BL短編小説

立樹

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みぞれ

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 寒い寒いと思っていたら、朝から雪が降ってきた。
 昼になると、みぞれに変わった。
 雨まじりの雪は、アンバランスだ。
 今のぼくのように。

 気持ちと態度が合っていない。
 本当は触れたいと思っているのに、行動には起こせないんだ。
 それが異性であったなら、もっと積極的になれたんだろうか。
 遠くの白くかすんでいる山並みを見ながら思った。

 あと数日もすれば高校も卒業だ。進路だって別々。
 だったら、積極的にアピールしてみる?
「いや、やめとこ」
「吉田。なにやめんの? 自転車で帰るのやめんの?」

 つぶやきに返答などないと思っていたから驚いた。それも、ちょうど考えていた相手からの問いに、じっと見入ってしまった。
「な、なんだよ」
「錬ちゃん」
「だから、ちゃん呼びすんなって。小学生から名前呼び変えねえな」
 まったく、と、あきれつつ、苦笑気味に笑って、空いている前の席に座った。
 錬ちゃんと呼ぶには、似つかわしくない凛々しい顔をしている。
 それでも、呼び方を変えないのは、距離感が近いような気がするからかも。
 背が伸びても、顔つきが変わっても、さりげなく助けてくれるところは昔から一緒。

 変わってほしくなくて呼んでいるんだよ、
「錬ちゃん」
「なんだよ、雪降ってて感傷に浸ってんのか?」

「ちょっと頭下げて」
「ん?」
「いいから」

 手をのばすと訝し気な顔をしながらも、頭を下げてくれた。
 夏は短く刈り込んでいた髪の毛が、ずいぶん伸びていた。
 こめかみから、両手で、かみの毛を後ろになでつける。
 反射的に逃げようとする錬ちゃんを逃がさまいと、思いっきり髪の毛をくしゃくしゃにした。

「よっしーなにすんだよ!……っあ」
 ぼさぼさの髪の毛はそのまま、目があった。
「ほら、錬ちゃんだって、たまに呼ぶじゃん」
「しまった。なんか、やられた気分」
 ぼくの机に突っ伏した錬ちゃんのつむじをつつくと、ぺしっとはたかれた。

「こうやって、じゃれるのもあと少しか」
 もう一度つつこうとすると、錬ちゃんが顔を上げた。
 マジメな顔でぼくを見た。
 なに?と問う前に、「うりゃ」とぼくの髪の毛をくしゃくしゃにしてきた。

「やめろー」
 手から逃れるために席を立った。
 錬ちゃんは、下からぼくを見上げながら
「いつでも、じゃれてやるって」
 そう言って笑った顔に、胸がぎゅっとなった。
 そんな笑みは、反則だ。
 ぼくは、錬ちゃんから視線をはずして、窓の外を見る。
 みぞれはまた雪に変わっていた。

 どんどん景色が白くなっていく。ただ、それを眺めていた。きっと、錬ちゃんも同じように見ていると思って。
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