1 / 4
1
しおりを挟む
大真はしかめっつらで、浜辺に立っていた。
ぎらつく太陽にじりじりと肌を焼かれるのも、海のさざ波の音より、人の声の方が大きく聞こえてくるのも、嫌だった。
海は夏休みのせいだろう、家族連れが目立つ。立っている脇を後ろから、子どもが駆け抜けていった。そのうしろから、両親と思われる若い男女が歩いていく。
前からは、大学生ぐらいの男女五人ほどのグループがしゃべりながら歩いてくる。上着を羽織っている人もいれば、いない人もいるが、どの人も、水着姿だ。
パーカーだったり、Tシャツだったり、派手だったりシンプルだったりと、一人として同じではなかった。
大真は、自分着ているTシャツを見下ろした。
白色に有名なスポーツメーカーのロゴが入っているもので、安売りの時に買ったものだ。
海水パンツも、学生時代からはいていて、柄もなく、黒に赤の横ラインが入っているシンプルなものだ。眩しさからサングラスは持ってきてはいても、Tシャツの首元にかけている。
人ごみも苦手なら、暑いのも苦手だ。
だから、顔も自然とゆがんでくる。
それでもここに来たのは、誘われたから。
そうじゃなきゃ、家でごろごろと休暇を満喫していただろう。
すぐ来るから待っていて、と言われて、浜から少し離れたところにいた。まだだろうかと待ち人が来るはずの方向を見ていると、さっきの五人ほどの大学生を追い越して、やっと来た。
「たいちゃん。早く行こうぜ」
声をかけてきたのは、小学校からの腐れ縁、小川田縁だ。
そして、大真を誘ってきた人物。
大真よりも、頭一つぶん背が低く、二十六歳になるのに、一七〇センチないのを気にしている。
けれど、運動神経は縁のほうがずいぶんと高い。
百メートル走では高校でもトップクラスだった彼は、背が低いわりに手足が長く、筋肉質でアスリートの体をしている。
羽織っている白いパーカーを脱いだなら、その下の引き締まった身体があらわになるはずだ。
髪型もずっと前から変わらない短髪。ただ、学生の頃と比べて耳の横から後ろにかけて、刈り上げている。
触れば、ざらざらするだろうな。
ぼんやりと、前に立った縁を見ながら、そんなことを思った。
今日の目的は、海の上アトラクションが浮かんでいる大きなテーマパーク。
高校の友人たちと遊びに来ていた。
「のっちらは?」
歩きはじめた縁に聞いた。
「先に受付済ませて、行ってるってさ」
のっちをふくめた三人の友人たちは、明日、つまり月曜日に休みが取れず、昨日に一泊して、今日、帰る予定にしていた。
大真と縁は、土曜日に休みが取れなかったたけれど、一日だけでもみんなで一緒に遊ぼうと、大真の車で来て、さっきここの浜辺に着いたところだった。このあと夜は、近くにホテルに宿を取っていて、一泊する予定にしている。
腕時計に目をやると今は、もうテーマパーク開始時間の十時を過ぎている。きっともう先に来て遊んでいるのだろう。
「たいちゃん、あれ。近くで見ると、めっちゃ、でっかくない?」
海の上に浮かんでいる様々な形のウキを見て縁が言った。
「そうだな」
大真にとってもは、アトラクションで遊ぶよりも、テンションの上がった縁を見ている方が楽しい。
中学生ぐらいの時だろうか。縁が気になってきたのは。
その時は、まだ友人として好きだ、ぐらいにしか思っていなかった。
けれど、高校になり段々と年齢を重ねていくと、わかってくることもある。
自分が縁を異性と同じように好きだということを。
その気持ちを自分では認めても、縁に悟られたくなかった。今の関係が壊れるなら気持ちに蓋をするほうがマシだった。
きっとこれからもずっと。
それでも、少しは近づきたくてたまらなくなるときがある。
今がそうだ。
無邪気に喜ぶ縁をぎゅっと抱きしめたくて仕方がない。
こちらの気持ちに変化があったとして、縁にとって大真は小学生の時の友だちのまんま。その証拠に、今も昔も変わらず『たいちゃん』と呼ぶ。
嫌なわけではない。けど……。
「なあ」
大真が呼びかけると、
「ん?」
と振り返って歩む速度を落とした。
「『たいちゃん』じゃなくて、『たいし』って呼んでよ」
「……」
目を大きく開けて歩みを止めてしまった。
「た、たい……」
『たいし』とは言えず、動揺しているのがひと目でわかった。縁はいつも困ったことがあると、爪をいじる癖があった。今もいじっている。
