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第1章「俺と"あの子"と4人の魔女」

魔女は誰?

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 時刻は午前9時。情報収集を済ませてリビングに戻った俺は、このシェアハウス内の自分の部屋がどこにあるのかを芦屋さんに尋ねようとしたのだが--

「今から5人で自己紹介をするです!」

 と彼女から告げられ、気づけば俺はリビング中央のソファーに座らされていた。

 そして現在俺の目の前に居るのは、起立して横一列に並んでいる5人の美女たち。うむ、おそらく何も事情を知らないヤツがこの光景を見せられれば、きっとアイドルオーディションか何かと勘違いすることであろう。はは、なんかそう考えたら俺がプロデューサーになったみたいな気分になってきたわ。

 まあ、5人中4人は俺を騙そうとしている『魔女』なんだけどな。見た目は全員アイドル並に可愛くても、中身まで可愛いとは限らないってわけだ。まったく。可愛い女の子を信用できないってのは辛い話だぜ。



「では早速自己紹介を始めるです!!」

 フカフカのソファーの上で葛藤している俺に向けて、列の1番左に立っている芦屋さんが言う。どうやら5人の自己紹介が始まるようだ。おそらく俺から見て、左から順に自己紹介を行うのだろう。

 よし。ここは1度考え事をやめて、彼女たちの自己紹介に真剣に耳を傾けるとしよう。『魔女』が自己紹介でボロを出すとは思えないが、彼女たちの人物像を把握するのは『魔女狩り』をしていく上で欠かせないことだからな。

「よし、分かった。じゃあ早速芦屋さんから自己紹介をしてもらおうかな」

「了解です! エントリナンバー1番! 芦屋凪沙、いきます!」

 やらたと元気いっぱいで俺に宣言してきた芦屋さんではあるが、果たして彼女は何にエントリーしているのだろうか。もしや俺の嫁候補であろうか。(幻想)

「えっと、私の名前は芦屋凪沙です。最上(もがみ)大学の3年生です。す、好きな食べ物はハンバーグです。あとは、えーっと! ちょっと幼い見た目かもしれませんが、これでも岩崎さんと同じ年です! だ、だから、その! 私のことはちゃんと1人の女性として見てほしいです! これからよろしくお願いします!!」

 はい、可愛い。(現実逃避)

 ていうか好物がハンバーグって。見た目も中身も子供っぽいじゃん。なにそれ可愛い。なんか頭ナデナデしてあげたくなってきた。

 ......いや、待て。少し落ち着け俺。見た目に騙されちゃあいけねぇ。もしかしたらコレは幼い見た目を利用した魔女の罠かもしれないじゃねぇか。もしかしたら芦屋さんは俺の庇護欲を利用して、狡猾なトラップを......なんてこともあるかもしれないじゃねぇか。無条件に彼女を可愛がるのは危険過ぎる。

「え、えへへ......なんか恥ずかしいですね......」

 はっはっは、俺は騙されないぞ芦屋さん。そんな風に頬をポリポリ掻きながら恥ずかしがっても無駄だ。可愛い。そんな分かりやすいトラップに俺は引っかからないぞ。超可愛い。俺は大企業の次期社長だからな。いや、マジで可愛い。

 ......よし、次行くか。



「じゃあ、お次の方どうぞ......」

「お! 次はアタシの番だな! よっしゃ、いっちょやるか!!」

 お。次は君か、おっぱいギャル。さっきはトイレの場所教えてくれてありがとうな。とりあえず自己紹介よろしく。

「アタシの名前は東条(とうじょう)リサ! 南原大学の3年だ! リサって呼んでくれ! あー、あと胸はDカップだぞ! アタシを選んでくれたら、いくらでもアタシの身体を好きにしてくれてもいいぜ、大河!!」

