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社会人になってから。
想い出にするために。
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辰巳さんと約束した朝、いつもよりはやく目が覚めた。
少し緊張していたせいもあるかもしれない。
私は入社2年目に車の免許をとっていたので車ででかけ、辰巳さんの事務所の駐車場に車を停めさせてもらい、事務所に向かった。
辰巳さんは相変わらずイケメンだった。一緒にいる先生も相変わらずとっても素敵だ。
「辰巳さん、ご無沙汰しています。」
「りおちゃん、元気そうでよかった。」
「すみません。突然連絡させてもらってしまって。」
「いや、かまわないよ。」
私はもうお店には顔をだしていない。なのであきおさんがどうしているのか全く知らない。
「あの・・・・こんなこと聞くのはおかしいと思うのですが。」
「何?」
「彼は元気にしていますか?顔をあわせるわけにもいかなくてお店にももうずっといってなくて。」
「ああ、なんとかやってるよ。」
あれから2年。もうそんなに経っているのだと改めて思う。
あんなに激しく誰かを思って求めることなんてもうないのだろう。
今はやわらかであたたかい、安心できる場所をみつけてしまったから。
あきおさんも幸せになってほしい、そう思っている。
「そうですか。ならよかった。
・・・・・私、結婚して東京に行くことになったのでご挨拶しておこうと思って。」
「「えっ?」」
ずっとだまっていた先生もびっくりして声を出した。
「去年からつきあいだした彼が本社勤務になったので退職してついていくことになったんです。」
「そっか。幸せに・・・なれそう?」
先生が口を開いた。
「先生・・・・そんな言い方しないでください。彼はとっても私のことを愛してくれています。ついていこうと思えたので、決めました。」
「・・・・・・・」
私の言葉にはウソはない。だけど言葉にしてはじめてまだくすぶり続けているあきおさんへの想いがあるのだと気づいてしまった。
だけど、もう引き返せない。私は安らぎを選んだのだから。
宏之さんを愛しているのかと聞かれたら・・・・もちろん愛してる。
あきおさんへの想いとはまた違ったものだけれど。
それは仕方のないことなのだと自分に言い聞かせる。
「もし・・・彼と話す機会があれば、よろしくお伝えいただけますか?」
「わかった。」
「りおちゃん・・・・」
「先生、また帰省したときには会いにいきますね。」
「うん。」
「では、いろいろありがとうございました。お元気で。」
先生とはきっとまた会うと思う。
だけど、辰巳さんにはもう会わないほうがいいのかもしれない。
帰省したとしても・・・
事務所を出て、車に乗り込んで家に向かって走り始めた。
住宅街にはいったところでやっぱりどうしてもお店に寄りたくなってしまった。
あきおさんがいるかもしれない。
ちらりとだけ見て帰ろう。
いや、彼がいたらきちんとお別れをしていこう。そのほうがいいのだと自分に言い聞かせた。
お店の駐車場に着くと、あきおさんの車はなかった。
かわりに社長の車がとまっていた。
じゃああきおさんはいないんだろうと思ってお店に行くとやはりそのとおりだった。
神様は私はあきおさんに会わないほうがいいと判断したのだろう。
ちょっとホッとした私がいた。
車を降りて普通にお店の入り口から買い物をするように入った。
ほとんど変わらないお店の中。
ぐるっと見渡していると社長がバックヤードから出てきた。
「あれっ?りおちゃん?」
「社長・・・・ごぶさたしています。」
「せっかくだからちょっと事務所で話さない?時間ある?」
「はい・・・」
社長のあとをついてバックヤードをとおらせてもらい事務所に上がった。
なにもかわらない光景。いろんなことを思い出してしまう。
バックヤードから外に出る扉の前にくると最後の日のことが脳裏をかすめて切なくなった。
事務所にはいると社長はどうぞと廃棄前のジュースを一つ私の前に置いた。
これをいつもあきおさんが冷蔵庫から出していたのを思い出す。
胸が苦しくなる。
「さっき、辰巳から連絡もらってん。聞いたよ。結婚するんやな、おめでとう。」
そうだったんだ・・・
「ありがとうございます。」
「東京いくねんて?」
「はい。」
「そっか。もう聞きたくないかもしれんけど、一応りおちゃんには報告しといたほうがいいかなって思ってたから今から言うことは聞き流して?」
なんとなくどんな話なのかは想像がつく。
「はい。」
「今日はあいつは法事で休みやねんけどさ、去年な、あいつの離婚が成立したで。」
「そうですか。」
「今さら言うなと言われるかもしれんけど、どうしても言わずにおれんから許してな。あきおはりおちゃんと結婚したいって思っててんで。知ってた?」
えっ???