名前を呼び捨てで呼んでくれとお願いしたのは、今日が初めてだったけれど、こんな困るとは思ってもみなかった。
「呼べないわけでもある?」
「た、たい……あー、むり! はずい!」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
ぎらつく太陽にじりじりと肌を焼かれるのも、海のさざ波の音より、人の声の方が大きく聞こえてくるのも、嫌だった。
海は夏休みのせいだろう、家族連れが目立つ。立っている脇を後ろから、子どもが駆け抜けていった。そのうしろから、両親と思われる若い男女が歩いていく。
前からは、大学生ぐらいの男女五人ほどのグループがしゃべりながら歩いてくる。上着を羽織っている人もいれば、いない人もいるが、どの人も、水着姿だ。
パーカーだったり、Tシャツだったり、派手だったりシンプルだったりと、一人として同じではなかった。
大真は、自分着ているTシャツを見下ろした。
白色に有名なスポーツメーカーのロゴが入っているもので、安売りの時に買ったものだ。
海水パンツも、学生時代からはいていて、柄もなく、黒に赤の横ラインが入っているシンプルなものだ。眩しさからサングラスは持ってきてはいても、Tシャツの首元にかけている。
人ごみも苦手なら、暑いのも苦手だ。
だから、顔も自然とゆがんでくる。
それでもここに来たのは、誘われたから。
そうじゃなきゃ、家でごろごろと休暇を満喫していただろう。
すぐ来るから待っていて、と言われて、浜から少し離れたところにいた。まだだろうかと待ち人が来るはずの方向を見ていると、さっきの五人ほどの大学生を追い越して、やっと来た。
「たいちゃん。早く行こうぜ」
声をかけてきたのは、小学校からの腐れ縁、小川田縁だ。
そして、大真を誘ってきた人物。
大真よりも、頭一つぶん背が低く、二十六歳になるのに、一七〇センチないのを気にしている。
けれど、運動神経は縁のほうがずいぶんと高い。
百メートル走では高校でもトップクラスだった彼は、背が低いわりに手足が長く、筋肉質でアスリートの体をしている。
羽織っている白いパーカーを脱いだなら、その下の引き締まった身体があらわになるはずだ。
髪型もずっと前から変わらない短髪。ただ、学生の頃と比べて耳の横から後ろにかけて、刈り上げている。
触れば、ざらざらするだろうな。
ぼんやりと、前に立った縁を見ながら、そんなことを思った。
今日の目的は、海の上アトラクションが浮かんでいる大きなテーマパーク。
高校の友人たちと遊びに来ていた。
「のっちらは?」
歩きはじめた縁に聞いた。
「先に受付済ませて、行ってるってさ」
のっちをふくめた三人の友人たちは、明日、つまり月曜日に休みが取れず、昨日に一泊して、今日、帰る予定にしていた。
大真と縁は、土曜日に休みが取れなかったたけれど、一日だけでもみんなで一緒に遊ぼうと、大真の車で来て、さっきここの浜辺に着いたところだった。このあと夜は、近くにホテルに宿を取っていて、一泊する予定にしている。
腕時計に目をやると今は、もうテーマパーク開始時間の十時を過ぎている。きっともう先に来て遊んでいるのだろう。
「たいちゃん、あれ。近くで見ると、めっちゃ、でっかくない?」
海の上に浮かんでいる様々な形のウキを見て縁が言った。
「そうだな」
大真にとってもは、アトラクションで遊ぶよりも、テンションの上がった縁を見ている方が楽しい。
中学生ぐらいの時だろうか。縁が気になってきたのは。
その時は、まだ友人として好きだ、ぐらいにしか思っていなかった。
けれど、高校になり段々と年齢を重ねていくと、わかってくることもある。
自分が縁を異性と同じように好きだということを。
その気持ちを自分では認めても、縁に悟られたくなかった。今の関係が壊れるなら気持ちに蓋をするほうがマシだった。
きっとこれからもずっと。
それでも、少しは近づきたくてたまらなくなるときがある。
今がそうだ。
無邪気に喜ぶ縁をぎゅっと抱きしめたくて仕方がない。
こちらの気持ちに変化があったとして、縁にとって大真は小学生の時の友だちのまんま。その証拠に、今も昔も変わらず『たいちゃん』と呼ぶ。
嫌なわけではない。けど……。
「なあ」
大真が呼びかけると、
「ん?」