 ふむ、『おっぱいギャル=リサ』か。よしよし、覚えたぞ。

 え? てかコレって1人魔女が釣れたパターンなんじゃね? 先の自己紹介での大胆な発言といい、今も俺の視線を釘付けにして離さないマーベラスな胸といい、この金髪ギャルさんは明らかに怪しい。ハニートラップといえばエロスだからな。身体を売ろうとしてる時点でアウトだ。汝は魔女。罪ありき。


「お、おい、大河。アンタ、さっきからアタシのことジロジロ見過ぎ。さすがにそんなに見つめられたらアタシだって恥ずかしいんだからな......?」

「あ、ご、ごめん!!」

 いかん、無意識の内に胸元をガン見してしまった。いくら相手が魔女候補とはいえ、これはさすがに男としてマズかったな...... 

 つーか、この子って意外と普通に恥ずかしがったりするんだな。なんだよ、可愛いところもあるじゃねぇか。うっかりギャップ萌えしちゃったわ。チクショウ。疑いづらくなっちまったじゃねぇかよ。

「ちょっと岩崎っちー! 何ボーッとしてんのー! 次は私の番だよー!」

 あぁ、すまんな、茶髪元気ガール。次は君の番だったのか。まあ、どうしても俺は君のあざとい感じを怪しまずにはいられないんだけど。まあ、とりあえず自己紹介よろしく。

「私の名前は峯岸舞華(みねぎしまいか)! 北林大学2年生のハタチだよ! 気軽に舞華って呼んでくれたら嬉しいかも! 岩崎っちとは1つ歳が違うけど、私は歳の差とか関係無しで岩崎っちと仲良くなりたいかな! あ、あと身体を動かすのが好きでね! 大学ではテニスサークルに入ってるの! これからよろしくね!」

 年下、テニサー、そして最後は俺に全力キュートスマイルを向ける、か。

 --うむ、この女は魔女だな。

 きっとこの子は今まで数多の陰キャどもを勘違いさせ、絶望の底へと叩き落としてきたに違いない。おそらく彼女はテニサーという『陽』の立場に居ながら、『陰』の者にも分け隔てなくビューティフルスマイルを見せつけるようなビッチなのだろう。フン、ラブコメの小悪魔系後輩キャラにありがちなパターンだぜ。(純度100%の偏見)

 そして『陰』の者は皆、彼女のような『明るくて優しそうな女の子』から笑顔を向けられれば、それだけで好きになってしまうのである。その結果、彼らは勘違いとも知らずに無謀にも想いを伝えて地獄を見ることになるのだ。

 だが俺はそんな甘い罠には騙されないぞ。『優しい女の子は俺以外の男にも優しく接する』という、この世の真理を俺はちゃんと知っているからな。俺を勘違いさせようとしたって無駄だぜ。

「あ、そういや岩崎っちって東都大学に通ってんだよね? 頭良いんだぁ!」
 
 オイオイ、この子はなぜ急に俺を褒めるんだ。別に俺を褒めたって何も出やしない--

「あ、そうだ! 今度勉強教えてよ!」

「......はい?」

「いや、私って結構バカだからさ! 頭が良い大学に行ってる岩崎っちに勉強教えてもらおっかなって思って!!」

 フッ、なるほど。そういう軽い感じで俺を誘って2人きりになろうって魂胆か。俺への誘惑にしては良い線いってるかもしれねぇな。あんまりガッついてる感じしないし。

 だが、そんな甘い言葉に騙される俺ではない。ここは強い意志を持って彼女を拒絶しなければ--

「......岩崎っち? なんで黙ってるの?」

「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事してて」

「あー、もしかして私と勉強とか嫌だった? ま、まあ、そうだよね! まだ仲良くなってないのに、いきなりこんな事言われてもね......そ、その、ごめんね」

 うっ! なんなんだ、そのガチでショックを受けていそうな表情は......!

 だ、騙されるなよ俺...! シュンとしてる女の子を見て心が痛んだ気がするが、それは気のせいだ...! きっと舞華が今落ち込んだ表情を浮かべてるのも演技の一環のはずだ...!

 そう、これは彼女の演技。演技なんだ。演技......演技......演技......

