隣にいて

立樹

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 外に出ると、月が高い位置にあった。
 心地の良い風が頬を撫でていく。
 風を受けると、睡眠不足による頭の重みが少し和らいだ。
 睡眠薬を飲まずに寝れたのは、たかだか二時間。目は文字列、数字を追ってたはずが、同じところを何度も繰り返し見ていた。
 自分がこれなのだからと、これから家に来ることになっている杉山のことを思った。


 あれは三時間前。
 夕方になりパラパラと帰宅するスタッフで寂しくなってきたフロアを見た時、ふと、仕事終わりに来ると言った杉山がいつ来るのかわからないことに気づいた。

 昨日と今日の移動だけで覚えているだろうか?

 いつ業務が終わるのか。部署が違うので分からない。堂岡なら連絡先を知っているだろうと、声をかけようにも電話で話をしていたり、必死な様子でパソコンと向かい合っているために、話かけづらい。
 悶々としていると、堂岡が「川浪、電話。外線三番な」と呼んだ。
 受話器越しに聞こえてきたのは杉山の声だった。

「川浪さん、すみません。今日なんですけど、遅くなってしまいそうです」
 焦った声が聞こえてきた。
「仕事だろ、仕方ない。無理するな」
「帰れってことですよね」
「その方が、楽だろ?」
 杉山の声のトーンが低い。隼大は次の言葉に耳を澄ませた。

「いえ、それで電話を取り次いでもらったわけじゃなくて、遅くなっても伺っていいのかとお聞きしたくて」
「ああ」

 幸い、明日は休みだ。それに、眠くとも寝れない。誰かと過ごす夜、それは煩わしいという想像とは反対のものだった。
 隼大は「終わったら、今から言う連絡先にかけてくれ」と言った。
 電話越しに聞こえてくる返事の声が明るい。
そして、番号を言って受話器を置いたのだった。



 駅までの道にある昨日も寄ったコンビニ。
 来ると言うからには、遅くなっても来るのだろう。
 冷蔵庫はすっからかん。人が来るのにそれではマズイと、手当たり次第にカゴに入れていった。杉山の好みは分からないので、無難なものを選ぶ。

 カゴの中を見ると、つまみと酒類。
 ハハっと内心苦笑すると、おにぎりやお弁当、惣菜を手に取った。

 買ってしまってから、近所のコンビニで買わなかったことを後悔した。
 両手に下げたビニール袋が重みで手に食い込んでくる。

と、両手が塞がっているところにスマホがポケットの中で震えた。
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