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「出会ったのは代々木公園」11月。
しおりを挟む仕事が終わった。
仕事は、フリーのデザイナーだった。・・・っても、建築デザイナー。
店舗や、オフィスの設計をやっている。
事務所は持ってない。
お客さんが来ることはない。客先に出向く仕事だ。そして一人でやっているから事務所はいらない。
一緒にやっている仲間とのやり取りは、全てデータですむ。あと電話。
図面を描くのはもっぱら自宅だった。
築40年の2DK。1部屋を仕事部屋にしていた。
幅が2mある大きな机を使っていた。
その1/3をPCが占めている。1/3にA3の印刷できるプリンター・複合機。
残りのスペースに資材のカタログ、図面、書類が広がっていた。
部屋の壁面には天井まで伸びたパイプ棚。壁材などのサンプルが転がっている。
スチール棚には、カタログをはじめ、書類でギッシリだ。
・・・足の踏み場もない。
片付けが苦手だ。
「片付ける」という能力は、仕事で、客先で使い果たしてしまい、自分の身に使うことがなかった。
・・・これじゃあ「お客」を呼ぶどころか、友人すら呼べなかった。
・・・・呼んだことはない。
「友人」と呼べる存在がほとんどいなかった。
PCから顔を上げると窓から区の「三条公園」が見えた。
11月の雨が降っている。雨音が聞こえた。
午後3時。
いっこの図面が描き終わった。
関係先にメールで送って、ひと仕事終わった。
図面を描くのはけっこうな時間がかかる。
仕事は、机に向かってのPC作業だ。
肩が凝る。首が凝る。腰が痛い。
ひと仕事終わった。
そして今日の予定は、これで終わりだ。
珈琲を入れる。
珈琲にはこだわる。いくつものショップを回ってエスプレッソマシーンを吟味した。
珈琲の香り・・・
凝り固まった身体をほぐしていく。
・・・・解放感。
散歩に出かける。
秋の「代々木公園」は紅葉。
ベンチに座ってぼーっとする。
人影はまばら。
しばらくして公園をブラブラする。
数人で話しているグループがいくつか。
・・・・・・
なんとなく気になった。
ひとりでベンチに座っていた女性・・・・。
なんとなく気になった。
・・・・なんだろう・・・・
雰囲気かなぁ・・・
凛とした、読書をしているような・・・・
ちゃんとしている。
公園なのに小じゃれたカフェなんかで読書をしているような、そんな雰囲気があった。
「高嶺の華」
・・・・そんな言葉が頭に浮かんだ・・・
「こんにちは」
思わず声をかけてしまった。
・・・なんか吸い寄せられたようだった。
ちょっと間が合って
「こんにちは」と返事。
「座っていい?」
ハイと彼女が答えてくれたので、隣に座った。
「よく来るんですか・・?」とボク。
彼女は、仕事を辞めたばかりだった。
歯科衛生士をやっていたんだけど、と。
「なんで?」と聞くと
「歳だから」と笑った。
なんでも、歯科衛生士の世界ってのは、次から次に新人が入ってくる世界らしい。
・・・・確かに、歯医者行って、あんまりオバチャンの衛生士さんって見たことないよな・・・そういうことかぁ・・・
だから、歯科医院も、新しい、若い女の子を入れ替えていくってのが暗黙の了解なんだとか。
「だから、なんとなく辞めちゃったのよね」
ずーーっと働いてきて、仕事辞めて専業主婦になるのは初めての経験だと言った。
テレビドラマの話から、映画の話になって・・・・なんだか、話が盛り上がってしまった。
盛り上がるといっても、静かに・・・・なんだろう、静かに大人の会話って感じが心地良かった。
「買い物に行かなきゃ・・・・」
気がつけば5時になろうとしていた。・・・あっという間の2時間だった。
話が止まらない。
「夕飯の買い出しに行かなきゃ・・・」
さらに1時間が過ぎた・・・
「もう子供迎えに行かなきゃ・・・・」
中学生の娘さんがいるらしい。
なんとなく・・・・なんとなく後ろ髪を引かれていた。
・・・たぶん、お互いだったに違いない。
まだ話していたい。もう少し話したいと思った。
・・・・3時間以上も話していたのに。
時間を忘れて話ができるってそうはない。
そんな相性のヒトって簡単には出会わない。
「明日も会えますか・・・・?」
恐る恐る、ドキドキしながら、勇気を振り絞って言っていた。
・・・・どうしても、もっと話したいと思った。
「うん」
彼女が答えてくれた。
「じゃあ、明日も、この時間くらいで」
彼女が立ち上がって、
「じゃあ、ねー」
そう言って消えた。
代々木公園から消えた。
画面から消えた。
・・・そう、出会ったのは画面の中だった。ブログの中だった。
アメーバ―ブログでは、自分の分身のアバターが使えた。・・・「ピグ」と言った。
「ピグ」・・・仮想現実の世界では、いろんな街や・・・いろんな国さえあった。
彼女に初めて会ったのは、仮想現実、11月の代々木公園だった。
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