「岩崎っち?」

「あ、あー、うん。ま、まあ? 勉強を教えるくらい容易いことだからな。舞華と勉強するのは別に嫌なんかじゃないさ!」

「え、ほんと!? やった! じゃあ今週末に岩崎っちの部屋で勉強会ね!」

 一応言っておくが、俺は舞華のペースに乗せられたわけではないからな。確かに『可愛い女の子の誘いは断れない』というのも、この世の真理ではあるが、別にそういう理由で舞華の誘いを承諾したわけじゃないからな。

 なんかメチャメチャ喜んでる舞華のことを可愛いと思っているわけでもなければ、自分の部屋に年下の女の子が来ることが決まってソワソワしてるわけでもないからな。そ、そう。これはあくまで監視なんだ。俺はあくまで2人きりになったときの彼女の挙動を観察しようとしているだけなんだ。

 だが、まあ峯岸舞華ちゃんの魔女疑惑は一旦保留としてやろう!! よっしゃ、次いってみよう!!

「え、あー、じゃあ次は私だね」

 なるほど。次は文学系メガネガール、君か。

「えっと、私の名前は音崎千春(おとさきちはる)。呼び方は大河くんに任せようかな。えっと、私は陣葉(じんよう)大学4年だから、歳は大河くんの1つ上ってことになるね。あ、でも敬語は使わなくて大丈夫だから。あとは、えーっと、あんまり喋るのは得意じゃないけど、大河くんとは仲良くなりたいと思ってます。これからよろしくね」

 メガネの彼女は音崎千春、か。随分とシャレた名前だな。でも、さっきまでの3人とは違って結構テンションの低い自己紹介だった気がする。俺へのアプローチもそんなに積極的じゃなかったし。

 あれ? ワンチャンこの子が夢に出てくる『あの子』だったりする?

 ......いや、待て。そういう考えを俺に抱かせるのが彼女の罠かもしれないじゃないか。最初はあえて魔女感を出さずに俺を安心させて、最後の最後に『実は魔女でした! ハッ、ざまぁ!』って言ってくるパターンかもしれないじゃないか。

 危ねぇ危ねぇ。うっかり騙されてしまうところだったぜ。

「あ、一応大河くんが望むんだったらメガネを外してコンタクトにすることもできるけど......どうする?」

「メガネのままでお願いします!!」

「な、なんでそんなに食い気味なの......」

 フン、知ってるぞ。どうせ『大人しい女の子がメガネを外したら超絶美人だったパターン』だろ、ソレ。知ってるから。だからメガネ外すのはマジで勘弁。もうこれ以上自分の心を惑わせたくないし。つーか、千春さんはメガネのままでも十分美人なんだよ。見た感じじゃおっぱいもそこそこ大きいし。 

 よ、よし、次だ。



「うふふ、じゃあ最後は私ね」

 出たな、雰囲気エロエロお姉さん。つーか、胸デカッ!! リサはDらしいけど、絶対それ以上あるな。つーか、ギャルのリサといい、メガネの千春さんといい、この子といい、巨乳率高いな。5分の3が巨乳かよ。なんか芦屋さんと舞華が可愛そうになってきたわ。

「東都大学2年の漆原沙耶(うるしはらさや)です。ふふ、実は私って大河さんと同じ大学の後輩なんですよ? 実は私、料理が結構得意で、これからこの家の食事は全て私が作ることになっています。愛情をこめて一生懸命作るので、たくさん食べてくださいね♪」

 うーん、やっぱりエロい。どうしてもツヤツヤしてる唇に目が行っちゃう。なんか色んな意味で経験豊富そうに見える。

 ていうか......え? この子、今俺の後輩って言った? 嘘だろ? こんな、ザ・愛人みたいな見た目してるのに、まだハタチだって......?(失礼)

