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BULLET-69:サインをお願いするです

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 □■□

 ヌットミエが出て行ったあとプムリムポポンが、

「ルモナーシロさん、ちょっといいですか。」

 用事を終え、玄関口に戻ってきた仲居なかいがしらで妻のルモナーシロに声を掛けた。

「はい、なんでしょうね。」

 呼びかけに答え、返事しながら近付いてきたルモナーシロに、

「ヌットミエ様が来られてますよ。」

 要件を伝えると、

「あらあらあら、ヌットミエ様がお越しなのですわね。
 とってもお久しぶりですわね。」

 ルモナーシロがふっくら笑顔で答えた。

「屋外浴場の方に行かれました。
 お世話、お願いします。」

「あらあら、わかりましたわね。
 行ってきますわね。」

 そう言って、ルモナーシロはいそいそと館内から屋外浴場の方に向かっていった。

 見送ったプムリムポポンが受け付けカウンターで宿泊名簿の確認などの雑務をしていると、

 ぴぴぃ

 玄関を通って1羽の鳥が館内に入ってきた。

「おや、この鳥は。
 いらっしゃったようですね。」

 小さくつぶやき、玄関を通って館外へと出て行った。

 □■□

 鳥に案内されてたどり着いたのは、

「おお、これは!?」

 日本旅館のような場所だった。

「うんうん、おもたとおりや。」

 真丸まんまるうなづきながら目をきらきらさせて建物を見ていたら、

「ふおぉぉぉ、ここは!?」

 となりでルゥーアが建物を凝視ぎょうしし、震えた声を漏らしていた。

「どしたんや、ルゥーア?
 ここ、なんかヤバいんか?」

 問い掛けた真丸まんまるに、

「ここは”世界10秘湯”のひとつ、
 エルフのお宿やど”ぽぽんの湯”
 なのです、ほぉ!?」

 ルゥーアが興奮気味に答えた。

「世界10秘湯、ってなんなん?」

 と不用意に問い掛けたのが間違いだった。

「よくぞ聞いてくれたのです、ほぉ。
 世界10秘湯というのは、、。」

 ルゥーアが真剣な顔で解説を始め、かけたその時、

「お待ちしておりました。
 ヌットミエ様のお連れ様でございますね?」

 恰幅かっぷくの良いエルフが声を掛けてきた。

「そうやと思います。」

 答える真丸まんまるの横で満面の笑顔で口を開いたルゥーアが固まっていた。

「そちら様は?」

「ああ、ほっといたって。」

「そう、ですか。
 あらためてまして、ようこそ”ぽぽんの湯”へ。
 こちらは世界10秘湯のひとつに数えられるエルフの、、。」

 なにやら解説が始まりかけたのを、

「あああ、あなたはプムリムポポン様はではないです、ほぉ?」

 ルゥーアの歓喜に満ち満ちた声がさえぎった。

「おや、私をご存知でしたか。」

「ももも、もちろんです、ほぉ。」

 ルゥーアが慌て気味に答え、

「大ファンです、ほぉ。
 サインをお願いするです、ほぉ。」

 バッグから本とペンを出して、頭を下げて差し出した。

「ほほう、これは。」

 受け取ったプムリムポポンがにこやかにサラサラっとサインをして、返した。

「ほおぉぉ、ありがとうです、ほぉ。
 家宝にするです、ほぉ。」

 本に書かれたサインをほくほく笑顔で見つめるルゥーアに、

「ルゥーア、このおっちゃん、有名人なん?」

 問い掛けると、

「えええ、ご存知ないんです、ほぉ?」

 ルゥーアが驚きの声を上げ、

「この方は、世界秘湯協会会長のプムリムポポン様です、ほぉ。
 そしてこの本、
 ”世界秘湯ガイド~10秘湯の楽しみ方~”
 を書いた方なんです、ほぉ。」

 興奮気味に説明してくれた。

「・・・。」

 真丸まんまるは思考が停止し、

「うおわっ、意識持ってかれよった!?」

 かけて復活した。

「ようするに、ルゥーアは”秘湯好き”って事なんやな。」

「そうなんです、ほぉ。
 それで秘湯というのはです、ほぉ。」

 なんか熱っぽく語り始めるルゥーアの話を、

「そんなんええから、はよ入ろうや。」

 ばっさり切って、

「おっちゃん、案内頼むわ。」

 プムリムポポンに声を掛けた。

「おっちゃ、、!?」

 真丸まんまるにおっちゃん扱いされ、ちょっと驚いたものの、

「これは失礼を。
 こちらです。」

 気を取り直して返したプムリムポポンが進んで行くのを着いていく真丸まんまるに、

「まんまるさん、さすがにおっちゃんはダメだと思うです、ほぉ。」

 ルゥーアが注意の言葉を発したが、

「そなん。」

 特に気にせず流した。

「だから、すごいお方なんです、ほぉ。」

「はいはい、わかったて。」

 ルゥーアがプムリムポポンをたたえる言葉を聞き流しなながら、

『秘湯、めっちゃええやん。』

 真丸まんまるは心のなかでめっちゃわくわくしていたのだった。
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