「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「無機質な機微」氷塊。

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「東京なんて行ったことない・・・・・一回だけ、ディズニ―ランドだけ・・・」

「いや、ディズニ―ランドは東京じゃないから(笑)」

そんな話をしていた。

彼女は宮城県に住んでいた。
ボクは東京。

ずっと、建築関係の仕事だ。
仕事は出張も多かった。
これまで、日本全国、いろんなところに行ったことがある。

・・・今でも、いろんなところに行く。

インターネット時代の今、仕事の依頼は日本全国からやってくる。

九州に朝一番の飛行機で現場に入り、施工の指示を出す。
そして最終便で東京へ戻る。そんな強行軍をやらかすこともあった。

・・・もちろん、それは特殊なケースだけど。

そんなこんなで、東北にも仕事で入ったことはある。

特に宮城県には仙台がる。
東北の玄関口だ。
なんども足を運んだことがある。

「そうなんだぁ~~~」

彼女は感嘆していた。

地元の専門学校を卒業して歯科衛生士に。
すぐに結婚して、子供ができた。

ずーーっと地元にいる人生。
県外に出たい気持ちはあったけど、親が許してくれなかった・・・・と。

「ピグ」がわかればブログもわかる。

彼女は、なんでもない日常を綴っていた。
人となりが垣間見えた。

仲のいい家族・・・・彼女、旦那さん、そして娘さん。幸せ家族のブログがそこにあった。

旦那さんは、彼女のことを思い、誕生日にはケーキを買って帰る。
彼女も旦那さんのためにケーキを焼く。
そして手作りの美しい料理が並んでいた。

・・・・美しい料理だった。

「美味しそう」というのとは、ちょっと違う。
レストランのメニュー画像のような料理が並んでいた。

日常の「家庭料理」を、これほど美しく感じたことがなかった。

そして、夫婦が、どれだけ娘さんを愛しているかがわかった。

絵に描いたような「幸福家族の肖像」がそこには綴られていた・・・・


ボクのブログは植物の生育日記と食べ歩き。・・・・登場するのは、お嫁さん。そして仕事仲間。・・・たまに、今もつきあいが続く地元の友達。
ここにも「幸福家族の肖像」が見えているに違いない。

ブログがあれば、人となり、バックボーンがわかる。

彼女は、建てたばかりの一戸建ての庭で花を育ていた。植物の会話でも盛り上がっていく・・・・

気がつけば1時間以上が経っていた。

今日は、ボクに次のスケジュールがある。
客先でのミーティングが入っている。

「もう行かなきゃ・・・・」

「うん、私も。今日こそイオン行かなきゃ(笑)」

「近いの?」

「うん、近いよ。だからすぐ行ける。10分くらい(笑)」

・・・・それでも、後ろ髪を引かれた・・・
いくら話しても話は尽きない・・・


それでも、ブログはわかった。
ピグの部屋もわかった。
どこの誰だかわからないってわけじゃない。


「これから毎日 きたよ するからねー」

「うん きてね 私も きたよ するからね」


ピグの部屋には「きたよ」という、文字通り部屋に来たことを残すシステムがあった。
「いいね」をするようなものだ。

お互いにピグの部屋に入る許可を与えた。
これで、ボクは大手をふって彼女の部屋に出入りができる。
彼女がボクの部屋に来てくれる。


「ピグとも」になった。
「ピグとも」になれば、お互いが「IN」しているのがわかるようになる。
入っていなければピグは白黒で表示され、「IN」していればカラーで表示される。
相手が自分の部屋に来れば、すぐに表示される。

お互いが「ピグ」に入っていれば、すぐに会える。


・・・・もう少し話したい・・・・お互い、そうだったに違いない。

・・・しかし、今日は本当に時間がない。

「じゃあねー」

ボクはピグの部屋を後にした。



電源を切りPCをカバンに納めた。
プリウスの電源ボタンを押して始動させる。・・・プリウスは車じゃなかった。これまでの車のようにセルモーターが回ってエンジンがかかることもない。
家電と同じ・・・PCと同じように電源スイッチを押して始動させる。

束の間の仮想現実から、ウンザリするリアル現実に戻る。

毎朝の通勤ラッシュ。緩和されることのない慢性的な渋滞。・・・バブル崩壊から下げ止まらない不景気・・・

・・・世の中が嫌になっていた。もう、とっくに人生が嫌になっていた。

心の中に氷があった。
決して溶けることのない氷。
・・・・冷たく重い「氷塊」を抱えこんでいた。

南極の氷には年輪があるんだという。

その年輪から、その氷がどのような歴史を刻んできたかがわかるという。

ボクの「氷塊」にも、深い年輪・・・深い傷が刻み込まれているんだろう。

・・・子供時代・・・そして、最近では10年前か・・・

もう人生に熱くなることはない。
決して氷が溶けることはない。


・・・・ハンドルを切り、渋滞の17号線に入っていく。


彼女のピグが頭から離れなかった・・・・


ピグはピグでしかない。
データ、デジタルの世界の産物だ。
その表情からは感情はわからない。
人間が発する心の機微はわからない。

・・・・いや、わかった。

・・・毎日会いたかった。
毎日、話したかった。

・・・・そして毎日会った。毎日話した。


無機質な「ピグ」の表情から、お互いが、お互いの心の機微を感じとっていった・・・



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