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#25.paris 思惑
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「マルセル警部」
朝、出勤するなりヨシムラから会議室へ来るよう促された。目の下のクマを見る限りほとんど寝ていないようだ。
「キリタニのメールについてです」
他の署員に聞かれないようにしているのはメグレからの指示だった。モーリス自身の告白ですぐにモーリスを指名手配をするかと思ったが、メグレの判断で今は3人の間で伏せることになった。
「何かわかったか?」
「ええ。まず昨日もお話しした通り、キリタニが主にメールのやり取りをしていたのはカワムラという人物です。カワムラはオキナワにある建築会社の社長ですね」
「オキナワ」
ここでもオキナワという地名が出てきた。取調中に自殺したナスリが出向いた場所。そして時代は違えど殺されたキリタニ、モーリス警視が学生時代に過ごした場所。
「どういった内容だった?」
「はい。メールの中身からポイントだけを説明すると、キリタニは自分の娘をこのカワムラに養女として出しています。その娘の近況をカワムラが報告しているといった内容です」
「なるほど。養女か」
「ただそれだけではありません。もっと面白いことがいくつかあります」
「面白いこと?」
「はい。まずカワムラがキリタニに娘の報告をしていると同様に、またキリタニもカワムラにある人物の動向を都度報告しています」
「誰だ?」
「モーリス警視です。ちなみに数は多くないですが、キリタニとモーリス警視も少しばかりメールのやり取りをしています。内容を見る限り直接接触もしているようですね。待ち合わせの約束についてのやり取りも見られましたから」
「他にわかったことは?」
ヨシムラが下唇を少し舐める。その鋭い目つきはこれまでと人が変わったようだ。
「まずキリタニは何かをマスコミに発表すると言ってモーリス警視と接触しています。それが何かはメールの中身からはわかりません。それをモーリスは考え直せと幾度も引き止めているようですね」
「脅迫か?」
「いえ、ニュアンス的に脅迫の類いではないですね。何かをモーリス警視に要求しているという文章も見当たりませんでした」
「いずれにせよモーリス警視にとって都合の悪い内容ということか」
「そうです。そしてもう1つ、マエシロという人物とキリタニはメールのやり取りをしています」
「何者だ?」
「オキナワにある大学の学長ですよ」
「大学?ということは?」
「はい。モーリス警視が留学し、キリタニの出身校であるギノワン・インターナショナル・カレッジです。ちなみにカワムラとのメールを見る限り、キリタニの娘もそこの大学に現在通っています」
「メールの内容は?」
「モーリス警視と同じく何かしらを発表するといった内容ですね」
「ではキリタニはその何かを世間に発表しようとしてモーリス警視に殺された、ということになるかな」
「その線が濃厚ですね」
「何だと思う?」
「1つしか考えられません。日本で起きた現金強奪事件です」
「なに?場所が違うだろう」
「このマエシロのプロフィールをネット上で見る限り、モーリス警視と同い年です。そして互いが22歳、大学卒業の年にこの現金強奪事件が起きている。ご指摘の通りオキナワと事件が起きたトウキョウはかなり離れています。しかしナスリの自宅から見つかった記事も含めて私にはこれが偶然だとは思いません」
「モーリス警視とこのマエシロが現金強奪事件に絡んでいるということか」
「どう絡んでいるかはわかりません。事件の容疑者なのか関係者なのか。ただその真実を発表しようとしたキリタニがモーリス警視に殺された。状況から見て間違いないでしょう」
「ネットからマエシロ氏の素顔を確認出来るか?」
「ええ、大学のホームページから」
そう言うとヨシムラはスマートフォンを取り出しネット検索を始めた。便利な世の中である。今やどこにいても世界中のありとあらゆる情報が簡単に手に入るのだから。
「この男がマエシロです」
ヨシムラがマルセルに画面を向ける。そこに映った白髪の男は国籍が違っても信念の強そうな人間だとわかる。そう見えるのは長年刑事をやって来た職業病のようなものかもしれない。そして男の顔には見覚えがあった。
メグレ警視に見せられた、モーリスの家から見つかったという手紙と同封されていた写真。そこに写っていた人物に似ている気がする。
「メグレ警視に報告しよう」
「あ、ちょっと待ってください」
「どうした?」
「メグレ警視への報告はまだ待ってもらえますか?」
「何故だ?報告しないわけにはいかないだろう」
「では、せめて今日の夕方、私から報告させてください。もちろんマルセル警部も同席のもとで」
自分の口から報告?点数稼ぎか?ヨシムラ自身が調べたので気持ちはわからないでもないが、自分自身の成果をアピールするような人間には見えなかったぶん、マルセルは少し幻滅した。それとも彼女なりに思惑があるのか。
「わかった。では夕方5時にメグレ警視に報告しよう。この部屋でいいな?」
「メルシィ」
