「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「惨めさを思い知らされる」2月。

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窓の外から名古屋の夜景が見えた。

出張だった。

どういうわけか名古屋に数社の顧客を抱えていて、月に1度は出張でやってくる。
そして数社の顧客を回る。

「いいよねー出張って・・・旅行みたいで・・・」

ノートPCの中で ゆい が言った。

ゆい の部屋にいた。

ソファには「カズくん」と「ゆい」が隣同士で座っている。
忘れずに鍵は掛けた。
誰も入ってこない。ふたりきりだ。


「ふたりで北海道旅行なんていいよねー」

ゆい が言った。

ドキリとした。ボクのブログ記事の事だ。
ボクとお嫁さんの仲良さそうな姿がアップされていた。

「いや、ほら、だって・・・ウチは子供がいて、なかなか旅行とかも行けないから・・・」

ゆい が、慌てたように付け足した。

しかし、言葉に「棘」が見えた。


北海道旅行は1年近く前のことだ・・・ゆい は、ボクの、そんな過去の記事も読んでいるのか・・・

・・・・「棘」はわかる。

ボクも ゆい のブログに旦那さんが出てくるのが嫌だった・・・・


だからといって、ブログの過去の記事は消せない。
今さら消せば変に思われる。
誰から、どこから何を言われるかわからない。

だから消せない。


読まなくていいものを、ボクも ゆい の過去の記事を全て読んでいた。

旦那さんが、いかに ゆい を大事にしているかがわかった。・・・どれだけ愛しているか。
ゆい がいかに旦那さんを大事にしているかがわかった。・・・信頼が見えた。
夫婦がいかに、娘さんを大事にしているかがわかった。


読む度に、ボクが ゆい の心に入り込む余地は微塵もないと感じてしまう・・・・
旦那さんの男としての大きさに、敗北感と嫉妬に苛まれてしまう。


ゆい のブログは「幸せ家族ブログ」だった。

旦那さんや、娘さんとの日々の出来事が綴られていた。

娘さんの部活、旦那さんとの日常。ママ友とのテニス、日々の買い物、・・・・雪カキとかの季節の風物詩・・・そんな日常生活が綴られていた。

そのうちに、ブログの主人公は娘さんへと変わっていった・・・


ボクと ゆい ふたりの時間が増えるにつれ ゆい のブログから旦那さんの記事が出ることは無くなっていった。
・・・・ボクのブログからもお嫁さんの記事は無くなっていった・・・

「明日帰るんだっけ?・・・気をつけてお家に帰ってね・・・じゃあ、ご飯するから・・・」

ゆい が消えた。

最後まで「棘」が引っ掻いた。


泊まっているのは、オートロックでもない安ホテルだった。

重要視したのはネット環境だけだ。
あとは、駐車場があって、寝られればそれでいい。

APAホテルから始まったホテルチェーンの再編成で、日本全国どこへ行っても安いビジネスホテルを探すのに苦労はしなくなった。

特に名古屋は激戦区だ。
格安ホテルが乱立している。

月に一度は必ず訪れることになっていた。

だから、100円でも安い宿を探した。

それが、ゆい が羨ましがった出張の現実だ。


朝。
ホテルの朝食サービスを食べる。
パンと珈琲、そしてゆで卵がついていた。

チェックアウトをして客先に向かう。

午前、午後で1社づつをこなす。

午後のミーティングに思ったより時間がかかった。

「夕食でも」との誘いを辞退して帰路につく。
明日は、朝一番で客先に向かわなければならない。もちろん東京でだ。


プリウスで夜の東名高速を駆け抜ける。

日本全国に顧客をかかえていた。
北陸、関西、九州にも出張で行くことがある。

ほとんどを車で行った。
何をするにも機材が必要になるからだ。

プリウスに買い換えたのは、その燃費の良さに魅かれたからだった。
実際に使ってみると、その効果は絶大だった。

実測で30km/1リッター というその実力は、それまで使っていた車の3倍の燃費の良さだった。・・・・つまりは、ガソリン代が1/3ということになり、ボクのように走行距離が多ければ、節約できたガソリン代でローンを支払うことができた。

周りからは「高級車」に乗り換えたって見方がされていたけど、ボクが購入したのは一番の廉価版だった。車両本体は200万円もしない車両だ。
もちろんコスト優先なので、オプションの類も一切つけなかった。

