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第1章「俺と"あの子"と4人の魔女」

ビタースイート

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 結果から言うと、俺と舞華の勉強会はとんでもなくグダグダなものとなった。

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「岩崎っち! 今度は③の解き方を調べて!!」

「あいよ! Hey, Siri!! 『I=sinθdrdθ』の二重積分について検索だ!!」

「はい、次は④番!!」

「おっけー! Hey, Siri!! (以下略」


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 と、いった具合に『舞華が指示を出し、俺が"Siri大先生"から授かった知識を伝える』という、なんとも異様な光景が終始続いていたのだ。もう、完全に東大生の無駄遣いである。ぶっちゃけ、あの場に俺が居る必要性は全くもって無かった。

 そして1時間ほど前に勉強会は終了。まだ日も落ちておらず、晩飯まではまだまだ時間があるので、俺は部屋の中で1人、先程の勉強会について反省をしているところである。

 まあ......よくよく考えれば、俺に反省する点など一切無いような気もするのだが。

 いや、まあ確かに? 俺は舞華に勉強を教えることができなかったし、『Hey,Siri!』って言ってただけだよ? でもそれって仕方がないことじゃん? 大学の勉強って、学部によってマジでやること全然違うんだぜ? そもそも経済学部の俺が工学部の舞華に勉強を教えるっていうのが無理な話だったんだよ。

 うむ、やはり俺は悪くないな。つーか夏休みなのに勉強会っていうのがやっぱおかしかったんだよ。いやー、まさか舞華があんなに真面目に勉強をするなんて思ってなかったわ。俺への誘惑とか一切無かったし、腹の探り合いとかも皆無だったもんな。ちょっとそれは予想外だったわ。

 ..........って、あれ? ちょっと待て。

 なんか今の俺って超ダサくね?

 誘惑されるー、とか思いつつも内心は年下の可愛い女の子と密室で2人きりになって、テンションが上がっちゃったりして。予想以上に舞華との距離が近くて吐息が当たったり、胸チラが見えたりしただけで興奮しちゃったりして。

 でも蓋を開けてみれば、舞華は真面目に勉強をしたかっただけかもしれなくて。俺は舞華から東大生として頼られたのに、ただただスマホで解き方を検索することしか出来なくて。結局、俺は舞華の期待に全く応えられなかった。

『ま、まあ勉強してる内容が違うならしょうがないよね! 大丈夫! 岩崎っちは悪くないから!!』

 勉強会の時、舞華はそう言って俺を責めるような真似は一切しなかった。でも......本当は誰かに勉強を教えてもらいたくてたまらなかったのかもしれないんじゃないか?

 なのに俺は最初から舞華を疑ってばかりで、真面目に勉強会をする気なんてサラサラ無かった。魔女のことばっか考えてて......俺は舞華の気持ちなんて全然考えていなかったんだ。

 --峯岸舞華は魔女候補。その事実に変わりはない。だが、それと同時に彼女は俺の同居人でもあるのだ。

 だったら純粋に『身近に居る東大生』として俺を頼ってくれた可能性もあるじゃないか。誘惑とか、騙すとか。そんなのとは関係無しで純粋に、ただ"岩崎大河から勉強を教えてもらいたかっただけ"だったかもしれないじゃないか。



「......チクショウ。やっぱりこの家は最悪だな」

 クソ。『魔女ハウス』って言うくらいなら、もっと分かりやすい悪女を用意しろってんだよ。なんで俺がこんなに悩まなきゃいけねぇんだよ。

 俺を騙すならさっさと騙してくれよ。騙す気が無いんだったら直接俺に言ってくれよ。中途半端なんだよ。どっちかにしてくれよ。なんで誰も本性を表してくれないんだよ。今の段階じゃ誰も悪女になんて見えないんだよ。

 このまま一緒に暮らしてたら......そのうち全員に情が移ってしまいそうだから嫌なんだよ。

「......はは、俺って案外甘いところもあるんだな」

 ドライになりきれない己のことを嘲笑いつつ、俺は1人でそんなことを呟いてみる。

「さて。じゃあ、とりあえず行動開始といきますか」

 そして不意に『ある考え』を思いついた俺は、電子書籍サイトでひらすら『ニジュウセキブン』の教材について調べ始めたのであった。
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