また更に美しくなったと感じたフランス語を背にマルセルは会議室の部屋を出た。
朝、出勤するなりヨシムラから会議室へ来るよう促された。目の下のクマを見る限りほとんど寝ていないようだ。
「キリタニのメールについてです」
他の署員に聞かれないようにしているのはメグレからの指示だった。モーリス自身の告白ですぐにモーリスを指名手配をするかと思ったが、メグレの判断で今は3人の間で伏せることになった。
「何かわかったか?」
「ええ。まず昨日もお話しした通り、キリタニが主にメールのやり取りをしていたのはカワムラという人物です。カワムラはオキナワにある建築会社の社長ですね」
「オキナワ」
ここでもオキナワという地名が出てきた。取調中に自殺したナスリが出向いた場所。そして時代は違えど殺されたキリタニ、モーリス警視が学生時代に過ごした場所。
「どういった内容だった?」
「はい。メールの中身からポイントだけを説明すると、キリタニは自分の娘をこのカワムラに養女として出しています。その娘の近況をカワムラが報告しているといった内容です」
「なるほど。養女か」
「ただそれだけではありません。もっと面白いことがいくつかあります」
「面白いこと?」
「はい。まずカワムラがキリタニに娘の報告をしていると同様に、またキリタニもカワムラにある人物の動向を都度報告しています」
「誰だ?」
「モーリス警視です。ちなみに数は多くないですが、キリタニとモーリス警視も少しばかりメールのやり取りをしています。内容を見る限り直接接触もしているようですね。待ち合わせの約束についてのやり取りも見られましたから」
「他にわかったことは?」
ヨシムラが下唇を少し舐める。その鋭い目つきはこれまでと人が変わったようだ。
「まずキリタニは何かをマスコミに発表すると言ってモーリス警視と接触しています。それが何かはメールの中身からはわかりません。それをモーリスは考え直せと幾度も引き止めているようですね」
「脅迫か?」
「いえ、ニュアンス的に脅迫の類いではないですね。何かをモーリス警視に要求しているという文章も見当たりませんでした」
「いずれにせよモーリス警視にとって都合の悪い内容ということか」
「そうです。そしてもう1つ、マエシロという人物とキリタニはメールのやり取りをしています」
「何者だ?」
「オキナワにある大学の学長ですよ」
「大学?ということは?」
「はい。モーリス警視が留学し、キリタニの出身校であるギノワン・インターナショナル・カレッジです。ちなみにカワムラとのメールを見る限り、キリタニの娘もそこの大学に現在通っています」
「メールの内容は?」
「モーリス警視と同じく何かしらを発表するといった内容ですね」
「ではキリタニはその何かを世間に発表しようとしてモーリス警視に殺された、ということになるかな」
「その線が濃厚ですね」
「何だと思う?」
「1つしか考えられません。日本で起きた現金強奪事件です」
「なに?場所が違うだろう」
「このマエシロのプロフィールをネット上で見る限り、モーリス警視と同い年です。そして互いが22歳、大学卒業の年にこの現金強奪事件が起きている。ご指摘の通りオキナワと事件が起きたトウキョウはかなり離れています。しかしナスリの自宅から見つかった記事も含めて私にはこれが偶然だとは思いません」
「モーリス警視とこのマエシロが現金強奪事件に絡んでいるということか」
「どう絡んでいるかはわかりません。事件の容疑者なのか関係者なのか。ただその真実を発表しようとしたキリタニがモーリス警視に殺された。状況から見て間違いないでしょう」
「ネットからマエシロ氏の素顔を確認出来るか?」
「ええ、大学のホームページから」
そう言うとヨシムラはスマートフォンを取り出しネット検索を始めた。便利な世の中である。今やどこにいても世界中のありとあらゆる情報が簡単に手に入るのだから。
「この男がマエシロです」
ヨシムラがマルセルに画面を向ける。そこに映った白髪の男は国籍が違っても信念の強そうな人間だとわかる。そう見えるのは長年刑事をやって来た職業病のようなものかもしれない。そして男の顔には見覚えがあった。
メグレ警視に見せられた、モーリスの家から見つかったという手紙と同封されていた写真。そこに写っていた人物に似ている気がする。
「メグレ警視に報告しよう」
「あ、ちょっと待ってください」
「どうした?」
「メグレ警視への報告はまだ待ってもらえますか?」
「何故だ?報告しないわけにはいかないだろう」
「では、せめて今日の夕方、私から報告させてください。もちろんマルセル警部も同席のもとで」
自分の口から報告?点数稼ぎか?ヨシムラ自身が調べたので気持ちはわからないでもないが、自分自身の成果をアピールするような人間には見えなかったぶん、マルセルは少し幻滅した。それとも彼女なりに思惑があるのか。
「わかった。では夕方5時にメグレ警視に報告しよう。この部屋でいいな?」
「メルシィ」
また更に美しくなったと感じたフランス語を背にマルセルは会議室の部屋を出た。
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