上 下
4 / 14

第4話 冒険者登場!

しおりを挟む

 もぐもぐ、もぐもぐ、……ごっくん。
 うーん。この黒パンと干し肉、全然上手くない……。

 想真は異世界で初めての食事をとっていた。彼自身、もう人間ではないので食事する必要はないのだが……。

 あー、暇だー。
 早く侵入者来ないかなー。退屈だー。

 DPが枯渇している今。僕ができることなんて、気長に侵入者を待つのみ。
 ためしにと、ノーマルガチャから出た黒パンと干し肉を食べてみたけど。……あまり美味しくはなかった。

 はぁー。………………うん? あれは?

 僕はダンジョン入り口の様子を映していたパネル画面を、大きく拡大してみる。
 するとそこには、なんと3人の人間が映っていた。

 一人は、赤髪のロングヘアで、なんとなく性格がきつそうな女性。
 今も、呆れた顔をしている隣の茶髪な男に、口早でなにかを言っているようだ。
 そして、その二人の後ろには。水色の髪に、他の二人よりはやや身長が低めな少女が立っている。

 おおー! これは異世界で初の、第1侵入者なのでは!

 興奮した僕は、彼女達の声を聞いてみようと、声も聞けるように設定してみる。

「きゃー! 見てみてこれ! これってあのダンジョンじゃない!?」

「うるさ!?」

 しかし、赤髪の女性の声が予想以上に煩かったので、僕はつい声を出してしまった。

「――誰っ!」

 うわー……。
 僕は頭を抱える。このパネルは万能で、相手に声が届かないようにも出きる。だけど、僕は興奮していて、その設定を忘れていたのだ。つまり。

「ソル、警戒」

「あぁ、わかってる」

 彼女達は、突如聞こえた謎の声に対して、真剣に辺りを警戒し始める。

 そこで僕は考えた。もしこのまま黙っていたら、彼女達は自分の声に危険か違和感を感じて、帰ってしまうかもしれない。
 それはすごーく、困る。
 そう思い、僕は彼女達とコンタクトをとってみることにした。

「あーあー、聞こえていますか? 聞こえていたならぜひ返事をください」

「――っ!?」

「なんだぁ?」

「……(キョロキョロ)」

 彼女達は、また聞こえた謎の声に、どう反応していいか分からないようで。互いに背中を預け合いながら、小声で相談をし始める。
 ……僕には、全部普通に聞こえちゃうんだけどね。

「おいおい、一体どうするんだよ」

「そんなの知らないわよ! 声しか聞こえない相手なんて!」

「……私の魔力感知にも反応はない。でも相手は返事をしてくれと言った。なら返事をして会話すべき」

 おお、この少女めっちゃ頭良さそうだ、顔の表情は全く動いてないけど。

「「シルが長文を話せるだと(なんて)!?」」

「むぅ、失礼な」

 あー。多分、普段は無口な子なんだろうなー。しかも頭がいいと来たか。……髪色を変えてメガネを掛ければ、まさに某宇宙人な彼女だ。

「んー、わかった。俺が返事を返すから、二人は周囲の警戒を頼む」

「分かったわ」

「……(コクリ)」

 よし、僕も心の準備は出来てる。お願いです、いい人達でありますように……。

「俺は、トゥーリスの町を拠点に活動している。Cランク冒険者パーティー『竜の牙』のリーダー、ソルだ! あんたは一体誰なんだ!」

「……ぷっ」

「あれ? 可笑しいな? 聞こえなかったのか? ならもう一回だ。俺は――」

「プハハハハ、竜の牙? なにそれ? 流石にカッコつけすぎでしょ! 竜の牙って、ハハハハハハハ。ハァハァ、ヤバいお腹痛い!」

 うわー、うわー。あんな名前絶対に黒歴史間違いなし! でもファンタジー世界だからOKなのかな! それでも僕は笑っちゃうけどね?

「えっ……」

「あっちゃー、しまったわ。まーたソルの悪い癖が出たわね……」

「ん、やっぱりソルは馬鹿」

「えぇー!?」

 ふふ、面白い人たち。これなら大丈夫そうかも。

「ハァハァ、あーお腹痛かった、っと。初めまして。僕の名前は想真っていいます」

「へー、私はアリアよ、よろしくね!」

「私、シルヴィ」

「くそぅ、もう一度言うがソルだ」

 彼女達は警戒を自然と解いていた。理由も特に無く、強いて言うなら自分達の勘に従ったのだろう。

「僕は、今日開設させたダンジョンのダンジョンマスターです。あなたたち3人が、僕の最初のお客さん侵入者です」

「へ? ダンジョンマスター? なんだそれ?」

「ダンジョンなら聞いたことあるけれど……」

「……知らない」

 彼女達は知らないと言うが、知らないのも無理はない。なぜなら、ダンジョンマスターは想真だけなのだから。

「当然です。ダンジョンマスターは今のところ、世界で僕だけなので」

「うん? つまり想真は世界でただ一人の、ダンジョンマスターってやつなのか?」

「はい」

「へー、そうなのね。それで? そのダンジョンマスターさんは、あたし達に何のご用があるのかしら?」

 アリアさんが笑顔でそう言ってくる、けど目が笑っていない。真剣な目をしているアリアさんを見て、僕は真実を話すか迷った。
 数秒迷い、僕は一部を隠して話すことにする。

