「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「ケンカのない仲直り」伝えないこと。

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リビングのテレビからは、能天気な正月番組が流れていた。
聞き流しながらPCを立ち上げ、ブログを書いたり読んだり・・・

PCを立ち上げているときは、常にピグの部屋も確認していた。習慣になっていた。
ゆい が入ってきたら、すぐに話せるようにだ。


突然、ピグの部屋に ゆい が入ってきた。


目を台所に走らせる。
お嫁さんと母は、仲良く台所に立っていた。
しばらくは時間があるだろう・・・

ボクは、実家で与えられた部屋にPCを持っていった。一人になった。


「ちょっとひとりになったから・・・」と ゆい。

正月は、義実家につめて、長男の嫁としての務めがあった。
料理をはじめとした各種の手配。
親戚関係・・・仕事関係の客・・・来客が絶えない・・・それらの相手・・・

ところが、旦那さんは友達と外に飲みに行ってしまった。
そして、娘さんも友達と遊びに行くと言い出した・・・
娘さんを駅に送ったついでに、少し家に帰って「休憩中」だと ゆい が言った。

・・・・ひとりで義実家に戻るには息抜きが・・・呼吸を整えないと無理だろうな・・・
ゆい に痛々しさを感じた。

・・・そして、何より ゆい と会えて嬉しかった。

「実家、どうだった・・・?」

「お義母さん、怖い(笑)」

吐き出すところがないんだろう。
ゆい は、義母との恐怖体験エピソードを話していた。

要は、義母は親分肌で声の大きいヒトだった。女帝って感じだな。

・・・・確かに声の大きい人って苦手だよなぁ・・・
パワハラ上司の典型みたいな・・・・

「私が悪いんだけどね」

二言目には ゆい はそう言った。

義母が怖い。・・・・でも、義母が悪いわけじゃない。期待に応えられない私が悪い。
わかっているのに思うようにできない・・・・

宮城県の地方都市。
地方名士の長男の嫁。
求められるのは、当主、長男の嫁であり、名士の家にとっての嫁だった。

家には、その家の「料理」をはじめとして数々の「しきたり」がある。
それらを覚えて実行すること。
数多くの来訪者の顔も覚えなければならない。


・・・・そして、一番に望まれることは「跡取り」を産むことだった。

最初 ゆい は、そこまでの重圧を感じていなかったらしい。
すぐに妊娠して、無事、女の子を出産した。

しかし、周囲からの明らかな失望の空気を感じる。

そこから初めて、自分が嫁いだのが普通の「家」ではないと、あらためて気づかされた。

「世継ぎ」への待望。有形無形のプレッシャーがかかってくる・・・

またすぐに妊娠するものと思っていたのが、今度はなかなか妊娠しなかった。

・・・さらにの重圧。・・・・しかも、義両親、義弟との同居。
「家」のしきたりの数々・・・息をつくひまがなかった。
・・・呼吸ができなくなった。

すっかり精神的に追い詰められてしまった。


・・・・決して義母の悪口は言わなかった・・・・
全ては嫁としての私の至らなさだ・・・・

悪口が言えれば、言い返すことができる人間ならば、精神的に追い詰められることもなかっただろう。

・・・・そして、そんな ゆい だからこそ、長男である、家の「長」である旦那さんは ゆい を守るために家を出たんだろう・・・・


地方には、よくある話なんだと思う。
・・・それでも、当事者にとっては切実な話だった。

ゆい は笑いながら話している。

古い価値観、しきたりといった類の話は、真面目であれば真面目であるほど、傍から見れば「滑稽」だったりする。

ボクも面白おかしく、ときにツッコミを入れながら話を聞いていた。
・・・・おそらく ゆい はそれを望んでいる。

ピグの ゆい がニコニコしていくのを感じていた。


「この前、お兄ちゃんにブログばっかりやってるって言いつけられちゃった(笑)」

旦那さんと ゆい の兄は仲がいいらしい。
話を聞いていると「義兄弟」といった雰囲気だ。

旦那さんの実家は建設業だ。兄は不動産業だった。

・・・・兄にとって、妹の旦那さんが建設業、しかも地元の名士だというのは人生の幸運だったのではないか。・・・・義兄弟といった雰囲気の根底にそんなことを感じた。
ボクのうがった考えかもしれないけど・・・

それで、親戚がみんな集まった席で、旦那さんが ゆい の兄に愚痴った。と。

「そうだな・・・・ボクも、夜も残業って仕事してることになってるから・・・ 最近忙しいねって、お嫁さんに言われるもんな(笑)」

画面では「カズくん」と「ゆい」がソファで見つめ合っていた。

・・・ボクも課金をしてピグの部屋にソファを買っていた。
テーブルだと近づけないからだった。椅子に離れて座るしかないからだった。
ソファであれば隣に座れる。

話が尽きなかった・・・


縁側に面したガラスサッシから外が見えた。
敷地の外は田畑だった。一面の田畑。突き当りに山々が見えた。
天気が良かった。日差しが暖かだった・・・気温は低い、寒いだろうが、部屋の中から見ていれば穏やかな1日だ。

徳島県に雪が降ることはない。

冬。お正月とはいえ雪を見ることはない。

小学校低学年の時に、珍しく雪が降ったことがある。

走って登校して、みんなで、生まれて初めての雪合戦をした。
降ったとは、積もったとはとても言えない。
それでもボクたちにとっては初めて見る雪景色だった。
雪合戦は、すぐに泥合戦となり、先生に大声で即されて教室に入った。

給食の昼休みには、雪はすっかり消えてしまっていた・・・・・



「楽しいな・・・・」

「うん・・・」

ゆい が返事をする。

ふたりで話すと、こんなにも楽しかった。

年末年始で会えなかった。

ピグで話すと「棘」があった。

会えなかったことが冷却期間のようになっていた。

久しぶりに話した。
楽しかった。
「棘」がなかった。

ケンカしていたわけじゃないけれど、会えなかったことが、すっかり「仲直り」になってしまった。

ふたりでいると楽しい・・・・・改めて思い知らされた。


「もう、戻らなきゃ・・・」

「うん、わかった」

「冬って寒いから嫌い・・・雪かきするのも嫌い・・・昨日から、すごく雪降ってきたんだよ・・・」


徳島は暖かいよ・・・言葉を飲みこんだ。
実家に来ていることは、お嫁さんと一緒なことは伝えたくなかった。


「そっか・・・運転気をつけてね」


・・・東北は・・・ゆい は雪の中にいるのか・・・
ボクには、雪国の生活がわからない。
ボクにとって「雪」とは、純白で、すべてを覆って、隠してしまう美しいものでしかない。
その自然環境の厳しさや、そこで生きることの大変さはわからない。

・・・・そして ゆい も全てをボクに伝えてるわけじゃないだろう・・・


「カズ君 ありがとう・・・・」

「ゆい、今年もよろしくね」

「うん、カズくん、今年もよろしく」


・・・・いつまででも話していたいと思った。
いつまでも話していられる。


「お正月なんか、早く終わっちゃえばいいのに・・・」

ゆい が言った。

「そうだな」

ゆい が消えた。

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