さらにはエコカー減税や、国の補助金などで実質的な持ち出しは150万円にも満たなかった。・・・そしてローンすら、節約できたガソリン代で支払えた。

・・・・カッコイイ仕事や、カッコイイ生活でもなんでもなかった。ただ、生活にシビアだったからの結果でしかない。

2時間弱を走ってサービスエリアにプリウスを入れる。

車で出張に行くことが多いからこそ、疲れない身体の使い方を学習していた。
2時間弱程度で、必ず休憩を入れた。

イートインで夕食をとる。
缶珈琲を飲んで一息入れる。

高速上のガソリンスタンドは閉店時間が早い。24時間営業はしてくれない。
以前の車の時には、深夜にガソリンを求めて右往左往したことがあった。

その意味でもプリウスへの乗り換えは大成功だった。

東京、名古屋ならノン給油で往復ができた。


走り出す。
夜の東名高速は、圧倒的に大型トラックが多い。
東名高速は、そもそも東西の物流のためにつくられた道路だ・・・・東名に限らず、高速道路の本来の意味はそれだ。

中でも、日本の場合は、東西の物流・・・名古屋も含めて・・・が、日本の大動脈だ。
他の高速道路とは違って、圧倒的に大型トラックが多い。

東名高速の「主」は大型トラックだ。

人間が山に入り、熊、猪に襲われるのは、動物たちの縄張りに人間が入り込むためだ。
彼らに敬意を表し、畏れ、共存するルールを守らねばならない。
と同様に、高速道路も・・・・特に夜間は、日本の物流を守っている大型トラックに敬意を表し、畏れ、走るべきだとボクは思っている。

敬意を表して、邪魔をしないように走る。
・・・そうすれば、「主」たちも、気持ち良く道を譲ってくれる。


さらに2時間弱を走って休憩をとる。
交通量は少ない。平日の夜だ。
「主」に紛れて東名高速を走る。

家についたのは深夜だった。日付が変わっていた。

お嫁さんは寝ていた。

風呂に入って、野菜ジュースを飲んで一息入れる。


・・・・まだ、長距離運転の熱が身体に余韻を残している。
眠れそうにない。


PCを立ち上げる。

ゆい のブログが更新されていた。

「チョコレート作り40個に挑戦!」

ブログの中で ゆい が娘さんとバレンタインのチョコレートを作っていた。
・・・・ブログの主役は娘さんだ。

学校の友達に40個を作るんだそうだ。

デザインをし、市販のチョコを溶かして固めて・・・・

母娘の楽しそうな共同作業の画像が載っている。・・・・もちろん、顔とかは載っていない。変化していくチョコレートの姿がアップされていた。

ゆい のブログには、料理の記事が多かった。
その、どれもが、全てが美しかった。
まるで、ホテルのレストランのようだった。


ピグで ゆい と出会った。

堰を切ったように毎日会った。
1日に、何時間も・・・・丸1日、食事の時間を挟んで、丸1日話していたこともある。
お互いの家族といる時間より、多くの時間を一緒に過ごした。

ただ楽しかった。
ただ、ただ楽しかった。

お互いに一番落ち着く相手だと感じるようになっていた。

「好きだ」

その一言は言えなかった。
言ったところで、どうにもならない。
告白して、その先に進むのか。
どう進むのか。

その先には進まない。進めない。

「告白」はできない。

言ってしまえば、言ってしまえば、この関係は壊れる。
ゆい は去って行ってしまうに違いない。

だから、心を明かすことはできない。

ボクは ゆい を愛していることに気づいた。
・・・・大好きだった、お嫁さんよりも愛している・・・



最後に、1個1個全てにラッピングをして

「かんせーい!!」

と、楽しそうな母娘の画像。
そして、綺麗に並んだ40個のチョコレート。


ボクは、自分の家を見渡した。

薄汚れた築30年の賃貸住宅。

モノが乱雑に散らかっていた。

埃が溜まっていた。
ここに引っ越して何年になるんだろう・・・・
引っ越してから、一度も掃除がされていないだろう埃・・・・

ゆい とは住む世界が違うと思い知らされているようだった。



・・・・・そして、その次に、ひときわ大きな、そして豪華なチョコレートが写っていた。

ゆい がひときわ心を込めて作っていることが画面から飛び出していた。
綺麗なチョコレートケーキだった。
出来栄えは、ブランドケーキ店のものと遜色がない。


キラキラと輝くチョコレートケーキ。

・・・・そして・・・


「HAPPY VALENTINE´S」の文字。


豪華な 旦那さんへのバレンタインチョコレートがアップされていた。
背景にショールームのように磨き抜かれたキッチン。


胸を刺されたような気がした。

・・・・ゆい・・・どうしてこんな記事を書くんだよ・・・・


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