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自宅でのひととき
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仕事が終わった後の、ゆっくりとした一時。
ホッとする時間。
片手にコーヒー、もう片手に文庫本を持ち、ソファに腰かける。BGMが流れる室内は、白く明るいブルーライトから、温かみのあるオレンジ色へと変わる。
窓の外は、街の明かりだけ。
入れたての熱いコーヒーを一口すすり、目で文字を追う。
そんな中、チャイムが鳴った。
せっかくの一時を壊され、少し苛立つ。
もう夜の九時を回ろうとしてしているのに、来るとしたらアイツしかいない。
その人物を思い浮かべ、胸の内がざわつく。
テーブルにコーヒーと本を置き、入口へと向かう。
扉を開けると、灰色のTシャツに黒のスラックスという、シンプルな出で立ちで立っているのは、やっぱりアイツだった。
「なんだ、こんな時間に」
一オクターブ声が低くなる。
彼は、俺の声にも気を遣うわけでもなく、へらっと笑った。
「会いたかった」
ストレートな言葉に、息が詰まりそうになる。
「ま、まあ、入れよ」
滑らかにしゃべれず、どもる。
扉を閉めた瞬間に、後ろから抱きすくめられた。
首筋に吐息がかかる。
「明日は?」
耳元に囁かれる声は甘く、全身に痺れが走る。
身をよじり、彼から逃れようとすればするほどに、きつく抱き締められた。
「しゅ、……出勤だよ」
自分の呼吸が乱れている羞恥に、顔に血が昇る。
首筋にあてられた唇が熱い。
首をよじり、彼の顔を力一杯押す。
巻き付いている筋肉質の腕を掴み、隙間を作ると、なんとか彼から離れることが出来た。
リビングにもどる頃には、汗だくだった。
「コーヒーかいいな。俺にもくれ」
彼は悪びれることなく、来た時と同じ、にこやかな顔で言う。
「勝手はわかってるだろ。欲しいなら、自分で入れればいい」
上がった息を戻すために、深い息をはく。
「つれないな」
「来るなら、来ると連絡が欲しい」
彼から顔を背ける前に、グイっと顎を持たれ、彼の顔が目の前に迫ってきた。
そして、彼の目が、スイっと細められる。
「急に会いたくなった。けど、すぐに帰るさ」
「じゃあ、今すぐに帰れ」
「冗談だ。しばらくいるよ」
彼は、顎から手を離すと、軽く口づけてきた。
チュッと音がする軽いキス。
離れた瞬間、足りない。
そう思ってしまったことが悔しかった。
手を伸ばし、彼の首に腕を回す。
「帰れなんて嘘さ。一緒にいてくれ」
「ああ」
唇が重なり、口の中に彼の舌が入ってくる。
体が火照る。
息が続かなくなった頃、体ごと彼から離した。これ以上、くっついていると、もう、止まりそうになかった。彼を見ると、頬が染まり、目元が下がっている。
「コーヒー淹れるから、座っててくれ」
「なんだよ、しないのか?」
「夜は長いさ」
彼は、俺のおでこに口づけた後、
「そうだな」と、笑った。
その笑顔は、俺が最初に惚れた笑顔だった。
コーヒーの匂いが立ち込める部屋に帳がおりる。
ホッとする時間。
片手にコーヒー、もう片手に文庫本を持ち、ソファに腰かける。BGMが流れる室内は、白く明るいブルーライトから、温かみのあるオレンジ色へと変わる。
窓の外は、街の明かりだけ。
入れたての熱いコーヒーを一口すすり、目で文字を追う。
そんな中、チャイムが鳴った。
せっかくの一時を壊され、少し苛立つ。
もう夜の九時を回ろうとしてしているのに、来るとしたらアイツしかいない。
その人物を思い浮かべ、胸の内がざわつく。
テーブルにコーヒーと本を置き、入口へと向かう。
扉を開けると、灰色のTシャツに黒のスラックスという、シンプルな出で立ちで立っているのは、やっぱりアイツだった。
「なんだ、こんな時間に」
一オクターブ声が低くなる。
彼は、俺の声にも気を遣うわけでもなく、へらっと笑った。
「会いたかった」
ストレートな言葉に、息が詰まりそうになる。
「ま、まあ、入れよ」
滑らかにしゃべれず、どもる。
扉を閉めた瞬間に、後ろから抱きすくめられた。
首筋に吐息がかかる。
「明日は?」
耳元に囁かれる声は甘く、全身に痺れが走る。
身をよじり、彼から逃れようとすればするほどに、きつく抱き締められた。
「しゅ、……出勤だよ」
自分の呼吸が乱れている羞恥に、顔に血が昇る。
首筋にあてられた唇が熱い。
首をよじり、彼の顔を力一杯押す。
巻き付いている筋肉質の腕を掴み、隙間を作ると、なんとか彼から離れることが出来た。
リビングにもどる頃には、汗だくだった。
「コーヒーかいいな。俺にもくれ」
彼は悪びれることなく、来た時と同じ、にこやかな顔で言う。
「勝手はわかってるだろ。欲しいなら、自分で入れればいい」
上がった息を戻すために、深い息をはく。
「つれないな」
「来るなら、来ると連絡が欲しい」
彼から顔を背ける前に、グイっと顎を持たれ、彼の顔が目の前に迫ってきた。
そして、彼の目が、スイっと細められる。
「急に会いたくなった。けど、すぐに帰るさ」
「じゃあ、今すぐに帰れ」
「冗談だ。しばらくいるよ」
彼は、顎から手を離すと、軽く口づけてきた。
チュッと音がする軽いキス。
離れた瞬間、足りない。
そう思ってしまったことが悔しかった。
手を伸ばし、彼の首に腕を回す。
「帰れなんて嘘さ。一緒にいてくれ」
「ああ」
唇が重なり、口の中に彼の舌が入ってくる。
体が火照る。
息が続かなくなった頃、体ごと彼から離した。これ以上、くっついていると、もう、止まりそうになかった。彼を見ると、頬が染まり、目元が下がっている。
「コーヒー淹れるから、座っててくれ」
「なんだよ、しないのか?」
「夜は長いさ」
彼は、俺のおでこに口づけた後、
「そうだな」と、笑った。
その笑顔は、俺が最初に惚れた笑顔だった。
コーヒーの匂いが立ち込める部屋に帳がおりる。
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