「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「愛してると気づいた」ショックだった。

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仕事中。
部屋の扉は開けっぱなしにしていた。
トイレに行くにも、キッチンに行くにも楽だったからだ。

しかし、ピグで ゆい と話すようになってからは少し困っていた。

廊下からは、部屋の中が丸見えだ。
仕事柄、モニターの画面は大きい。
廊下からでも画面がハッキリと見てとれる。
ピグの画面を見られるわけにはいかなかった。

仕事部屋は、玄関を開けて入ってすぐのところだった。

だから、お嫁さんがパートから帰ってくれば、玄関の鍵の開く音がすれば、すぐに画面を切り替えなければならない。

・・・・部屋の扉を閉めればいい。
しかし、今更、扉を閉めて仕事をすれば「怪しい」と宣言するようなものだ。

お嫁さんは、帰ってくると、必ず部屋の前で止まって「ただいまー」と言って、ひと言ふた言話す。

・・・・ピグで話している時だったら・・・画面を替えられてしまった ゆい にしてみれば、いきなり中断ってなってしまう。
だから、なるべく、お嫁さんが帰って来る前に、ピグを切り上げるようにしていた。



ゆい の部屋にいた。

「カズくん」と「ゆい」がソファで座って話している。・・・隣同士で。
そこに、いきなり女のヒトが入ってきた。

「お邪魔??」

金髪で派手な衣装をつけてるピグが笑って言った。
・・・時計にネックレス・・・帽子・・・付けられるものは全てつけていた。・・・課金しまくりだ。
・・・・ちなみに、ボクは、真冬なのにランニングシャツ1枚だ。

「大丈夫ですよ(笑)」とボク。

派手な金髪のピグはラブリンさんと言った。
名前は知っていた。ゆい のブログの読者さんだ。


3人で、お正月の話をしていた。
ボクの地元は徳島、ゆい は宮城、そして、ラブリンさんは名古屋だった。
地域が違えば、お正月の風景も違う。
そんな違いに笑って、驚いて会話が弾んでいた。
今さら座っている場所を動くわけにもいかず、カズくんと ゆい はソファーで。ラブリンさんはテーブルの椅子に座っていた。


「ポンポコポーンさん、観葉植物育ててるんですか?」

いきなりラブリンさんにふられた。
ラブリンさんがボクのブログを読んだんだろう。
ピグで話しながら、相手のブログを、ささっと確認することはよくある。

「はい」とボク。

そこから、植物の話題になっていった。

ゆい も庭で花を育てている。
植物の話は3人共通の話題だった。

ボクもラブリンさんのブログを確認する。ラブリンさんも観葉植物を育てている。
・・・・おっと、タペストリーなんかを綺麗に作ってる・・・
ありゃりゃ、DIYも本格的だ・・・壁面に作られた飾り棚・・・電動工具まで本格的に揃えていた。
女のヒトでここまでやるの・・???
見た目は、キャバ嬢みたいなんだけどな・・・・おっとっと、こりゃ名古屋だわ。

・・・・ブログに微かに写っているラブリンさんは、名古屋嬢そのままだった。
ロングスカートのお嬢ファッションに、綺麗な内巻へアーだ。
その見た目と、フルセットの電動工具が見事なギャップを生んでいる。

