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第1章「俺と"あの子"と4人の魔女」

みんなの先生

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 魔女ハウスに放り込まれて以来、初の週末。いよいよ峯岸舞華との勉強会の日である。

 まあ勉強会という体(てい)ではあるが、おそらく今日は俺と舞華が互いの腹を探り合うこととなるだろう。夏休みド真ん中のこの時期に勉強会をすること自体がおかしいからな。きっと舞華は俺と2人きりになる状況を作りたかっただけに違いない。多分『勉強会』なんてのは建前でしか無いだろう。

「おっす、岩崎っちー! 約束通り来たよー!! 部屋開けてー!!」

 そして時刻は午前9時。今日の勉強会(だましあい)について軽く思案していると、部屋のドアから、ノック音と共に舞華の元気な声が聞こえてきた。

「おっけー! すぐ開けるからちょっと待っててくれ!!」

 そしてベッドに腰掛けていた俺は、努めて明るく声を掛けながら、舞華を招くべく扉へと向かう。




 --さぁ、『岩崎大河vs魔女候補』round2の開始と行こうじゃないか。


----------------------

 舞華を部屋に招いた直後。今日は一応勉強会ということになっているので、俺は部屋の中央に折りたたみ式のテーブルを広げ、彼女とテーブル越しに向かい合う形となった。

「にゃはは、ごめんね岩崎っち。夏休みなのに勉強なんて。でも、どーしても東大生から勉強を教えてもらいたくってさ! とりあえず今日はよろしくね! 岩崎っちセンセ!!」

「お、おう。よ、よろしく......」

 そして、なぜかやたらと薄着な舞華は、俺に一言告げると、机上に勉強道具を広げ始めた。

 ......てか、ちょっと待って。今日の舞華の服装が色々際どいんだけど。胸元ユルユルなんだけど。勉強道具を机に置いていく度(たび)に、ちょいちょい胸元(ユートピア)が目に入っちゃうんですけど。

 いや、え? 果実の大きさが控えめな舞華がその状態って結構マズくない? このままだとポロっちゃわない? 大丈夫? ていうか昨日の縞パンの件の時も思ったけど、舞華って無防備過ぎない?

 いや、待てよ。もしかして舞華のヤツ......

 --ワザと無防備な演技をしてるんじゃないのか......?

 ここは策略ひしめく魔女ハウス。ならば俺は何事も疑ってかからねばならない。今こうして舞華が控えめな『母性の塊』を俺にチラリチラリと見せつけているのも、少し汗ばんで光っている首筋を見せつけているのも、もしかしたら舞華の作戦の1つかもしれないってわけだ。

 つーか、この家に来てから明らかに誘惑が多過ぎるんだよ。

 下着姿見て、胸触って、縞パン見て.....そんで今また胸チラ見てんだぞ。明らかに異常だろ。不健全過ぎるわ。もう私生活がR15だわ。そろそろ理性の限界なんですわ。

 でも、ここで理性が蒸発してしまえば魔女の思うツボになるかもしれねぇからな......やっぱ耐えるしかねぇんだよな。

 .......なんてことを考えているはずなのに、気づけば俺の視線が自然と舞華のユルユルな胸元へと向かってしまうのはなぜなのか。

 ああ、俺の理性よ。頼むからもう少し踏ん張ってくれ。年下の女の子と2人きりとか初めてだし、ピンクの下着が"こんにちは"してるし、なんか良い匂いするし、なんならちょっとドキドキしてきたけど、耐えてくれ。ここは俺の童貞力を発揮して踏ん張るんだ。頑張れ、俺。まあ童貞力がなんなのかってのはよく分からんけど、とりあえず頑張れ。

「よいしょ、よいしょ......よし、準備できた!!」

「......ゴクリ」

 あー、でもやっぱり見ちゃうわ! やっぱ俺って男の子だわ! チラリズムって最高なんだわ!! 



