一冬の糸

倉木 由東

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#53.okinawa 暴動

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「何だね、これは?」
 約3キロの道のりを走って辿り着いた先に待っていたものは『人間の壁』だった。全員白いマスクを着用し、全員白い同じ柄のジャケットを見に纏っている。そして全員横一列で手を繋ぎ道路を完全に封鎖していた。
「この連中が同志というやつかね?」
 メグレがヨシムラに尋ねる。壁の向こう側では炎が何箇所から上がっているのも確認出来た。
「中に入って人々を非難させましょう」
「道路が完全に塞がれているのにか?」
「道はここだけではありません、行きましょう」
 ヨシムラの合図で大通りの角を曲がる。いく先々、白、白、白。同志とかいう連中の姿が目立つ。
「あそこ見てください」
 ヨシムラの指差した先、路地裏の小さい道。
「ここなら中の町エリアへ行けそうです」おそらく彼らの目的は警察車両や消防車両の侵入の阻止だろう。人の侵入を阻止するのはいくらなんでも限界がある。このような小さい通路はノーケアのようだ。
 小さな店、建物が立ち並ぶエリアに出る。数名の同志が火炎瓶を無造作に建物の窓に放り投げていた。
「止めなさい!」
 ヨシムラが一人の同志の手首を掴み、足をかけ投げ倒した。それに気づいた別の同志がヨシムラへ襲おうとしたが、それもメグレが体当たりで阻止する。
「熱いよー!」悲鳴が聞こえた。炎が上がっている建物から救出を求める声が上がる。
「非難誘導だ!」
 メグレが指示する。白い同志の連中は攻撃を止めない。見ると次から次へと刺客がやって来る。
 マルセルらは一斉に散らばりそれぞれ炎が上がっている建物へと飛び込んだ。

 建物の中は黒煙で充満していた。ゴホゴホと咳こむ口元を押さえ、マルセルは狭い階段を登る。いくつもの店が入っているビル。その店の1つ1つの扉から次々と人々が出てきた。
「ニゲロ!!」
 マルセルが日本語で素早く階段を降りるよう促す。しかしすでに大量の酒が入っているのか足元がおぼつかない人間もいた。
「掴むんだ」
 酔って立てない人間の腕を掴み、マルセルは必死に階段を駆け下りた。その背中からはまだ悲鳴が聞こえている。これでは埒が明かない。
 グホッ!
 外に出た瞬間、何かが脇腹を直撃した。こぶし大の石が落ちている。見ると火炎瓶だけではなく投石を行なっている者がいた。明らかに攻撃されている。外に出ても安全な場所はないのか。どうすればいい。
「マルセル警部!」
 声のしたほうを見るとヨシムラが同じように避難者を担いでいる。パリン!ガラスの破片が空から降って来て間一髪避けた。相当まずい状況だ。
 ピーピピピーー!突如、笛の音が鳴った。警官隊が多数やって来た。どうやら救いの笛のようだ。と思ったのも束の間、同志たちは火炎瓶や石を迷わず警官隊へ投げ始めた。警官隊と同志たちが対峙する。
 マルセルとヨシムラは、人々を警官隊がやって来た方向へ非難させようと誘導を始めた。
「コッチダ!ニゲロ!」
 1人1人の非難活動を急かす。
「早く!急いで!」
 ヨシムラも人々を身振り手振りで誘導する。街灯があるとはいえ夜だ。非難活動には最悪の状況である。おまけに火炎瓶や石が飛び交う中を、身を低くして進まなければならない。
「早く!」
「ハヤク!」
 マルセルとヨシムラが声を合わせる。そしてこの日、最初の銃声が鳴り響いた。見ると『同志』が1人倒れている。発砲したのは警官のほうか。
「マルセル!ヨシムラ!伏せろ!」
 ふと声がしたほうを見るとメグレが拳銃を構えている。言われるまま条件反射的に地面に伏せた。パン!パン!パン!メグレが発砲する。後方をゆっくりと確認すると武器を持った同志たちが攻撃態勢に入っている。彼らはメグレに向かって火炎瓶や投石を始めた。メグレは近くに停まっていた車の陰に隠れる。
「ヨシムラ!行くぞ!」
 マルセルはヨシムラと共にメグレの元へ駆け出した。同志たちの数は減るばかりか膨れ上がっている。200名は超えているだろう。一方で警官隊の数は応戦するには少なすぎる。
「きゃっ!」
 突如、背後からヨシムラが襲われた。同志がヨシムラの体から自由を奪い、首を締め上げようとしている。
「やめろ!」
 マルセルは男に飛びつき、ヨシムラから引き離すと喉元に拳を入れ気絶させた。メグレが倒れた男のポケットを漁ると中から手榴弾が出てきた。
「彼らは戦争でも引き起こすつもりかね」
 とにかくここにいるままでは危険だ。
「ネネー!」
 アイコの声がした。そうか。今はアイコの店の近くに来ていたのか。見ると店の前でこっちへ来いと手招きしている。
「行こう!」
 マルセルたちは火炎瓶と石が飛び交う中、アイコの店「リラン」へ滑り込むようにして逃げ込んだ。

 店の中にはアイコとリランの従業員、そして同じように逃げ込んだのか、男が4人いた。1人はオオタ。そしてもう1人の顔にも見覚えがあった。
「具志堅知事・・・」
 ヨシムラが口にする。グシケンという名称でわかった。そうだ。彼は沖縄県知事のグシケンではないか。
「どうしてここに?」
 ヨシムラが疑問を口にする。するとグシケンの両脇にいる男のうちの1人が話し始めた。
「沖縄県警の仲間です。こちらは同じく県警の比嘉刑事。インターポールの吉村さんですね?」
「地元の刑事、ナカマとヒガと言っています」
 ヨシムラがわかるように通訳する。サクラがナスリの携帯電話の調査を依頼した刑事らしい。
「知事の街頭演説中に爆発が起きました。発生現場は近くのスーパーです。そして知事が乗っていた選挙カーに白いジャケットを着用した男がナイフを持って乗り込んで来た。男は確保。なんとか知事は無傷のまま保護した。しかしSPにそのまま知事の身柄を引き渡すのも癪でな」
「40年前の事件のことですね」
「そうだ。ママの弟に頼まれた。SPの目を盗んでここまで連れて来た」
「知事を攫うなんて、あぶない橋を渡りますね」
 ヨシムラとナカマが笑い合う。どうやら互いの目的は一致したようだ。
「貴様、現場のひよっこが後で後悔することになっても知らんぞ」
 グシケンが何やら発している。
「後悔することになるのはあなたです」
 ナカマは知事に対してその厳しい表情を崩さない。かなり骨のある刑事のようだ。
 カラン、カラン。
 その時、店の扉が開かれた。やって来た訪問者に全員、声を失った。そこにはミサエが立っていた。瞬時にメグレとマルセルが拳銃を構える。張り詰めた空気が流れ、沈黙が訪れる。
 グシケンを殺しに来たー。ナカマとヒガが反射的にグシケンの前に立つ。
 しかしー。
「ようやく役者が揃ったようだな」
 聞き慣れた声がした。ミサエに続いて入って来た人物。
 何とその声の主はサクラだった。
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