一冬の糸

倉木 由東

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#56.okinawa 黒幕

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「フランスの首都、パリにあるパリレ・ブルーという公園で桐谷浩の遺体が異常な形で発見されたのが全ての始まりでした」
 吉村が丁寧に話し始めた。
「第1発見者はナスリという大学生。しかし彼はただの目撃者ではなかった。殺された遺体を公園に運んだという自供を始めたんです。殺したのはパリ警視庁のモーリス警視だと。カニバリストの彼は桐谷浩の顔の皮膚を食べるという異常行動を起こしましたが、基本的に殺人には手を染めていない。そして新たなことが発覚しました。彼は事件以前にモーリス警視に対してある要求を突きつけていた。先ほどの話と全く同じ。押収した麻薬の横流し。彼自身も麻薬常習者だったんです」
 一同が驚いた表情をしている。
「彼は約一年前に沖縄に来ていた形跡がある。おそらくその時に大舞寺を訪れた。麻薬の横流しもあなたからヒントを得たのではないですか?」
 吉村は美佐江を責めるような表情で見る。
「またこの携帯電話をその時から所持していた。美佐江さん、あなたが渡したんです。契約者名義もあなたの名前。確認済みです。彼はモーリス警視を脅した。その際に使用されたのはこの携帯電話です・・・」
「しかし、そこで1つ、ナスリも気づかなかったミスがある」マルセルが続ける。
「ナスリとモーリス警視は互いの顔を知らない。基本的にやり取りは携帯での通話とメールのみだ。何が言いたいかわかるか?」
「本当にナスリがやり取りしていたのはモーリス警視だったのか?」
 佐倉がつぶやく。
「そうだ。彼はモーリスという名前を騙った別の人間とやり取りをしていた。その人物は全てモーリス警視に罪を被せようとしたんだ。このナスリが使用していた携帯電話、電話帳にモーリスと登録された人間に今、かけてみよう」
 マルセルは携帯電話を操作した。全員が固唾を吞んで見守る。
 プルルルルルルルー。プルルルルルルルー。
 携帯の規則的な音が店内に鳴り響き、全員が音の鳴るほうへ視線を集中させた。その先にはメグレ警視がいた。彼のジャケットの内ポケットから着信音が響いている。

「メグレ警視、モーリス警視の名を騙りナスリとやり取りをして、更にヒロシ・キリタニとモーリス警視を殺害したのはあなたですね」
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