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第1章「俺と"あの子"と4人の魔女」

新たな不安

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「え、大河くん? 私の部屋の前で何してるの......?」

 さて。こうして半開きのドアからピョコリと顔を出している千春さんと不意に向かい合うことになったわけだが、いやはや、どうしたものか。

 さっき部屋の中から聞こえてきた、あの不気味な笑い声。果たして俺はアレについて触れていいものなのだろうか。それとも触れたら即爆発の地雷案件なのだろうか。

 うーん、まあ、触らぬ神に祟りなしって言うしなぁ......やっぱ、ここは何も聞こえなかったフリをするのが最善かぁ。

 つーか、よくよく考えたら千春さんのダークサイドに俺から踏み込むのとか普通に怖いんすわ。俺っち、割とヘタレだからね。そんなんだから彼女できないんだろうね。ああ、悲しきかな、悲しきかな。

 と、コンマ1秒の間に頭をフル回転させ、『何も聞こえていないフリ』をすることに決めた俺は、努めて平静を装いながら千春さんに声をかけることにする。

「いやー、ほら、アレだよ。今日は沙耶が居ないから昼飯どうしようかなーって思ってさ。それで千春さんと相談しようかなー、的なノリでここまで来た......みたいな?」

「え? だったら、どうしてノックしなかったの?」

「うっ! そ、それは......」

 千春さんの指摘はごもっともである。彼女に用事があるのなら、即座にドアをノックして彼女に声をかければいいだけの話だ。

 しかし、あろうことか俺は何もせずにドアの前に居座っているところを偶然千春さんに見つかってしまったのだ。そんなのシンプルに怪し過ぎるし、そこを問い詰められるのは至って自然である。

 そして残念ながら、俺はその問いかけに対する言い訳など用意していない。アハハ、マジやばい。

 しかし正直に『不気味な笑い声が聞こえてきてビビったからノックしなかった』なんて言えるわけがないというのも、また事実。なんか怖いし。

 仕方ない。ここは苦し紛れになってでも、言い訳を捻り出すしかないか。

「えー、それは......ほら、アレだよ。ちょっと言いにくいんだけどさ。俺、女の子の部屋の前に来るのとか初めてで。そんでちょっと緊張して、キョドってドアをノックできなかったんだよ」

 どうだ? さすがにこの言い訳はちょっと厳しいか......?

 と、一瞬心配してみたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


「あー、そういうことだったの? へぇ、大河くんって結構ウブなとこあるんだ......ふふ、なんかちょっとかわいいかも」

「あ、あはは......」

 千春さんは軽く口元に手を当て、クスリと微笑みながらこちらを眺めている。表情を見るに、俺の疑いは晴れたと判断して良さそうだ。

 つーか......こうして笑ってるところを見ると千春さんって、やっぱ普通に美人だと思うんだよな。他の4人と違って少し地味めだからあんま目立ってないけど。

 んで、その飾り気が無い感じが、逆になんかこう、大人の余裕があって魅力を感じる、みたいな......うん、なんかちょっと母性を感じるんだよな。バブバブ。(キモい)

 って、一体何を考えてるんだ俺は。女の子の魅力を分析してどうすんだよ。女の子のかわいさが分かっても結局、自分の首絞めるだけだろ。どうせ俺はみんなのことを疑わなきゃいけねぇんだから。

「......はぁ」

「ん? どうしたの、大河くん? 急にため息なんかついちゃって」

「いや、別に大したことじゃないよ。ちょっと切なくなっただけだから。で、千春さん? 結局昼飯はどうする?」

「あー、お昼ごはんの心配はいらないよ。全部私に任せてくれて大丈夫」

「......と、いいますと?」

「今日のお昼ごはんは私が作るから大丈夫ってこと。まあ、料理とかほとんど作ったことないけど、なんとかなるでしょ。レシピ本もあるし」

「............なるほど?」

 料理経験が無いと言いながら、謎に自信満々な表情を浮かべている千春さん。はたしてその自信には根拠はあるのだろうか。それとも、ただの自信過剰なのだろうか。





 え、なんだろう。なんかめっちゃ不安になってきたんだけど。
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