一冬の糸

倉木 由東

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#47.paris 切札

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「やはりコカインが保管庫から大量に無くなっていた。確認出来たよ」
「やっぱりそうでしたか」
 時折「ネネー!」と叫ぶアイコに、手を振りながらヨシムラが答える。
 パリ12区にあるアール・フォラン美術館。サクラの姉であるアイコの希望でマルセルたちは2人をパリの観光名所の1つであるこの場所に連れてきた。
 目の前では館内のありとあらゆるオブジェの前でアイコがはしゃいでいる。その様子を弟のサクラが嫌々ながらスマートフォンで撮影していた。嫌な顔、感情というのは国境を超えても伝わってくる。
 サクラとアイコがパリに来て3日目。彼らの短いパリでの時間は終わりに近づいていた。
「マルセル警部、偶然のことで、さらには短い時間でしたが、彼らにパリに来てもらい本当に良かったと私は思っています」
「あぁ、我々の考えにも、より確信が持てたな」
「はい。しかし全てではありません。彼らにはオキナワで動いてもらうことがあります。もちろん私たちにも」
「あぁ。その件だがパスポートの取得が無事に終わった。来月行こう」
「メグレ警視からの条件についても・・・」
「今となってはかなり都合がいい。全ては決着される。オキナワで」
 マルセルはポケットから写真と携帯電話を取り出した。アラベルから預かったものだ。
 携帯電話はヨシムラが一目見た瞬間に日本のキャリアのものだとわかった。ある人物が契約し、それをナスリが所持していた。日本の警視庁を通せばすぐに契約者の名前も割り出せたがヨシムラがそれを拒否した。彼女は休暇中であり捜査権もない。握りつぶされるのも想定してものものだった。
 話し合った結果、この携帯はサクラに預けることにした。彼が信頼できる刑事に調べさせるという。
 パリとオキナワ、そして過去の未解決事件の解明に着実に近づいている。マルセルとヨシムラは強く手応えを感じていた。この目の前で姉に振り回されているサクラが我々の切り札だ。
「そろそろ時間よー!」
 時計を見てヨシムラが2人に日本語で何か言っている。残念そうな表情の姉と、解放感に包まれた弟の表情を見ると、もう空港に行かなければいけないことを伝えたらしい。

「あ、スマホの電池が切れた!」
 空港へ向かう車の中でアイコが携帯を手にしながら何やら叫んでいる。
「当たり前だ。あれだけ朝から観光名所ググって写真も撮りまくれば充電なんてすぐに無くなるだろう」
「じゃあ、あなたのスマホ貸して。お土産何がいいか調べるから」
「ふざけるな!他人の携帯なんだと思ってるんだ!?」
「私の携帯よ。だってその通話料だって私のお金から出ているじゃない」
「何言っている?これはちゃんと自分で払っているぞ」
「だーかーらー!元々そのお金は私の財布から出ているお金でしょ!早く貸しなさいよ!」
 アイコがサクラの携帯を一方的に取り上げ、その様子をヨシムラが笑いながら見ている。
 大した内容の痴話喧嘩ではないらしい。それよりも携帯だ。忘れないうちにとマルセルはポケットから携帯を取り出した。
「サクラ。ナスリの携帯だ。ジャポンに帰ったらよろしく頼む」
「あぁ。わかった」
 サクラが後部座席から携帯を受け取る。
「良かったじゃない!あなたはその携帯使いなさい」
「ふざけるな。俺の携帯返せ」
 何やら2人は日本語でまだ揉めている。
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