隣にいて

立樹

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 エレベーターで四階まで上がる。しんと静かな廊下を突き当りまで歩いた。
 玄関の扉を開けると、暗闇が隼大を捉えた。血の気がひき、泥に足を取られたように、動かない。杉山が後ろにいることが分かっている。進まなければ、と思うのに、動かない。不安が襲う。動かそうとすればするほどに、手足が冷たくなっていく。
 ぐっと奥歯をかみしめた時だった。

 先に進まない隼大の脇からするりと、杉山が入ってきた。

「ああ、電気これですね」

 パチンと音がすると、廊下と玄関に電気がつき、一気に明るくなった。
 眩しさで、目を細める。その目の前には、杉山の黒い髪があった。

「お邪魔していいですか?」

 そう振り向く杉山を茫然と見ていた。
 パピヨンに似た大きな瞳が、優しく隼大を見て弧を細める。
「あ、ああ」
「じゃあ、お邪魔します」
 靴を脱ぎ、廊下を進む杉山の後姿を見ながら、やっと我に返った。そして、すぐ後を追った。

 短い廊下の先は、すぐに突き当りだ。その右手がリビング。すでに電気がついている。
「ありがとう」
 隼大は、壁にかかっているハンガーを取り、杉山にそれを渡しながら言った。

「なんで、わかった? 暗闇が怖いなんて一言も言っていなかったし、聞かなかっただろう?」
 そう問うと、なぜだか、笑みの中に陰りがみえた気がした。
 杉山は、受け取ったハンガーに脱いだジャケットをかけた。

「川浪さんはもう寝ますか?」
「質問に質問で返すな。寝ないで何するんだ?」

「よければ、付き合ってほしいんです」
「付き合うね。俺と君が?」
 隼大の言い方に、ハッ気づいた杉山の頬が赤くなる。

「いや、その付き合うじゃなくて、話に付き合ってほしい方の付き合うです!」
 慌てて訂正する杉山のおでこを、軽く小突く。

「バカか、分かってるよ」

 ニッと笑うと、赤身のさした顔のまま、眉を吊り上げた。
「からかわないで下さい」
 ふくれる杉山にシャワーを進めた。

 時刻は、もう深夜を回っていた。

 杉山がお風呂に入っている間に、着替えや毛布を用意しながら思考を巡らす。結局、聞いた答えをもらっていない。どうして、あんなに察しがいいのか。もしかして、人の思考をよめるのだろうか。
 まさか――。
 自分の考えを笑い飛ばした。
 毛布をソファーに置き、着替えの服を置こうと脱衣所の扉を開けた。

「「あっ」」

 ガタっと音がし、お風呂から上がってきた杉山と声がかぶった。
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