「あいつはな、アホやからぜんぶちゃんと終わったら言おうと思ってたんやって。ほんまアホやな。先に話して待っててくれって俺やったら言うところやけどな。」
「・・・・・」
「神戸に泊まったときあったやろ?あのときに言うんかと思ってたんやけどな。りおちゃんのお父さんのことを知ってたし、りおちゃんの年齢的にまだはやいと思ってしまったんやろな。りおちゃんから別れたいって言われたときにもよう引き止めんかったのはあいつの弱さのせいなんやろな・・・ごめんな、辛い思いさせたな。」
社長があやまることじゃないのに。ホントに仲良しなんだなと思った。
「そうですか。でも、何を聞いても今更ですから。それに社長は悪くないです。私たちがちゃんと話ができてなかったからなんだと思いますし。」
あのとき、神戸のホテルで1泊した日、確かに愛されていると感じた。
それを信じていられなかった私もいけないのだ。
今ならわかる。責任のある仕事をしているあきおさんがなかなか土日に休みがとれないことも。一緒にいたいと思えば私だって平日に休暇がとれる仕事だったのにしなかったのだし。
今の私は、宏之さんに愛されてそのあたたかなぬくもりに癒されている。
あきおさんのことを思い出すたびにせつなくてさびしい気持ちは溢れてくるのだろうけれど、それはもう過去のことなのだから。
彼に愛されたきれいな想い出として心の中に残しておこう。
そう思っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして私は宏之さんと結婚し、東京に移り住んだ。
少し緊張していたせいもあるかもしれない。
私は入社2年目に車の免許をとっていたので車ででかけ、辰巳さんの事務所の駐車場に車を停めさせてもらい、事務所に向かった。
辰巳さんは相変わらずイケメンだった。一緒にいる先生も相変わらずとっても素敵だ。
「辰巳さん、ご無沙汰しています。」
「りおちゃん、元気そうでよかった。」
「すみません。突然連絡させてもらってしまって。」
「いや、かまわないよ。」
私はもうお店には顔をだしていない。なのであきおさんがどうしているのか全く知らない。
「あの・・・・こんなこと聞くのはおかしいと思うのですが。」
「何?」
「彼は元気にしていますか?顔をあわせるわけにもいかなくてお店にももうずっといってなくて。」
「ああ、なんとかやってるよ。」
あれから2年。もうそんなに経っているのだと改めて思う。
あんなに激しく誰かを思って求めることなんてもうないのだろう。
今はやわらかであたたかい、安心できる場所をみつけてしまったから。
あきおさんも幸せになってほしい、そう思っている。
「そうですか。ならよかった。
・・・・・私、結婚して東京に行くことになったのでご挨拶しておこうと思って。」
「「えっ?」」
ずっとだまっていた先生もびっくりして声を出した。
「去年からつきあいだした彼が本社勤務になったので退職してついていくことになったんです。」
「そっか。幸せに・・・なれそう?」
先生が口を開いた。
「先生・・・・そんな言い方しないでください。彼はとっても私のことを愛してくれています。ついていこうと思えたので、決めました。」
「・・・・・・・」
私の言葉にはウソはない。だけど言葉にしてはじめてまだくすぶり続けているあきおさんへの想いがあるのだと気づいてしまった。
だけど、もう引き返せない。私は安らぎを選んだのだから。
宏之さんを愛しているのかと聞かれたら・・・・もちろん愛してる。
あきおさんへの想いとはまた違ったものだけれど。
それは仕方のないことなのだと自分に言い聞かせる。
「もし・・・彼と話す機会があれば、よろしくお伝えいただけますか?」
「わかった。」
「りおちゃん・・・・」
「先生、また帰省したときには会いにいきますね。」
「うん。」
「では、いろいろありがとうございました。お元気で。」
先生とはきっとまた会うと思う。
だけど、辰巳さんにはもう会わないほうがいいのかもしれない。
帰省したとしても・・・
事務所を出て、車に乗り込んで家に向かって走り始めた。
住宅街にはいったところでやっぱりどうしてもお店に寄りたくなってしまった。
あきおさんがいるかもしれない。
ちらりとだけ見て帰ろう。
いや、彼がいたらきちんとお別れをしていこう。そのほうがいいのだと自分に言い聞かせた。
お店の駐車場に着くと、あきおさんの車はなかった。
かわりに社長の車がとまっていた。
じゃああきおさんはいないんだろうと思ってお店に行くとやはりそのとおりだった。
神様は私はあきおさんに会わないほうがいいと判断したのだろう。
ちょっとホッとした私がいた。
車を降りて普通にお店の入り口から買い物をするように入った。
ほとんど変わらないお店の中。
ぐるっと見渡していると社長がバックヤードから出てきた。
「あれっ?りおちゃん?」
「社長・・・・ごぶさたしています。」
「せっかくだからちょっと事務所で話さない?時間ある?」
「はい・・・」
社長のあとをついてバックヤードをとおらせてもらい事務所に上がった。
なにもかわらない光景。いろんなことを思い出してしまう。
バックヤードから外に出る扉の前にくると最後の日のことが脳裏をかすめて切なくなった。
事務所にはいると社長はどうぞと廃棄前のジュースを一つ私の前に置いた。
これをいつもあきおさんが冷蔵庫から出していたのを思い出す。
胸が苦しくなる。
「さっき、辰巳から連絡もらってん。聞いたよ。結婚するんやな、おめでとう。」
そうだったんだ・・・
「ありがとうございます。」
「東京いくねんて?」
「はい。」
「そっか。もう聞きたくないかもしれんけど、一応りおちゃんには報告しといたほうがいいかなって思ってたから今から言うことは聞き流して?」
なんとなくどんな話なのかは想像がつく。
「はい。」
「今日はあいつは法事で休みやねんけどさ、去年な、あいつの離婚が成立したで。」
「そうですか。」
「今さら言うなと言われるかもしれんけど、どうしても言わずにおれんから許してな。あきおはりおちゃんと結婚したいって思っててんで。知ってた?」
えっ???
「あいつはな、アホやからぜんぶちゃんと終わったら言おうと思ってたんやって。ほんまアホやな。先に話して待っててくれって俺やったら言うところやけどな。」
「・・・・・」
「神戸に泊まったときあったやろ?あのときに言うんかと思ってたんやけどな。りおちゃんのお父さんのことを知ってたし、りおちゃんの年齢的にまだはやいと思ってしまったんやろな。りおちゃんから別れたいって言われたときにもよう引き止めんかったのはあいつの弱さのせいなんやろな・・・ごめんな、辛い思いさせたな。」
社長があやまることじゃないのに。ホントに仲良しなんだなと思った。
「そうですか。でも、何を聞いても今更ですから。それに社長は悪くないです。私たちがちゃんと話ができてなかったからなんだと思いますし。」
あのとき、神戸のホテルで1泊した日、確かに愛されていると感じた。
それを信じていられなかった私もいけないのだ。
今ならわかる。責任のある仕事をしているあきおさんがなかなか土日に休みがとれないことも。一緒にいたいと思えば私だって平日に休暇がとれる仕事だったのにしなかったのだし。
今の私は、宏之さんに愛されてそのあたたかなぬくもりに癒されている。
あきおさんのことを思い出すたびにせつなくてさびしい気持ちは溢れてくるのだろうけれど、それはもう過去のことなのだから。
彼に愛されたきれいな想い出として心の中に残しておこう。
そう思っていた。
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そして私は宏之さんと結婚し、東京に移り住んだ。
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