話していても面白い。テンポがいい。楽しく会話のやりとりができる。

「すごいですねタペストリー・・・・」とボク。

「ポンポコポーンさんは・・・」

「カズでいいですよ。本名カズアキなんで(笑)」

「はい、じゃあ・・・カズさん、 多肉 もやってるんですね・・・」

そこから、多肉植物の話になった。
やっぱり、ラブリンさんも、多肉で思うように育たないってな部分があった。

「ああ、そういう場合は・・・・」

多肉植物の話でラブリンさんと盛り上がっていく。


・・・かなり長く話していた。
PCの時計は19時を回っている。
そろそろピグから退散しようと考えていた。


気がつけば ゆい が会話に参加していなかった。

・・・・そのうちに ピグ が寝てしまった。
ZZZ・・・と完全に寝入ってしまった。

ラブリンさんが、それに気づく。

「じゃあ、私、そろそろ行きますね・・・・カズさん、今度、また、多肉の相談させてください」

「はい、わかりました」

ラブリンさんが立ち上がって挨拶をして、消えた。

時間が気になった。
だけども、ゆい をこのままにして終わるわけにもいかない。


「ゆい」

「ゆい・・・」

ゆい が起きた。

「あ、ごめん電話かかってきちゃって・・・・」

「あ、そうなのか・・・」

「ごめんね」とボク。

「何が?」

ボクは、ついラブリンさんと夢中で話してしまったことを謝った。・・・・いってみれば、人の家に押しかけてきた来客同士が勝手に仲良く盛り上がってしまった図だ。家人を無視して。
ゆい にとっては楽しいはずがない。

「大丈夫だよ・・・・べつに・・・ラブリンさん友だちだし」

ゆい が素っ気なかった。言葉に「棘」があった。

・・・こうなってしまうことがあった。
のめり込まない。お互いが心に「線」を引いていた。
それでも、些細なことで棘が心を引っ掻いた。


・・・・その時、ガチャガチャと玄関の鍵の開く音が響いた。
お嫁さんが帰ってきた!いつもより20分は早い。

ボクは、急いでピグの画面を図面へと切り替えた。

ひょっこりと、お嫁さんが、顔を出した。

「今日も寒かったー」

マフラーを取りながら、お嫁さんが話す。

「今日、ヒマでね、牛肉コロッケが余っちゃって、いっぱいもらってきたからねー」

お嫁さんがビニール袋を持ちあげる。嬉しそうな顔だ。
普通のコロッケより牛肉コロッケの方が20円高い。

ボクは気が気じゃなかった。
ゆい は、どんな顔をしているんだろう・・・

・・・ったく・・どうして、こんな時に限って早く帰ってくるんだよ・・・
どうして、いつも通りに帰ってこないんだ・・・あと10分でもいいのに。

ボクは、黙って画面を見つめていた。怒ったような顔をしていたに違いない。
・・・・早く行けよ。
・・・早くピグにもどらないと ゆい が待ってる・・・心の中で毒づく。


「まだかかる?」

「まだ、かかる」

「わかった、じゃあねー」

お嫁さんがコロッケの袋を持って、リビングへと行った。

ボクは、すぐに画面を戻した。

ゆい はいなかった。

手紙があった。

「カズ君・・・なんかヤダ」


・・・・・ショックだった。

ゆい が消えたことじゃない。
自分の気持ちにショックを受けていた・・・・

ボクは ゆい が好きだった。
それは自覚していた。
「ピグとも」の ゆい を好きなっていた。

しかし ゆい に対しての「好き」は、決して、お嫁さんを超えるものじゃなかった・・・いや、種類の違うものだった。そう思っていた。

ボクは、お嫁さんが大好きだった。
ボクは、お嫁さんを「愛してる」。
・・・・だから結婚したんだ。


都合がいいかもしれないけれど ゆい への「好き」は、どこか「浮気心」のものだと思っていた。・・・・・表現は難しいけれど、うまく言葉にできないけれど・・・・

・・・・それに、しょせん ゆい はピグでしかない。
会ったこともなければ、声すら聞いたこともない。
ピグというアバターを通しての架空の存在・・・・この世に存在する人間なのかどうかもわからない存在だ。
そんな存在を「好き」になること自体がおかしなことだ。

・・・・いずれにしろ、お嫁さんへの「愛してる」は決して代替えのきくものではないと思っていた・・・・

お嫁さんと、ピグの「ゆい」が、ボクの中で同次元に、比較の対象として存在することはありえない。そう思っていた。

・・・・しかし、今、ボクは明らかに ゆい を選んでいた。
お嫁さんが帰ってきて、画面を替えたとき ゆい に対して「申し訳ない」と思った。

「申し訳ない」

ゆい の方が大事だと思っていたんだ。

ゆい の方を大事に思っている・・・

ゆい を好きになっている・・・・それを通り越していた。

・・・・ゆい を愛してしまっていた。

そう気づいてしまった・・・・・


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