい に「線」を引かれていた。・・・それはお互いに「のめり込む」ことに怖さを感じて引いたものだった。

しかし、 ゆい の「線」は、大きな「壁」になろうとしていた。

ピグはピグ。
リアル世界はリアル世界。
決してリアル世界にピグの世界を持ちこまない。


「だから、カズ君も、いろんな人と仲良くなっていいよ。もう迷惑かけたりしないから。ラブリンさんとも仲良くしてあげて。多肉植物の相談したいらしいよ」


・・・・ちがう。
何か、論点がずれてる・・・

ボクは迷惑なんか感じていない。
もっと依存してくれればいい。・・・それが嬉しい。それがボクの望みなんだ。
ボクが仲良くしたいのはラブリンさんじゃない・・・他の誰でもない ゆい だけなんだ。


なんて言えばいいんだろう・・・・
どう言えばいいんだろう・・・・

これは ゆい からの決定的な宣言だ。

もう、これ以上は絶対に深入りしない、と。
・・・今までの距離にすら入らない、と。

距離を取ろうとしている。大きな壁を築こうとしている。
ピグに入る時間も抑えて、今までのように話してもいけない。
ちゃんとケジメをつけて・・・・そして、その他大勢の「ピグとも」と同じように接する。


・・・・なんて言えばいいんだろう・・・


・・・・少なくとも、ボクが「告白」する時は失ってしまった。

「ボクだっておかしくなってる・・・・いや、ボクの方が狂ってるんだ。
ゆい に狂ってる。愛してるんだ。愛しくて愛しくてしょうがないんだ!!」

恋愛偏差値の低いボクにでも、今それを言えば「火に油」、絶対に受け入れてくれない。もっと頑なに拒絶されることになるのはわかった。


・・・・・距離をとる・・・それでも「ピグとも」ではいてくれる。

・・・それだけでもいいじゃないか。

・・・それ以上何を望むのか・・・・

会いたいのか・・?
付き合いたい・・・?

無理に決まってる。

社会人だぞ、大人だぞ、既婚者同士だぞ。
常識を考えろ・・・


・・・・何か言わなければいけない・・・
ここで・・・このまま ゆい と別れたら、巨大な「壁」が完成してしまう。
何かを言わなければ・・・でも何を?弁明?弁解?釈明?・・・

「わかったよ」

そう応えるしかない。・・・しかし、その一言じゃない・・・
・・・そして、何かが違う気がしていた。 ゆい が別の答えを求めている気がしていた・・・
・・・何と言えばいいんだろう・・・「壁」を作らないでほしいと嘆願するのか・・・言葉を探す・・・


机の上の携帯が鳴った。

・・・・こんな時に・・・
心の中で舌打ちをした。逡巡。

着信は、お嫁さんからだった・・・

画面の中では、ゆい が玄関先に立っていた。

・・・なんだか、仁王立ちのように感じた。

・・・・何かを言わなければ・・・・何かを言わなければ、ゆい がいなくなってしまう・・・


窓から見えた。冷たい雪が見えた。吹雪いていた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...