「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

文字の大きさ
上 下
1 / 86

「出会ったのは代々木公園」11月。

しおりを挟む


仕事が終わった。

仕事は、フリーのデザイナーだった。・・・っても、建築デザイナー。
店舗や、オフィスの設計をやっている。

事務所は持ってない。

お客さんが来ることはない。客先に出向く仕事だ。そして一人でやっているから事務所はいらない。

一緒にやっている仲間とのやり取りは、全てデータですむ。あと電話。


図面を描くのはもっぱら自宅だった。

築40年の2DK。1部屋を仕事部屋にしていた。

幅が2mある大きな机を使っていた。
その1/3をPCが占めている。1/3にA3の印刷できるプリンター・複合機。
残りのスペースに資材のカタログ、図面、書類が広がっていた。

部屋の壁面には天井まで伸びたパイプ棚。壁材などのサンプルが転がっている。
スチール棚には、カタログをはじめ、書類でギッシリだ。

・・・足の踏み場もない。

片付けが苦手だ。

「片付ける」という能力は、仕事で、客先で使い果たしてしまい、自分の身に使うことがなかった。

・・・これじゃあ「お客」を呼ぶどころか、友人すら呼べなかった。

・・・・呼んだことはない。
「友人」と呼べる存在がほとんどいなかった。


PCから顔を上げると窓から区の「三条公園」が見えた。
11月の雨が降っている。雨音が聞こえた。


午後3時。
いっこの図面が描き終わった。
関係先にメールで送って、ひと仕事終わった。

図面を描くのはけっこうな時間がかかる。
仕事は、机に向かってのPC作業だ。
肩が凝る。首が凝る。腰が痛い。


ひと仕事終わった。
そして今日の予定は、これで終わりだ。


珈琲を入れる。
珈琲にはこだわる。いくつものショップを回ってエスプレッソマシーンを吟味した。

珈琲の香り・・・
凝り固まった身体をほぐしていく。

・・・・解放感。



散歩に出かける。

秋の「代々木公園」は紅葉。

ベンチに座ってぼーっとする。

人影はまばら。

しばらくして公園をブラブラする。

数人で話しているグループがいくつか。

・・・・・・

なんとなく気になった。

ひとりでベンチに座っていた女性・・・・。

なんとなく気になった。
・・・・なんだろう・・・・

雰囲気かなぁ・・・
凛とした、読書をしているような・・・・

ちゃんとしている。
公園なのに小じゃれたカフェなんかで読書をしているような、そんな雰囲気があった。

「高嶺の華」

・・・・そんな言葉が頭に浮かんだ・・・

「こんにちは」

思わず声をかけてしまった。

・・・なんか吸い寄せられたようだった。

ちょっと間が合って
「こんにちは」と返事。

「座っていい?」
ハイと彼女が答えてくれたので、隣に座った。

「よく来るんですか・・?」とボク。

彼女は、仕事を辞めたばかりだった。
歯科衛生士をやっていたんだけど、と。

「なんで?」と聞くと

「歳だから」と笑った。

なんでも、歯科衛生士の世界ってのは、次から次に新人が入ってくる世界らしい。

・・・・確かに、歯医者行って、あんまりオバチャンの衛生士さんって見たことないよな・・・そういうことかぁ・・・

だから、歯科医院も、新しい、若い女の子を入れ替えていくってのが暗黙の了解なんだとか。

「だから、なんとなく辞めちゃったのよね」

ずーーっと働いてきて、仕事辞めて専業主婦になるのは初めての経験だと言った。

テレビドラマの話から、映画の話になって・・・・なんだか、話が盛り上がってしまった。
盛り上がるといっても、静かに・・・・なんだろう、静かに大人の会話って感じが心地良かった。

「買い物に行かなきゃ・・・・」

気がつけば5時になろうとしていた。・・・あっという間の2時間だった。
話が止まらない。

「夕飯の買い出しに行かなきゃ・・・」

さらに1時間が過ぎた・・・

「もう子供迎えに行かなきゃ・・・・」

中学生の娘さんがいるらしい。

なんとなく・・・・なんとなく後ろ髪を引かれていた。

・・・たぶん、お互いだったに違いない。
まだ話していたい。もう少し話したいと思った。
・・・・3時間以上も話していたのに。


時間を忘れて話ができるってそうはない。

そんな相性のヒトって簡単には出会わない。


「明日も会えますか・・・・?」

恐る恐る、ドキドキしながら、勇気を振り絞って言っていた。
・・・・どうしても、もっと話したいと思った。

「うん」

彼女が答えてくれた。

「じゃあ、明日も、この時間くらいで」

彼女が立ち上がって、

「じゃあ、ねー」

そう言って消えた。

代々木公園から消えた。

画面から消えた。


・・・そう、出会ったのは画面の中だった。ブログの中だった。


アメーバ―ブログでは、自分の分身のアバターが使えた。・・・「ピグ」と言った。

「ピグ」・・・仮想現実の世界では、いろんな街や・・・いろんな国さえあった。


彼女に初めて会ったのは、仮想現実、11月の代々木公園だった。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...