「……全然面白くない話ですけど、いいですか?」

「いいわ、話してちょうだい」

「ん、大丈夫」

「俺もいいぞ、あんたの話はなんか面白そうだしな」

 そういって彼女達は黙る。僕の話を聞くためだろう。

「そうですねぇ。僕は異世界で生活していた元人間なんですが。まぁ細かい事情は省き、突然この世界でダンジョンマスターをすることになりました。ダンジョンマスターは、僕の世界で言うとダンジョンを経営する者です」

「異世界だぁ?」

「……凄く昔の本に書いてあったかも?」

 ソルさんとシルヴィさんは首を傾げる。

「……んー、その事情ってやつは話せないのよね?」

「……はい、そうです」

「ならいいわ。私にはよくわからないけれど。例えるなら、大切な故郷を離れ、王都で店を一人だけで経営するような感じじゃないかしら?」

 アリアはそう結論づけた。……実際はそんな簡単な話ではないが。

「所で皆さんは、此処へ何をしに来たのですか?」

「ん? あぁ。俺たちは今、トゥーリスの町から、此処。コラク草原一帯の採取物やモンスター、後は地形に変化が無いかの調査をしているんだ」

「えぇ。コラク草原はトゥーリスの町にとって、とーっても重要な場所なの」

 えっ、草原ってそんなに重要かなぁ?
 言っちゃあなんだけど、そんな重要な場所だとは思えない……。

「……一応伝えておくけれど。コラク草原は、このレインブリーズ王国で一番広い草原よ。本当なら大草原って言われても可笑しくないんだからね。豊富な採取物に、危険なモンスターがいないと他国まで有名なの」

 す、凄いのかな? 多分凄いんだろうね。
 僕はそんなとこに、ダンジョンを開設しちゃったのかー。

 彼はあまり理解していなかった。この世界は危険な場所が多く存在し、コラク草原のような整った環境な場所は数少ないことを。

「ねぇ」

「へ? なに?」

 すると、話の途中で急にシルヴィが喋りだす。

「ダンジョンの経営って、何するの?」

「あ! 俺もそれ気になる!」

「私も興味があるわね。ダンジョンの経営って、一体どんなことをするのかしら?」

 どうやら彼女達は、ダンジョンの経営に興味を持ったようだ。
 うーん。この3人には、ぜひ僕の暇潰しに付き合ってもらいたい。

 想真は、そう思った。しかし、気づいてもいなかった。
 彼女達が、協力してくれる可能性があっても。こんな面白い話をを見逃す3人では無いことを。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独自ダンジョン攻略

sasina
ファンタジー
 世界中に突如、ダンジョンと呼ばれる地下空間が現れた。  佐々木 光輝はダンジョンとは知らずに入ってしまった洞窟で、木の宝箱を見つける。  その宝箱には、スクロールが一つ入っていて、スキル【鑑定Ⅰ】を手に入れ、この洞窟がダンジョンだと知るが、誰にも教えず独自の考えで個人ダンジョンにして一人ダンジョン攻略に始める。   なろうにも掲載中

幻想機動輝星

sabuo
ファンタジー
聖史暦2991年、神族や魔族、人間などが混在する『亜界』に突如現れた謎の敵性存在『フリークス』 亜界がその脅威にさらされる中、東の最果て、極東と呼ばれる地域にある四つの国は協力し、実戦組織SMFを創設、SMFは様々な新兵器を開発し、これに対抗した。 それから26年後、聖史暦3017年。 SMF山城基地で目覚めた記憶喪失の少年、朽木光男。 彼は、彼が記憶喪失する前に開発していたという一機の戦闘機らしきもの、『シューティングスター』を見せられ、これを完成させようと決意する。そしてその開発及び実地試験を行うため、『シューティングスター』を開発した仲間と共に、航空重巡洋艦『近江山城』で亜界の空を行く。 それから時が流れたある日、『総司令』は『幻想機動輝星』というボロボロの本とその内容を文章化したものを手に入れる。それは過去のいつか、『朽木光男』という人物がまとめた、『オケアノス計画』についての記録だった。 その内容に、何か重大な事が隠されていると思った『総司令』は腹心の『大佐』と共に、『オケアノス計画』について独自の調査を始めたのだった。   ・『小説家になろう』との二重投稿です。   ・『小説家になろう』に投稿している物と、異なっている箇所があります。   ・文字数制限のため、『小説家になろう』に投稿しているものを一部分割投稿しています   ・サブタイトルにアニメやゲームのBGM名を入れている話があります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

13番目の神様

きついマン
ファンタジー
主人公、彩人は23歳の男性。 彩人は会社から帰る途中で、通り魔に刺され死亡。 なぜか意識がある彩人は、目を開けると異世界だった!! 彩人を待ち受ける物語。それは、修羅か、悪鬼か、、、

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...