ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【4】2006年6月6日 12:15・教室・大雨。アイナ(レン視点)。

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「反省してるのか貴様ぁああああ!!」

角刈りモアイの1人大声コンテストがまだ続いている。あの怒号はホントに耳障りでヘキエキする。

《隣のクラス、迷惑だろうなぁ・・・》


いい加減、教科書をめくるのも飽きたので黒板の方を見てみると、やはりと言うか何と言うか、教卓の前に金髪のお団子頭をした背の低い少女が立たされている姿が見えた。

《・・・あぁ、やっぱり。そんな気はしてたけど》

彼女の名前はアイナ。
私の家で暮らしている同居人の1人だ。アイナはクラスで一番背が低くよく小学生に間違われる。

私の席からかろうじて後頭部と背中が少しだけ見えるのがやっとなくらい背が低い。



「貴様ぁ!!この前の中間テストボロボロだったらしいじゃないか!宿題はほぼ毎回忘れる!テストはロクな点数も取れない!!この学園に貴様のような不良はいらんッ!!!」


まだ全教科のテスト結果が返されてないのにどうしてそんなことが分かるのかと一瞬思ったが、たしか角刈りモアイは私たち1年生の生活指導を担当していたことを思い出した。

恐らく1年生担当の教師陣で成績の悪い生徒の話題にでもなってアイナの名前が挙げられたとかそんな感じだろう・・・。

他の学校がどんな感じか分からないから何とも言えないけど、そもそも生活指導を各学年に用意する必要があるのだろうか?個人的に生活指導の教師はやたらウザいイメージしかない。

それにしても、生徒の個人情報をクラスメイトの前でバラして責めの材料にするなんて・・・

《コイツ、とことんクズだな・・・》



こういう責め方が生徒に嫌われる理由の1つだと知ってか知らずか角刈りモアイは平気でやってのける。生徒が傷つくとかは二の次で自分の威厳を保つためだけにやっているのは明白だった。

この男はデリカシーというモノが微塵も備わっていない。
­


後ろ姿しか見えないので断言はできないが今の言葉で十中八九アイナは頭にきていると思う。そんな雰囲気を後頭部と少しだけ見える背中が物語っている気がした。高校生になった4月から今日まで、倫理の冒頭数分はだいたいいつもこんな感じだった。


なので、今となってはもはや驚くことは何もない。アイナも懲りずにほぼ毎回きちんと角刈りモアイの宿題を忘れるのだから逆にスゴイなぁと変な感動さえ覚えてしまう。




ふと時計と黒板を見る。

《6月6日12時15分。はぁ、まだ15分しか経ってないのか・・・》

現在4時間目、昼休みまでの道のりは長い。

先日、中間テストが終わったばかりなので、どちらかというと一段落ついてまったり余韻に浸りたいのが本音なんだけど。この授業だけはホントに苦痛だ。


「何か言ったらどうだぁ!!!」

しかし、ほぼ毎回宿題を忘れるアイナもアイナだけど今日はなかなか角刈りモアイの怒りが収まらない。

《奥さんと喧嘩でもしたのかな?》

なんて思っている矢先のことだった。

「サーセンしたぁ~・・・」

《なッ・・・!?》

アイナがふてぶてしい態度でとんでもない謝罪を口にした。
私の目がフクロウばりに丸くなる。



「何だ貴様ぁああああ!!その口の利き方はぁ!!」

当然、角刈りモアイがキレ始める。

《これはひょっとして説教ロングモードに入ったかな?》

アイナがわざとふてぶてしい態度をとると低確率で説教がロングモードに突入することがある。


こうなると最低でも10分以上説教が追加される。その分無駄な授業を削ってくれるから有り難いのだが角刈りモアイの怒号が30%大きくなるという欠点もあった。

「サーセーン」
「貴様ぁ!!!誰に・・・」
バンバンバンッ!

「サーセンッ」
「貴様ぁああ!!!話を聞・・・」
バンバンバンッ!

「サーセンッサーセンッ」
「おいぃぃぃぃ!!!」
バンバンバンッ!!

アイナが舐め腐った謝罪を口にするたびに角刈りモアイが両手で力の限り教卓を叩きつけた。何かのセッションかと思うくらいリズミカルな轟音が教室中に響き渡る。

時折、別のクラスで授業中の教師が何事かと覗いてくるほど、やはり響きまくっているらしい。

《迷惑モアイめ・・・》


教師による体罰反対が主流の御時世に加えて女子校で生徒を殴るわけにもいかない角刈りモアイは、それでもなんとか教師としての威厳をアイナに示したくて必死に机を叩く。

・・・が、角刈りモアイの気持ちはアイナに微塵も届いてないようだった。
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