と振り返って歩む速度を落とした。
「『たいちゃん』じゃなくて、『たいし』って呼んでよ」
「……」
目を大きく開けて歩みを止めてしまった。
「た、たい……」
『たいし』とは言えず、動揺しているのがひと目でわかった。縁はいつも困ったことがあると、爪をいじる癖があった。今もいじっている。
名前を呼び捨てで呼んでくれとお願いしたのは、今日が初めてだったけれど、こんな困るとは思ってもみなかった。
「呼べないわけでもある?」
「た、たい……あー、むり! はずい!」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
逃げられない罠のように捕まえたい
アキナヌカ
BL
僕は岩崎裕介(いわさき ゆうすけ)には親友がいる、ちょっと特殊な遊びもする親友で西村鈴(にしむら りん)という名前だ。僕はまた鈴が頬を赤く腫らせているので、いつものことだなと思って、そんな鈴から誘われて僕は二人だけで楽しい遊びをする。
★★★このお話はBLです 裕介×鈴です ノンケ攻め 襲い受け リバなし 不定期更新です★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。
恋のスーパーボール
茶野森かのこ
BL
一目惚れ、夏祭り、赤い欄干、あやかし。夏に出会った大切な人。
新人編集者の壱哉は、作家の瑞季に恋をしている。
人気作家の瑞季だが、最近は創作活動に行き詰まり、リフレッシュも兼ねて、二人は温泉旅行に向かう事に。
好きな人との温泉旅行に夏祭りと、浮かれる壱哉だったが、あやかしが瑞季に牙を剥いていく。
*(2024.4.1)修正しました。
87day Diaries.
紀木 冴
BL
須野海岸は毎年夏になると多くの人が集まる。
そんな海の側で生まれの育った由井麻比呂は大好きだった兄の死をきっかけにサーフィンから離れ両親の営むカフェ&ショップで働いていた。
ある夏ライフセーバーの真壁礼が現場調査と教育のため派遣され須野海岸の一員として働く事に。そんな礼を麻比呂は兄の面影と照らし合わせ特別な感情を抱く存在になっていく。
未練があるサーフィンに踏み出せない麻比呂。
ひと夏限りの出会いは次第に二人の未来を動かしていく。
⌘ 表紙イラスト atsuko3939様
※イラストの無断転載などはご遠慮下さい。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
【甘夏と、夕立】帰りたくなる姫りんご
あきすと
BL
甘夏と、夕立。(既出)と言う
お話の続きです。夏と冬に書いています。(偶然です)
2人の空気感やセカイに入ると時間がゆっくりと
流れていきます。
じれったい2人ですが、どうぞよしなに。
田舎で自分のペースで暮らす幼馴染2人のお話です。
結構、紆余曲折あったので
そろそろ結ばれてほしいなぁと思いながら
書いています。
ゆるく続きます。
主人公
春久 悠里(はるひさゆうり)
田舎から都会に出て進学し、働き始めた青年。
感受性が強く、神経質。
人が苦手で怖い。さびれたアパートで
働きながら、ほぼ無趣味に暮らしている。
髪は、赤茶けており偏食を直そうと
自炊だけはマメにしている。
今は、実家暮らしになりました。
礼緒くん・獅子座
悠里・魚座

僕の宝物はみんなの所有物
まつも☆きらら
BL
生徒会の仲良し4人組は、いつも放課後生徒会室に集まっておやつを食べたりおしゃべりをしたり楽しい毎日を過ごしていた。そんなある日、生徒会をとっくに引退した匠が、「かわいい子がいた!」と言い出した。転入生らしいその子はとてもきれいな男の子で、4人組は同時に彼に一目ぼれしてしまったのだった。お互いライバルとなった4人。何とかその美少年を生徒会に入れることに成功したけれど、4人の恋は前途多難で・・・。

十月のコバンザメ
立樹
BL
川畑直仁は、友人の植木と飲んでいて、藤森章のことを思い出す。
突然、連絡しても返事が返ってこなくなった。電話も出ない。
もう出会うことはないと思っていた。
けれど、直仁はもう一度会いたくて、今度は、電話やメールではなく、会いに行くことにした。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる