一冬の糸

倉木 由東

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#58.okinawa 爆発

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「マルセル警部!」吉村が叫ぶ。
「撃ってはダメです!」
「ふっ。私が憎いか?マルセル。撃ちたければ撃てばいい」
 マルセルの手が更に震える。「マルセル警部!ダメです!」

 ごとんー。

 その時、何かが落ちる音がした。愛子が足元のゴミ箱を蹴ったのだ。全員の意識と視線がそこに集中した。
 その瞬間ー。
 佐倉がメグレの懐に入り、手首を掴まえた。その指にありったけの力を込め、何とか拳銃を手放すよう必死にしがみつく。
「ヴォーーーーーーーー」
 メグレが佐倉を振り払おうと暴れながら叫ぶ。そこにマルセル、仲間が加担する。マルセルがメグレの後ろから両脇を持ち上げ、仲間がメグレの足を巻き込むように抑える。男3人で必死にしがみつく。両手両足の自由を奪われたメグレだったが次は佐倉の首に噛み付いた。
「うぁああああああーーー」
 その歯にメグレは力を強く込め、その強度に比例していくように佐倉の悲鳴も大きくなる。
「ゆうちゃん!」愛子が泡盛の瓶を持ち、メグレの頭に振りかぶった。
「クッ!!」メグレの口が佐倉の首から離れた。その首は一瞬にして黒ずんでいる。
「私の弟に何するのよ!」
「比嘉、手錠を!」
 足元を抑えた仲間が比嘉に叫ぶ。
「は、はい!」
 比嘉が慌てふためきながら手錠を取り出す。だがその比嘉に対して美佐江が拳銃を突きつけた。
「あんた、まだ拳銃持っていたのかよ」
 メグレに噛まれた首を押さえながら、佐倉が美佐江を睨みつける。
「その手錠を渡しなさい」困った比嘉が判断を仰ごうと仲間を見る。
「比嘉、早く手錠をかけろ!」
「は、はい」比嘉が慌ててメグレの手に手錠をかけようと駆け寄る。
 バン!
「うぁああ!」
 美佐江が比嘉の足を撃った。その場に倒れこむ。
「貴様!何を!」
 仲間が美佐江に叫ぶ。
「大人しく渡せばいいものを」
 言いながら美佐江は比嘉が手放して床に落とした手錠を拾い上げる。そして片方を自分の手にかけ、なんともう片方をメグレの片腕にかけた。
「私の人生最後の優しさよ。全員逃げなさい」
「何をするつもり!?」
 吉村の言葉に美佐江は”覚悟“で答えた。
 バン!バン!持っていた拳銃でまず具志堅の両足を撃った。
「あぁああああああああ!」
 具志堅が悲鳴をあげ自由を奪われた。そして美佐江は拳銃を放り投げ、代わりに服の内側から1本の、手のひらサイズに収まるほどの金属棒を出した。
「何だそれは?」
「爆弾よ。こんな小さいものでも軽くこの建物は吹っ飛ぶわ」
「ちょ、ちょっと!ここ私のお店よ」
「ごめんね。でも最後の幕引きよ。桐谷茂雄と息子の浩を殺した奴らを始末する。あとは探偵さん、あなたが事件の公表を行えば復讐は完了よ」
 すると美佐江はカチッとスイッチを入れた。
「さぁ、あと1分よ!早く逃げなさい!」
「クソッ!愛子、早く出ろ!」愛子から先に店の外へ出す。次に佐倉は具志堅を、仲間は比嘉を抱え上げた。吉村も逃げようとしたがマルセルは動かない。いや、動けないといったほうが正しいのかもしれない。
「マルセル警部、早く!」吉村がマルセルの腕を引っ張る。
「早く!」吉村に促されやっとの思いで足を動かしたが、マルセルの視線は手錠をかけられたメグレから離れない。
「マルセル、すまない。後は頼んだよ」
 メグレが口にした。その目は美佐江と同様、もう死を覚悟している。失踪時のモーリスと同じ台詞を口にしたメグレは最後にもう一度大きな声で叫んだ。
「マルセル、早く逃げろ!」

 10、9、8、7、6、5、4・・・・。

 3、2、1、・・・・・・・。

 ドォーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!

 強烈な爆発音と共にリランの扉、窓の破片が大きく外に飛び散った。
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