「......岩崎っち? どうしたの? ボーッとしちゃって?」

「え!? あ、い、いや、べ、別になんでもねぇよ!? よ、よーし! 準備が出来たみたいだし、早速勉強会始めようぜーい!!」

 急に声を掛けられ動揺しまくった俺は、全力で舞華から視線を逸らしつつ、半ば強引に勉強会の開始を告げた。

「な、なんか岩崎っち元気だね......まあいいや。じゃあさ、早速このページの問題の解き方を教えてくれない? 『二重積分』の問題なんだけど」

 そう言うと、教科書を手に持った舞華はテーブルに身体を乗り上げて、さらに俺との距離を詰めてきた。

 って、やべぇ。なんかメチャクチャ良い匂いする。

「あ、あのー、舞華さん? さすがにちょっとコレは距離が近過ぎないかな......?」

「え? これくらい普通じゃない? ふふ、むしろ私は岩崎っちともっと近づきたいと思ってるくらいだよ♪」

「......!」

 いや。マジで可愛(あざと)いな、この子。超あざといわ。でも、なんかそれでも良いと思えてきちゃうから女の子ってやっぱ怖いわ。

 てか、なんなの、マジで? なんで可愛い女の子ってみんな良い匂いするの? どこからそんなに甘い香りがするの?

 しかも距離めっちゃ近いし、さっきよりチラ度増してるし、下手したらマジでポロリズムになりそうだし......

 って、オイ! いつまでもピンク色に染まってんなよ、俺!! そんなんだったら速攻誘惑されちまうだろうが!!!!




「オラァ!!  煩悩退散パァンチ!!!!!」

 そしていつまでもエロ思考を止められない残念な俺は、気づけば強硬手段(がんめんパンチ)を決行していた。

「えぇぇ!? 急にどしたん岩崎っち!?」

「いや、なに。ちょっと自分の『内なる悪魔』を打ち払っていただけだ。よし、もう大丈夫。さあ、改めて勉強会開始といこうじゃないか」

「え......ああ、うん、分かったよ......」

 あっはっは。やべぇ。めっちゃ顔痛いわ。でも、これで少しは目が覚めただろ。まあ、舞華が若干引いてるような気もするけど、そんなの気にしない気にしない。

 よし、そんじゃ気を取り直して行きまっしょい。

「で、俺はどの問題を教えれば良いんだ?」

「あー、えっと、ここの『二重積分』の問題なんだけど......」

「ふむふむ、なるほどなるほど」

 ......ん? 二重積分? ニジュウセキブン......? 

 え、なにそれ......全然知らない人なんですけど。

 いや、まあ『積分』って言葉自体は分かるんだよ。高校で習う数学の分野だからな。なんなら大学入試の時も普通に使ったし、むしろ積分は得意な方だわ。

 でも『二重積分』ってなんなのよ。そんなの全然聞いたことないんですけど。つーか、文系(経済学部)の俺に計算のことを聞かれてもチョット困る.....

 って、え? オイ、待て。じゃあ、つまり舞華って......

「あ、あのー、舞華さん? もしかして舞華さんって理系の学部でいらっしゃいますか?」

「え? あー、うん。そうだよ。私は工学部。えへへ、まあガリガリ計算するばっかで全然つまんないんだけどね」

「な、なるほど......」

 って、いや、ウッソだろオイ。この子ってば工学部なのかよ。ゴリゴリの理系じゃねぇか。え? そんな『The  陽キャ』みたいな見た目で理系なの?

 し、しかし、コレはマズいぞ......だったら文系(おれ)が理系(まいか)に勉強を教えるなんて、絶対無理じゃねぇか......そもそも大学で学んでる分野が違いすぎる......

「ん? どうしたの岩崎っち? 急に固まっちゃって。もしかしてどこか具合が悪いの?」

「え、あ、いや、べ、別にそんなことは無いぞ。うんうん、ニジュウセキブンね、ニジュウセキブン。あはは、難しいよね、ニジュウセキブン」

 やべぇ。舞華のヤツ、完全に『東大生なら分かって当たり前だよね?』みたいな目で俺を見てやがる。

 チクショウ。そんな目で見られたら、ここで今更『俺と舞華じゃ勉強してる分野が全然違うから教えられません』なんて言えねぇじゃねぇか。

 ......クソ、こうなっちゃあ仕方ねぇ。奥の手を出すしか無いみたいだな。

 --そして、『教えられません』とも言えず、ニジュウセキンの意味も分からず。そんな、なす術(すべ)の無くなった俺は最終手段を取るべく、ポケットからスマホを取り出し、スクリーンに向けて高らかに宣言した。







「Hey, Siri。『ニジュウセキブン』について調べてくれ」
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