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1年生編

咲ちゃんの黒歴史

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-side 市村咲-

 中学1年生の冬休み中、私はインターネットで亮に近づく方法を必死に調べた。そして今の性格を築き上げる記事に出会うことになる。



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ツンデレになって気になる相手を振り向かせちゃえ☆

・その1   
気になる相手に少し冷たい態度をとってみよう!
あなたの変化に戸惑って相手はあなたのことが気になるはず!

・その2
冷たくするだけではダメ!
遠回しに相手を褒めたり感謝の気持ちを伝えたりしよう! 
冷たかったあなたに急に褒められて相手は余計あなたのことを考えてしまうはず!

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 記事の内容はこんな感じだった。

 私はとりあえず記事で書かれていた〈その1〉を試してみることにした。でもどれくらい冷たくすればいいんだろう...

「まあ中学卒業するまでずっと冷たくし続ければ効果が出るかしら」

 当時の私は本気でそれが正しいと思っていたわ。今思えば天地がひっくり返るレベルの勘違いなんだけど。 

 ここから私の迷走劇が始まる。

 中学1年生の3学期から卒業式までの約2年間、私は亮とともに登校するために登校時間を遅くした。

 登校時間を遅くした理由はいつも亮が遅刻するかしないかギリギリの時間に起きていたから。亮があまりにも起きるのが遅かったから私たちは今まで一緒に登校したことがなかったのよ。

 それからは毎朝亮を迎えに行って、家から学校までの一本道を一緒に歩いて登校したわ。

 そして私は登校中に亮へ冷たく接することを心がけたの。

「寝起きの顔はだらしないわね」

「さっさと歩きなさいよ」

「遅刻したらアンタのせいだから」
  
 みたいな感じで冷たい言葉を登校中に言い続けたわけ。今考えると私ただのヒステリー女じゃない...

 そんな私の言葉に対する亮の反応は意外なものだったわ。

「お、今日もご褒美タイムあざす」

 と言ってなぜか喜ぶの。でも当時の私は冷たく接する効果が出たのではないかと思って喜んでいたわ。

...それが勘違いとも知らずに。

 こうして私たちはこのやりとりを2年間続けることになったの。


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 私が自分の盛大な勘違いに気付かされたのは中学校の卒業式の日のことだ。

 その日は、私、亮、亮の妹の友恵ちゃんの3人で帰ることになった。その時の私は友達と下校することが多くて亮と帰るのが久し振りだったの。だから嬉しくてとても舞い上がっていたわ。 

 --その舞い上がったテンションのせいで私はとんでもないことをしてしまったの。


 私はテンションが上がりまくっていることを隠すためにいつもより冷たい言葉を家に着くまでの間ずっと亮に浴びせ続けたのよ。それも友恵ちゃんがそばに居るのに。その時の友恵ちゃんの驚いた顔が今でも忘れられないわ。


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 家に帰った後に冷静になった私は下校中に驚かせてしまったことを謝るために友恵ちゃんにSNSでメッセージを送った。

『今日は驚かせてごめんね』

『いやいや、確かに驚いたけど全然気にしてないよ!』

 返事はすぐに来た。亮と同様に友恵ちゃんとも長い付き合いだからこの子が優しい子であることは知っていたわ。でも文面を見て改めて優しくていい子だなと思ったわね。

 そんな感傷に浸っていると友恵ちゃんから追加でメッセージが来た。

『咲さんは兄貴のことが好きなんだと思ってたからあんな風に悪口言うなんて思わなかったよ』

「ふぇ!?」

 亮を好きなのがバレてたことに驚いて思わず変な声を出してしまった。


『友恵ちゃんはいつからそんな風に思ってたの?』

『小学校の時からだね。あ、もしかして私の勘違いだった?』

 大正解だった。ついでにいつ好きになったのかまでバレていた。

『いや、友恵ちゃんの言う通りです...どうして分かったの?』

『いや、誰が見ても分かるくらいバレバレだったよ?』

 私の好意はバレバレだったらしい。

 ...え、じゃあもしかして亮にもバレてたりする?もしバレてたら生きていけないんだけど?


『あ、兄貴には多分バレてないから心配しなくていいよ』

 考えを完璧に読まれてた。え? この子もしかしてエスパー?