「え、漆原さんって東都大の2年なの? ってことは、つまり俺より年下ってこと......?」

「えぇ、私は20歳です。もうっ、そんなに驚かなくてもいいじゃありませんか」

 と、言いながら漆原さんは頬をプクッと膨らませる。まあ、確かにこういう可愛らしい様子を見れば年下っぽい、と言えなくもないか。

「あ、私のことは気軽に沙耶って呼んでくださいね? 大河センパイ♪」

「お、おう......」

 やっべぇ、なんだこれ。違和感しかねぇぞ。エッチなお姉さん (後輩)ってなんなんだよ。なんか変な性癖に目覚めそうで怖いんだけど。

「ふふっ、センパイって意外と可愛いリアクションをするんですねっ」
 
 と言いつつ、唇に右手の指先を当てながらニヤリと笑う沙耶。その仕草から溢れ出るフェロモンは到底年下のものとは思えない。つーか、普通にドキッとした。

 ってオイ。少し落ち着け俺。(n回目)

 こんなのどう考えても魔女じゃねぇか。5人の中で1番怪しいわ。年齢詐称してる説あるだろ、マジで。色気ハンパないって。高級クラブとかで働いてても違和感ねぇもん。

 つーか......やっぱ自己紹介だけじゃ誰が魔女かなんて全然分からねぇな。

 合法ロリっ子の芦屋さん、金髪ギャルのリサ、短髪元気ガールの舞華、メガネっ子の千春さん、後輩系お姉さんの沙耶。なんだか今はみんなが魔女に見える。このうちの1人が夢に出てくる"あの子"だなんて全く考えられねぇ。

「岩崎さん! 何ボーッとしてるんですか! 自己紹介は終わりましたよ!」

「あ、ああ、そうだね......」

 元気いっぱいな芦屋さんに声をかけられて現実に引き戻される。どうやら物思いに耽り過ぎていたようだ。

 うーん、まあ、今はいくら考えても仕方ないか。まずは彼女たちの情報を集めていくことから始めるしかないな。魔女狩りはそれからでも遅くない。まずは下準備が先だ。

 と、自分なりに結論を出してソファーから立ち上がった時だった。

「よし、大河! 自己紹介も終わったしアタシの部屋に来なよ! 2人で話そうぜ!!」

 そんな耽美(たんび)なセリフと共に。なぜか金髪ギャルが甘い香りをフワリと漂わせながら、俺の右腕に抱きついてきた。

「え、ちょ、リサ!? そ、その......当たってるんだけど!?」

「バーカ、当ててんのよ! どう? 柔らかい? 気持ち良い?」

 はい、弾力があって大変よろしゅうございます......じゃねぇ! いや、いくらハニートラップでも行動が早過ぎるだろ! まだ自己紹介が終わったばっかだぞ!?

 いや、まあ......胸の感触は最高なんだけど。

「あ、リサばっかりずるい! ウチも岩崎っちとお話ししたいー!!」

「え、ちょ!? 舞華まで!?」

 すると、今度は舞華がリサに対抗するように俺の左腕に抱きついた。

 ふむふむ、なるほど。控えめな胸も悪くない......じゃなくて! いや、だから手が早過ぎないか!? アンタらは俺からビッチ認定されたいのか!?

 いや、まあ......両手に花みたいな感じだし、悪い気分にはならないんだけど。

「あー、リサも舞華もずるいです! 岩崎さんは私のものなんですぅ!!」

「た、大河くんが可哀想だよ。2人とも離してあげなよ」

「あらあら、大河さんったらモテモテじゃないですか。どうしましょう。私も後ろから抱きついちゃおうかしら」

「なー! 大河は舞華のとこじゃなくてアタシのとこに来るよなー!」

「ちがうしー! 岩崎っちは私の部屋に来るんだしー!!」

「あ、あのー......と、とりあえず俺は自分の部屋に行かせてほしいんだけど......」



 早くも俺(かねづる)を取り合ってバトり始めた彼女たち。果たしてこの先俺はどうなってしまうのか。頭ん中が不安でおっぱい、じゃなくていっぱいだ。
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