花火の下で、君と

立樹

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 大真たいしはしかめっつらで、浜辺に立っていた。

 ぎらつく太陽にじりじりと肌を焼かれるのも、海のさざ波の音より、人の声の方が大きく聞こえてくるのも、嫌だった。

 海は夏休みのせいだろう、家族連れが目立つ。立っている脇を後ろから、子どもが駆け抜けていった。そのうしろから、両親と思われる若い男女が歩いていく。
 前からは、大学生ぐらいの男女五人ほどのグループがしゃべりながら歩いてくる。上着を羽織っている人もいれば、いない人もいるが、どの人も、水着姿だ。
 パーカーだったり、Tシャツだったり、派手だったりシンプルだったりと、一人として同じではなかった。

 大真は、自分着ているTシャツを見下ろした。
 白色に有名なスポーツメーカーのロゴが入っているもので、安売りの時に買ったものだ。
 海水パンツも、学生時代からはいていて、柄もなく、黒に赤の横ラインが入っているシンプルなものだ。眩しさからサングラスは持ってきてはいても、Tシャツの首元にかけている。

 人ごみも苦手なら、暑いのも苦手だ。
 だから、顔も自然とゆがんでくる。
 それでもここに来たのは、誘われたから。
 そうじゃなきゃ、家でごろごろと休暇を満喫していただろう。

 すぐ来るから待っていて、と言われて、浜から少し離れたところにいた。まだだろうかと待ち人が来るはずの方向を見ていると、さっきの五人ほどの大学生を追い越して、やっと来た。
「たいちゃん。早く行こうぜ」
 声をかけてきたのは、小学校からの腐れ縁、小川田えにしだ。
 そして、大真を誘ってきた人物。

 大真よりも、頭一つぶん背が低く、二十六歳になるのに、一七〇センチないのを気にしている。
 けれど、運動神経は縁のほうがずいぶんと高い。
 百メートル走では高校でもトップクラスだった彼は、背が低いわりに手足が長く、筋肉質でアスリートの体をしている。
 羽織っている白いパーカーを脱いだなら、その下の引き締まった身体があらわになるはずだ。
 髪型もずっと前から変わらない短髪。ただ、学生の頃と比べて耳の横から後ろにかけて、刈り上げている。

 触れば、ざらざらするだろうな。
 ぼんやりと、前に立った縁を見ながら、そんなことを思った。

 今日の目的は、海の上アトラクションが浮かんでいる大きなテーマパーク。
 高校の友人たちと遊びに来ていた。

「のっちらは?」
 歩きはじめた縁に聞いた。
「先に受付済ませて、行ってるってさ」

 のっちをふくめた三人の友人たちは、明日、つまり月曜日に休みが取れず、昨日に一泊して、今日、帰る予定にしていた。

 大真と縁は、土曜日に休みが取れなかったたけれど、一日だけでもみんなで一緒に遊ぼうと、大真の車で来て、さっきここの浜辺に着いたところだった。このあと夜は、近くにホテルに宿を取っていて、一泊する予定にしている。

 腕時計に目をやると今は、もうテーマパーク開始時間の十時を過ぎている。きっともう先に来て遊んでいるのだろう。
「たいちゃん、あれ。近くで見ると、めっちゃ、でっかくない?」
 海の上に浮かんでいる様々な形のウキを見て縁が言った。
「そうだな」

 大真にとってもは、アトラクションで遊ぶよりも、テンションの上がった縁を見ている方が楽しい。

 中学生ぐらいの時だろうか。縁が気になってきたのは。

 その時は、まだ友人として好きだ、ぐらいにしか思っていなかった。
 けれど、高校になり段々と年齢を重ねていくと、わかってくることもある。
 自分が縁を異性と同じように好きだということを。

 その気持ちを自分では認めても、縁に悟られたくなかった。今の関係が壊れるなら気持ちに蓋をするほうがマシだった。
 きっとこれからもずっと。

 それでも、少しは近づきたくてたまらなくなるときがある。

 今がそうだ。

 無邪気に喜ぶ縁をぎゅっと抱きしめたくて仕方がない。
 こちらの気持ちに変化があったとして、縁にとって大真は小学生の時の友だちのまんま。その証拠に、今も昔も変わらず『たいちゃん』と呼ぶ。

 嫌なわけではない。けど……。

「なあ」

 大真が呼びかけると、
「ん?」
 と振り返って歩む速度を落とした。

「『たいちゃん』じゃなくて、『たいし』って呼んでよ」
「……」
 目を大きく開けて歩みを止めてしまった。

「た、たい……」

『たいし』とは言えず、動揺しているのがひと目でわかった。縁はいつも困ったことがあると、爪をいじる癖があった。今もいじっている。

 名前を呼び捨てで呼んでくれとお願いしたのは、今日が初めてだったけれど、こんな困るとは思ってもみなかった。

「呼べないわけでもある?」
「た、たい……あー、むり! はずい!」

 そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
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