 そんな風に話の急展開さに慌てていると友恵ちゃんから核心を突く質問をされた。

『なんで兄貴にあんなに冷たくしてたの?』

 この質問に答えるということ。それはつまり2年間誰にも相談せずに私がしてきた行いについて初めて他人に話すという意味を持つ。

 けれどこの時点で色々バレてたので私はもう友恵ちゃんに対して隠し事をする気なんて無くなっていたわ。

 だから私が二年間亮にしてきた事とその理由をメッセージで事細かに伝えることにしたの。

 かなりの長文になってしまったけれど、友恵ちゃんはしっかり私のメッセージを読んだ上で返信してくれた。

『咲さん何してんの...』

 呆れられた。一つ年下の子に呆れられた。

『咲さんよく考えて? 毎朝自分に粘着して悪口言ってくる人に対して好意を抱くことってあると思う?』

 まあ思いませんよね、普通。

 ていうかさ...

 なんで私そんな簡単なことにもっと早く気づかなかったよぉぉぉぉぉ!

 でもここで一つ気になる点があった。それは亮が私に悪口を言われて喜んでいたということについて。

『でも亮は悪口言われて喜んでたよ?』

『ああ...それは...』

 今思えば友恵ちゃんの歯切れが悪くなった時点で話を切り上げるべきだった。これから私は今までしてきたことの無駄さ加減を知ることになる。

『兄貴って多分Mなんだよね。私が普段兄貴に文句言ってる時もたまにニヤニヤしてるし。家の外では兄貴を罵倒する人なんて滅多にいないから目立たないけど』

 想い人の隠れた性癖を知った瞬間であった。

『だから冷たくされたって別に咲さんのこと気にしたりしないの。ただ兄貴自身が喜ぶだけ』
 
『え、じゃあ今まで私がしてきた事って...』

『申し訳ないけど全然効果ないだろうね』

 こうして私は友恵ちゃんに一刀両断されて自分の間違いに気づいたの。

 ちなみに私はこの時のショックが強すぎて春休みの間の記憶がほとんどない。




 こうして私達の中学生活は終わり、あっという間に春休みが明けて高校生活が始まった。

 ちなみに今私と亮が通っているのは天明高校だ。

 私達が天明高校を志望した理由は単純だった。そう、この高校とても家から近いのよ。私達の家から見て西方向1km先にあるの。

 それに天明高校は偏差値が県内トップレベルの進学校で駅伝部の強さも全国的に有名なの。だから通いたくならない理由も特に無かったわ。

 私は元々勉強が得意だったから一般入試で合格できたわ。

 一方で亮は勉強は得意じゃなかったけど、中学3年生の時に校内から選抜されて出場した駅伝大会の活躍を認められて特待生として入学したわ。

 部活に入らず勉強もしていなかったくせに最後に陸上部にちょっと混ざって大会で区間新記録を叩き出して推薦枠を勝ち取ったってわけ。

 この時は必死に勉強して入学した私がなんだか馬鹿らしく思えたわね。

 高校に入学してからは私は亮に対する態度を変えるつもりだったわ。クラスも一緒になれたし亮との距離を縮めるために素直になるつもりだったの。

 ...そのつもりだったけれど私は今までずっと冷たくしていたのに今更どんな顔をして亮に近付けばいいのか分からなくなっていたの。

 そして亮が駅伝部に入ったことで以前よりも近づけるタイミングが少なくなってしまったわ。

 こうして私達の距離はまた離れていった。

 結局高校に入って出来たことといえば高校入学と同時に携帯を買った亮と連絡先を交換したことくらいだったわ。

 そういえばなぜ亮は中学生の時携帯持ってなかったんだろう。友恵ちゃんは持ってたのに。
  
 私が何もできないまま過ごしていると気づけば5月になっていた。

 5月になると亮の周りの人間関係にとある変化が起きた。

 今まで男友達と過ごすことが多かった亮がとあるクラスメイトの女子とよく話すようになったの。

 彼女の名前は仁科唯。亮と同じ駅伝部の女子生徒。背が高く、モデルのようなスタイルで黒髪ロングヘアーが良く似合う美人な女の子。

 あとはその...胸がとても大きい。まあ別に羨ましくなんてないんだけどね。

 大事なことだから繰り返すわよ。別に羨ましくなんてないから。自分の小さい胸と比べて絶望なんてしてないし。私まだ成長期だし。伸び代あるし...

 仁科さんはその容姿と明るい性格から男女共に人気を集める人物だった。

 そういうわけで私は以前よりさらに焦ったわ。仁科さんに亮をとられるんじゃないかって不安が一気に押し寄せてきたの。

 そして何か行動を起こさないといけないと思った。

 けれど態度をいつまでも変えられない私は間違いと分かっていても自分が知っているやり方でしか亮に近付けない。



 だから私は亮が仁科さんと仲が良さそうに話すのを見るたびにSNSで彼にメッセージを送るようになったの。

 --中学生の時に浴びせていたような冷たい言葉を...
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